四章 2

 世間一般的に言われるおやつの時間を四十分ほど過ぎた頃。俺は予定通り葉山美咲と学校の前で合流した。

「待たせたか?」

 ベージュのブレザーを身に纏った女子高生の流れを横目に校門近くの緑色のフェンスへ寄りかかり、右手で体を支え、左手には携帯電話を持って俯く美咲に、そう声を掛ける。

 こちらに気づき顔を上げた彼女は、怒るでもなく呆れるでもなく、だたただ表情筋を使うことなく口を開いた。

「今、連絡しようと思っていたところよ。たぶん、二分も待ってないわ」

「そうか」

 と、軽く返事をしつつ、周りの視線を少なからず集めていることに居心地の悪さを感じて、「とりあえず駅まで行こう」と移動を提案し、来た道を戻る。ただ、わかってはいたが、それだけで簡単に解決するような問題ではなかった。視線をくれる女子高生の殆どが、俺たちと同じ方向、同じ駅へと向かっているのだ。

 まぁ、当然だろう。電車で通っている生徒が相当数いると以前、葉山美咲も言っていたくらいだ。かといって駅以外へ向かうのは時間の浪費だろう。ここは諦めて、少しでも気にしないよう軽く世間話でもすることにした。

「そういえば、そろそろ夏休みか?」

「えぇ、今週の金曜が終業式ね。まぁ色々とあったから前日まで普段通りの時間割なのが憂鬱なくらいかしら」

 横には並ばず一歩下がった位置を歩く美咲は気だるそうに答えた。故に釘を刺す。

「面倒だからって、サボるなよ?」

 すると美咲は歩調を合わせ隣に並ぶと、不満げに言った。

「残り三日が耐えられないほど、子供じゃないわ」

「さいですか」

 返事をしながら道を曲がる。商店街に入り賑やかさが増した。

 と、言っても、まだ日が高いからだと思うが、表に出ている人はそこそこだった。

 暑いというのは寒いと違って厄介だ。なにせ人間には暖かくする為に出来る事が多くあるのに対して、涼しくなる為の手段が極端に少ない。と言うのは少し語弊があるか。つまり着込むことの限界と脱ぐことの限界に差があるということだ。

 もちろん、見た目というものを考えに入れない場合の話ではあるが。

「それで、今日はどこへ行くの?予定では杉村純也の住んでいたマンションだったと思うけど」

 最寄の駅が遠くに見えてきたからだろう。予定の確認をされる。どうでもいい思考の中へ突然放り込まれた石に反応が少し遅れ、言葉を詰まらせた。

「あぁ、うん。…それで問題ない。時間もあまりないしな、手短に済ませよう」

 俺がぎこちなく返している間にも前を歩く女子高生たちが、カラオケやコンビニ、百円ショップやゲームセンターへと、吸い込まれるように数を減らしていた。どうやら、駅へ直行するのは極少数のようだ。

