第28話、人生の終着点って…
ゴーレム鉄道自体は、それほど難しいことではない。
ただ、地上を高速で走行させると、それなりに事故の可能性がある。
航空便も検討したようだが、ランは地下鉄を選択した。
土を固めてトンネルを作ってしまうのだ。
先頭車両自体をドリル形状にして、万一トンネルが崩れた場合でも自走可能としている。
この地下鉄は、磁気浮上式を取り入れており、推進力は風魔法を使っている。
タイヤもついており、速度が上がるにつれて車載ジェネレーターにより発電され、その電気で発生させる磁力により浮上する仕組みである。
日に一回はメンテナンス車両を走らせトンネル自体を点検・補強していく。
鉄道の利点は、積載量にある。
水揚げされた魚類だけでなく、農作物・木材・人間を輸送する。
「地下鉄とは、ランにしては地味な方法を選んだな」
「そうでもないの、時速300kmを超える地下鉄なんて史上初なの」
「チロルにもコメが供給されるようになって、生活も安定してきたな」
「おコメも魚も、売り上げはリュージアムに還元されるから、こっちもウハウハなの」
「チロルはラーメンを生産させてるから、お互い様だろう」
「ところがどっこい、スープはリュージアム産なの」
「そうなると、チロルのほうでも何かやらせるか」
「チロルは、与えられることに慣れすぎちゃってるから難しいの。
リュージアムは働かなければ食べていけないから必死で働くし、自分たちで工夫するくせがついてるの」
「リュージアムだって、相当与えてるだろう」
「生活に必要なものと輸送手段だけなの。あとは自分たちで工夫してるの」
「そういえば、リゾートの方はどうなってるんだ」
「条件整備は終わって、販売を開始してるの。
予約で8割は埋まってるから問題ないの」
「ホントに一軒10億で売れたのかよ」
「オプションのメイドゴーレムのリースも好評なの。
あとはお城を改築した滞在型ホテルのオープンと直行便の開拓なの」
某国、原子力潜水艦内部。
「おい、あの島の状況を映像に撮ると、なんで山と木しか映らないんだ」
「不明です!」
「しかも、一定の海域に入るといつの間にかUターンしてるじゃないか」
「艦長、島から通信です。
『詮索はヤメロ、これ以上接近すると敵対行動とみなす』
以上です!」
「くそっ、
領海は
同盟国だぞ。国の方は何と言っている」
「チロル島は、自治権を保有しているため、国は関与できないとのことです。
チロル島からは、目的を明確にしない限り応じないそうです」
「くそっ、漁をするのじゃなく、鉱物採取が目的でもないならどういえばいい。
生物なら行けるんだろう、偵察部隊はどうだ」
「試しましたが、動力を使ったものは入れません。
370km人力で泳ぐとなると…」
「偵察衛星もダメ、無人機は帰ってこない。海もダメ。
お手上げだと司令部に報告しとけ。帰還する」
「了解です」
同時刻、洋上のクルーザー船では…
「こんなところまで来て、スナップ写真一枚撮れないんじゃあ、デスクに何言われるかわかんねえぞ」
「やはり、ゴムボートで上陸するしか…」
「誰だよ、排他的経済水域なんて決めた奴は!
世界中のセレブの、更にトップしかアクセスできない島なんだぞ。
例のPVに出てきた人魚は何なのか!クジラの餌付けは事実なのか!
取材拒否、入島不可。ドローンも操縦不能。船も入れない」
「先輩、船が故障したとSOSを入れてはどうでしょう」
「おお、ナイスアイデアだ!」
『S.O.S、船故障、自力走行できず。応援を請う…』
『遠隔で誘導します。最寄りの港まで…』
「せ、先輩、船が勝手に動いてます…」
「本当に、外部から監視されない環境を作るとはな」
「ええ、そこは自信を持っております。
ですが、軍部を動かして確認されるとは思いませんでしたわ」
「残っているのは5軒だったか…」
「ええ、あっ、こことここは決定しました。残り3軒です」
「分かった!ここにする。
メイドゴーレムとやらを2人つけてくれ」
「ありがとうございます」
「そんな孤島で、生活に不便はないのかね」
「ネットで購入できるものは全て対応しておりますし、アラソンと提携しておりますので、ご不便は無いと思います。
ただ、クラブとかシアターのようなものはございませんので、娯楽目的には不向きでございます。
その代わり、釣りでもなんでも、マリンスポーツは充実しておりますよ」
「まあ、残り少ない時間を、婆さんと二人で過ごすだけだよ。読書ができて、世界の喧騒から開場された場所なら最高だね」
「でしたら、最適でございます。
私ども、メイドゴーレムには余計な気遣いは必要ありませんし、喋るなと言われれば許可のあるまで黙っております」
「それで、料理や洗濯など、すべて賄ってくれるというのか」
「付き添いが必要であれば、何がありましてもお守りいたします。
必要な家事は夜中にいたしますので、ご満足いただけると思いますよ」
「ああ、契約させてもらおうかな」
「はい、ありがとうございます」
「なんだよこれ!相続以外で転売不可って!
それで10億ってボッタクリじゃねえか」
「どうしてもという事で、ご案内に伺いましたが、やはりお客様には不向きの物件ですよね」
「なに!」
「滑走路や島の購入。プライバシーの確保など条件の整備にどれだけの資金が必要かお判りになっていないですよね。
現代社会で、ここまでプライベートな空間はございませんし、このサービスはそれを必要とされる方に向けたものでございます。
投機目的や他の方のプライバシーを侵害しそうなお客さまにはご遠慮いただいておりますので」
「こんな条件で10憶も払う人間がそういるもんかよ」
「あっ、今79棟目が契約されました。
では、これで失礼させていただきます」
「待てよ。滞在型なら、誰でも宿泊できるんだろ」
「いえ、マスコミ系の方はご遠慮いただいておりますし、現地の情報をリークしそうな方はお断りしております。
ではこれにて」
「俺は映画を撮りたいだけだ」
「当方には必要ございませんので」
「ねえ、私みたいに独り身で、残りの人生をゆっくり過ごしたいって場合も同じ条件なの?」
「例えば、滞在型で30年過ごされますと同じ金額になります。
どちらを選ぶかは、お客様次第です」
「完全な空間を求めるなら買えってことよね。
ねえ、メイドゴーレムって話し相手になってくれるのかしら」
「私と同じ性能でございますから、ご自身で判断してくださいね」
「不備があった場合には全額返却ね。だけど、こんな契約をする人ってのも興味あるわよね」
「契約者の個人情報は、一切他言いたしません」
「いいわ、契約する。メイドさんは一人お願いよ」
「ありがとうございます」
こうして、チロル島リゾートは完売した。
世間の喧騒を逃れたい人や、余生をゆっくり過ごしたい人。
理由はさまざまである。
約半分の屋敷には人が住み、ガーデニングや散歩に出る人。マリーンスポーツを楽しむ人など、思い思いの生活を楽しんでいる。残りの半分は、空いた時間に訪れるようだ。
庭でご近所さん同士バーベキューを楽しんだり、自分で釣ってきた魚を料理したりする。
俺も、時々は城の最上階でリズたちと食事したりしているし、世界的に有名な小説家のおっちゃんとエロ話をしながら酒を飲むこともある。
こんなところの生活が、人生の最終目標ってのもいいんじゃないかと思っている。
点検口をあけるとそこは異世界だった モモん @momongakorokoro3
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