第4話疑う『馬鹿野郎』

菜月なつき、呼んでもらっていい?」

 夏休み明けの隣のクラス。大輔だいすけはドア近くに座っていた女子に声をかけた。彼女に肩を叩かれてこちらを見た菜月は、一瞬眉をひそめたが、すぐに立ち上がってこちらへ来た。

「……何?」

 さっきまで単語帳を見ていた菜月は、仏頂面でそう言った。

「俺の彼女に変なDM送ってない?」

「は?」

 菜月はあからさまに不機嫌そうな声を上げた。

「彼女が怖がってるんだよ。」

「何の話?」

 大輔は成り行きをかいつまんで説明した。

「……菜月じゃないの?」

 菜月は大きなため息をついた。

「私のこと疑ってたんだ。……あるもんね、逆恨みされる心当たり。」


 美優みゆが大輔にバレンタインデーに告白して付き合い始めたのが有名なように、大輔がバレンタインデー翌日に菜月を振ったことは学年中に知れ渡る出来事だった。しかも、大輔が美優と付き合っていることを知っている、二人が所属するバドミントン部の部員たちは、いい顔をしなかった。


 それまで顔を手で覆っていた菜月は顔を上げ、キッと大輔を睨むように見つめ、

「私がそんなことすると思ったの⁉あのときあんなに潔く身を引いてあげたのに⁉」

クラス中に聞こえるような声で言う。

「馬鹿じゃないの、いや、馬鹿なんだよね。馬鹿野郎なんだよね!だから順番も礼儀作法もわからないんだよね!」

 菜月はそう叫ぶと、ふらりとその場に泣き崩れた。女子数人が駆け寄って、「保健室行こう、ね?」と菜月を立たせ、大輔を横目で睨みつけながら教室を出て行く。

「おい、お前たち席に着きなさい。」

 ちょうど教室に入ってきた担任の声で、生徒たちは自分の席へ戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る