 確かに俺と純也も学校帰りは寄り道をしていたし、バイト先のゲームセンター若肉にも学校帰りの高校生などがよく訪れている。そう考えると驚きは自然と失われた。

 そして駅に着いてふと振り返ると、隣を歩く美咲と同じ制服を着た女子高生は一人も居なくなっていた。


 六時を目前にしても空が暮れることはなく、公園からは未だに子供たちの元気な声が聞こえてくる。

 俺は美咲と共に、屋根が赤く外壁はクリーム色のかつてキノコハウスと呼ばれたこともあるらしい家へと、歩みを進めていた。

 なぜそうなったかと言えば、美咲からの提案があったからだった。

 純也の住んでいたマンションとその周辺への聞き込み、内容は「誰か最近見かけなくなった人は居ないか?」というものだったが、これまでと同じで空振りに終わった。

 午後五時になり、どこからか子供たちに家へ帰る時間だと知らせる鐘が鳴ったところで俺は、「今日はこれくらいにしておくか」と言った。

「そうね」

 そう普段通りに美咲が返事をし、駅へと歩き出そうとした時だ。

「ねぇ、この後、予定って空いてたりするかしら?」

 と、言葉が続いたのだ。

「何かあるのか?」

 俺が足を止めて聞き返すと、彼女は簡単に説明をしてくれた。

 昨日、急な用事が入って今日から両親が三日ほど家を空けること、だからこの機会に純也が住んでいた痕跡が残っていないか調べてみるのはどうか?そんな提案だった。

 本当なら先に両親のほうに話を聞いておきたかったが、美咲に、「両親は今ピリピリしてるから無理だと思うわ」と言われ、後回しにしてきたのだ。

 まぁ、実際のところ、ここ最近は能島先生に焦点を絞って考えを展開していたので問題は特に無かったが、機会があるのならと俺は頷き、それを返事とした。

 それから一時間近く掛かってしまったが、約二ヶ月ぶりに旧杉村邸を目の前にしていた。

 変わらず桃、白、緑と三色の自転車が玄関横のスペースに並んでいる。

 ドアノブの上にある鍵穴を二箇所、下から順に学校指定の鞄から取り出した鍵を使って解錠していく。流石にオートロックやエレベーターの無いマンションとは違って、複製の難しいディンプルキーだった。などと考えているうちに解錠が五秒足らずで済むと、美咲は外開きのドアを引き、「どうぞ」と言って俺を家の中へと招きいれた。

 当然の事ながら明かりは点いておらず玄関はやや薄暗かったが、外からの光が差し込んできているので、何も見えないというわけではない。

 俺の向かって右には靴をしまって置くのであろう扉のついた背の低い戸棚があり、その上には、薔薇だろうか?薄いピンク色の花が花瓶に入れられ招き猫と一緒に、横に長い綺麗な敷物の上に並べて飾ってある。あと戸棚左側の戸だけ付け替えたのか、右側より少し真新しく見えた。

 そして反対側、向かって左には五本のおしゃれな傘が刺さった傘立てと、壁のフックに引っ掛けられた靴べらが見えるくらいで、他には何も置かれてはいなかった。

 バタンと意外にも大きな音をたてて玄関のドアが閉まり、「ただいま」と美咲は小さくため息のような声を発して、靴を脱ごうと左の足を後ろへ上げた。その時だ。正面に見えていた扉がキィと不気味な音と共にひとりでに開いた。

 美咲の動きが止まったのが横目に映る。が、それに気を取られていても仕方がないと正面に視線を集中させた。磨りガラス越しに影が動き、人が居るのだと分かる。安心は出来ないが、得体の知れない物の怪の類ではないと不安の種が一つ消えた。

 やがて姿を現したのは長身の男性で、誰かと思えば杉村純也の、今は葉山美咲の父親その人だったのでホッと一息、緊張が解ける。

 美咲も一旦靴を脱ぐことを止めて足を下ろした。そして口を開く。

「出掛ける予定だったはずよ。何故居るの?」

 その声は反抗期と言って片付けられない程に冷たく、敵意を剥き出しにした物だった。

 それに対して父親が驚いたわけではないだろう。美咲の前、一メートルくらいで足を止めると、俺に一瞥をくれた後に彼女へと視線を移した。

「またか、こいつは誰だ?」

「とんだナンパ野郎よ」

 おいおい冗談が過ぎるぞ。と訂正しようとしたが、父親に睨まれたので断念する。

「冗談よ。友達探しを手伝ってもらっているし、手伝ってあげてもいる。そんな協力関係にある人ね」

 その説明も誤解を生みそうなものだが。と、思う。

「そんな奴を家に連れ込んで、どうするつもりだ?」

 案の定、美咲の説明もそこそこに、疑いを深め次の質問が飛んできた。

 美咲は表情も態度も変えることなく、ただ言った。

「別にどうもしないわ」

 その言葉が美咲の父親に届いた瞬間、いくつかのものが俺の視界に入った。

 一つは父親が振り上げる右手。一つは先ほど父親が出てきた扉に新たな人影。一つは美咲の小さく浮かべた笑み、口元の緩みだ。

 それらはこれまで何かあるのだろうと引っかかりはしたが、考える必要はないと無視してきた断片を瞬時に繋ぎ合わせた。

 俺はゆっくりと口を開き、そして精一杯の大声で短く、警告を言葉にした。

「打つのを止めろッ!でないと奥さんに殺されるぞッ!」

 それに反応を見せたのは二人だ。父親と、磨りガラスの向こうにいた母親だろう人影。隣に居る美咲は変わらず微かな笑みを浮かべたまま、次の言葉を待っているようだった。

「どういうことだ?」

 威圧的な眼光と剥き出しの怒りを納めることなく、振り上げられた右手を下ろしながら父親は俺に顔を向け、そう言った。

 恐れが無いわけではない。が、ちゃんと説明する為にも肩の力を抜き、一度息を吐いてから俺は口を開いた。

「そうですね。まずは事の始まりから。俺は正確な時期を知りませんが、娘さんである葉山美咲は学校で問題を起こしました。それは友人と呼べる人間どころか、完全に孤立してしまうような問題だった。当然、親である貴方にも事の説明はなされたはずです」

 父親は黙ったままで頷いた。

「そんな中、葉山美咲は学校をサボります。理由は学校で孤立したから…いや、違います。両親との考え方のズレが生じたからだと、俺が働いている場所でサボっていた彼女から聞いています。問題を起こした理由を言っても理解されず、生き方すらも否定されたのでしょう。俺はその事を愚痴として聞き、そして俺は自分の考えを言いました。『親と子にズレが生じるのはしょうがない』。こんな感じのことをです。

それを聞いた彼女は独り言のように口にしました。『私、頭の出来が良いことも取り柄だもの、失念していたわ』と。

 たぶん、今の状況は、この時に始まったんだと思います」

 一度言葉を切り、間を作った。怒声が飛んでくると踏んでのことだ。

 でも予想に反して、五秒近く待ってみても言葉が飛んでくることは無かった。流石、杉村純也の父親をやっていただけのことはある。少なくとも冷静さを完全に失ってはいないようだ。ならば一々身構える必要もないか。と、続けることにした。

「先に断っておきますが、最初に愚痴を聞かされた時は住んでいる場所どころか、通っている学校や名前すらも知りませんでした。数日後の日曜日に、すぐそこの公園で偶然再会するまでは、です。

 その時、俺はこの近くにある親友の実家を訪ねる予定でした。そして再会した彼女にもその日、予定があった。それは合コンです。その合コンは昼から夜にかけてでした。

 少し話を戻します。俺は親友の実家を訪ねると言いましたが、理由は行方知れずの親友を捜す為の手がかりを求めてのことです。それについて色々と話す内に再会した彼女にも詳しく話を聞きたいと思った。だけど、彼女は合コン参加の為に、待ち合わせ場所へ向かっている途中でした。

 そこで彼女に提案をされます。合コンの後なら空いている、と。俺は頷き彼女が手に持っていた小さなカバンから取り出した手帳のページに電話番号を書いて渡しました。連絡は八時から十一時までにすると言われ、その場は別れます。

 その日の夜、九時過ぎでした。公衆電話から携帯電話に連絡が来ます。駅前のインターネットカフェで時間を潰していた俺は、すぐそこの公園へ向かっている途中でした。その事を伝えると公園で待っていて欲しい。三十分ほどで着くはずだ。と、言われました。そして公園に着き少し待ったところで、彼女がやってきた。団子だけを持ってです。

 ただ、夕飯を食べていなかった俺にはありがたかった。それを一本貰い、話をしました。時間はあっという間に過ぎ、十時半も近くなったので翌日改めて、ということでその日は解散したんです」

 そこでもう一度言葉を切った。今度は間を意図的に作ることはしない。唾を飲み込み、すぐに再開する。

「次の日は月曜日、放課後に連絡を貰う予定でいましたが、その日は脱線事故がありました。故に予定は前倒しされます。学校の前に来て欲しいとの連絡を貰ったので、すぐに向かいました。学校前では知り合いの藁谷真花という人を紹介された。ちなみにその名前に聞き覚えは?」

「ない」

 首を振るでもなく、やや食い気味に即答される。

 まぁそうだろうな。と、思いつつ先に進めようとしたところで、続けて聞き返された。

「まだ長いのか?」

 その質問には首を横に振って答える。

「もう少しで終わりますよ」

 それで納得したのか、腕を組み体重を掛ける足を変えて、顎で先を促された。

「学校前で会った葉山美咲には前日からの変化がありました。それは右頬の怪我です。そしてそれについて俺が訊くと、彼女はわざわざ左手で右頬に触れた。右頬に触れるために左手を使うのは不自然です。加えて右手を使わないよう気をつけているようでした。耳打ちをするときや、彼女から手を繋ぐために伸ばされたのも左手だった」

「なッ!」

 驚愕。正にそう言うに相応しい表情を見せ、声を上げた。ただし、それは刹那の事で、瞬きを挿んだ先には、怒りを露わにして組んでいた腕を解き、力任せに拳を作って振りかぶろうとしているところだった。

「馬鹿な親ね。少しは考えながら聞いて欲しいわ。彼は関係ないでしょう?手を繋ぐために伸ばされただけじゃない。手を繋いだなんて言っていないわ」

 最初の一言で父親は動きを止め、視線と言う名の矛先を美咲に向けた。

「ストップ!ストップ!最後まで大人しく聞いてください。それとお前も要らない挑発をするな」

 今にも殴り合いを始めそうだった両者に、そう釘を刺す。それから一触即発まで戻ったことを確認すると、再開した。

「その脱線事故があった月曜日から更に四日後の金曜日です。突然俺のバイト先に現れたこいつと駅近くのファミレスで話した帰りのことでした。『家まで送るよ』。俺のそんな言葉にこいつは『この前みたいな誤解はごめんよ』と、言ったんです。そして今日、この玄関を見て葉山美咲の描いた家族崩壊のシナリオを理解しました」

 言い終えて俺は深く息を吐いた。

 十秒ほどの静寂が訪れた後、父親が口を開く。

「お終いか?」

 その声に美咲は堪えきれずといった感じで笑い出す。

「ここまで説明されても解らない当事者は救いようが無いわね。でも、自分で説明するのは面白くないから、続きもお願いするわ」

 そんな態度に俺はやれやれとため息をついて、もう一度。「挑発は控えてくれ」と、釘を刺して、十を語ることにした。

「そうですね。まずきっかけは親子の間に生まれた軋轢です。それが親の思っているよりも子供のほうで肥大化した。そして時を同じくして、俺という登場人物が現れます。それらが両親の排除計画を立てるに到らせました。

 これは想像です。本当のことは葉山美咲本人に聞くしかありませんが。たぶん、こう言うことだったんだと思います。

 合コンが終わった後、彼女は団子を買って公衆電話から俺の携帯へ連絡を入れた。ただし、その公衆電話はすぐそこの公園の物を使ったんです。そして俺が公園の、この家から見えない位置のベンチに座るのを確認してから、わざわざ公園で話してくると言って家を出た。

 何故か?それは注意を向けるためです。夜九時を過ぎてから電話ではなく公園で、誰と何の話があるのか?帰り際に時計を確認していたことも踏まえると、どれくらいで戻るかも伝えていたんだと思います。そしてあなたは俺と彼女が別れるところを見た。それは後日のこいつの言葉からも明らかです。『この前みたいな誤解はごめんよ』。これは公園で別れたところを見られ、色々と言われたからだった」

 表情が険しくなる。合っているのだろうと、安心して先を続ける。

「次に、俺と別れた美咲は家へ戻ります。玄関へ足を踏み入れ、あなたと対峙した。今と同じくです。それから口論になり、あなたは美咲を打った。あまり力を入れたつもりは無かったが、それでも美咲は右へ、あなたから見て左へと倒れる。靴箱として利用されている戸棚にぶつかり、右腕を痛め右頬に傷を負った。

 招き猫の一体はその時に落ちて割れたんでしょう。後日、壊れてしまった扉を直すついでに、代わりの花瓶をそこに置いた。

 更に母親は目撃者となりました。帰りが少し遅かったり、学校での問題があったとは言え限度はある。娘を打って頬に傷をつけたことは大きな不満になった。

 これで下準備は完了です。後は両親それぞれの不満を少しずつ爆発寸前まで持っていき、仕事で家を空けると装った両親目掛けて、俺を抱えて挑発しつつぶつかるだけだ。

 排除計画。彼女の考えたそれは単純ですが、実に効果的なものだった。父親か母親のどちらかに泥を塗り、信用を落として、もう片方に殺させる。頬に怪我をして右手を庇う動作を見せていれば、そういえばと後から思い出す人間も出てくるはずですし、肝心の目撃者は偶々一緒に居た俺がいます。もちろん俺はイレギュラーに対応させるという役目もあったんだと思いますよ。例えば、父親を殺した母親が自殺するのを止めるだとかです。何せ、自殺をされると殺した疑いを持たれる人間が増えてしまうので」

「大体のことは理解した。だが、疑問も残る。ある程度臨機応変に動いたとしても、お前が美咲と一緒になって計画を進めない限り綻びは生まれるはずだ。現に今、お前が警告したから計画は失敗した。どうしてここまで上手く事が運んだ?公園のベンチに座る場所。あれは指定されたわけではないのだろう?」

 先程より随分と落ち着いた。というよりは諦めを感じさせる声で質問をされた。

 それに俺は苦笑しつつ答える。

「人間誰しも叱られれば注意しますし、褒められたら調子に乗ります。合コン前に公園で話した時、俺は焦りました。行方知れずの友人へ繋がるかもしれない手掛かりを目の前にしたが故に。それを葉山美咲は『焦るな。頭の出来が良いのだから』。と、たしなめた。注意深くもなりますよ」

 信用できない大人よりは信用できる。とは、よく言ったものだと、今にして思う。出会って間もない「とんだナンパ野郎」を、自分の計画に組み込むほどに信頼していたわけだ。

 そうか。と、美咲の父親は合点がいったようだった。俺を見て言う。

「つまりお前は友人を探すため、私にも聞きたいことがあるわけだな?」

 その言葉に俺は少しばかり驚いた。この状況からどうやって話を聞こうかと思っていたくらいだ。故に頷き質問を投げ掛けた。

「杉村純也。俺と同い年で背はほとんど変わらない。そんな男に心当たりは?」

 僅かな時間考える素振りを見せた後で、

「ない」

 そう答えた。すると、それを待っていたのだろう。美咲は靴を脱ぎ始め、

「じゃ、そこを退いてくれる?まだやることが残ってるの」

 と、言ってやや強引に父親をリビングへと引っ込ませた。

「それで、私の部屋は二階の奥にあるけど、そこでいいのかしら?」

 一足先にスリッパに履き替えた美咲が訊いてくる。頷き答えつつ、俺も用意されたスリッパに履き替えた。

 玄関正面すぐの所にある階段を、先を進む背中を追いかけるように上がっていく。その途中、俺は一つ質問をした。

「玄関の反対側に外へ出れる場所はあるか?」

 一応、覚えてる限りでは勝手口があったと思うが、念の為に訊いたのだ。

「勝手口があるわ」

 歩みを止めることなく、答えてくれる。

 記憶。いや、記録に間違いは無く、変化も無いようだ。

「なら一つやりたいことがある」

 と、俺は階段を一足先に上りきった背中に提案した。

「何をするって言うの?」

 俺が階段を上りきった所で、振り返った美咲は聞き返してくる。それにほくそ笑み、簡単に説明を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る