第25話、戦争が始まった

「ちょっとまてよ、アレが使えるかな」


「なんだよアレって」


「いやな、物理障壁って攻撃や体に被害の出る飛来物じゃなければ効果を発揮しないだろ」


「ああ」


「だから、この間試したヤツを召喚してやろうと思うんだが…」


「だが、お前には効果なかっただろう」


「ああ、俺は迷宮で耐性ができてるからな」


「だが、敵側にエラン導師がいたら怒鳴られるぞ」


「エランさんは、今回参加しない。

訓練の効果を見るんで、観戦に回るってさ」


「じゃあ」


「ああ、多分いけると思う。14人に対して100人もいれば十分だろう」





「多分、ノルンがなんか仕掛けてくると思うが、気を抜くんじゃないぞ」


「「「おお!」」」


ドーン!


「おっ、始まりだ。『浮遊(レビテーション)』」


ドシャー


「それにしても、すげえ雨だな…」


ゴゴゴゴゴッ、ムクムクムク


「なっ、なんだ…」


「隊長!こ、これは…」


「惑わされるな!ノルンの罠だ、振りきって飛び上がれ!」


「やめろ!そんなとこ触るな…むぐぐ」


「ああ、魔力が…吸い取られる…」


「空気法で撃ち落とせ!ムグッ」




「おい、あいつら、なんかおかしくねえか?」


「は、裸の女が…まとわりついて飛び上がれないんだ…」


「あ、あんなこと…」


「一人に対して、5・6人がまとわりついてる」


「あれ、サキュバスじゃねえか…」


「ああ、小さな羽とシッポがある…」


「き、気持ちよさそうだぞ」


そう、カベオの作戦は、100体のサキュバスを直近に召喚し、魔力を吸い取りつつその場にくぎ付けにするものだった。

悪魔召喚の中でも、サキュバスは術者の対価を必要とせず、魔力や生気を吸い取って満足すると帰って行くというものだ。

訓練によって底上げされた魔力も、5・6体のサキュバスに吸われればカスカスになる。



「ば、バカモノ共が…」


「も、申し訳ございません…

まさか、あのような攻撃が来るとは…」


「現れた直後に離脱する余裕はあったはずだ」


「そ、それが…、あまりにも美しい女性であったために目を奪われてしまい…」


「サキュバスは対象の好みにあわせて姿を変えるというからな。

だが、本当の戦争であれば流石に対処するであろうが、紅白戦という気の緩みを突かれたというところか。

それにしても、全員が引っかかるとは…」


「「「申し訳ございません」」」




「先輩、どうでした、アレは」


「ああ、気持ちよかったぞ」


「一応は、常習性が残らないように調整しましたからね。

すっきりしたハズですよ」


「怒られるだけの効果はあったって事か。

だが、魅了は効かないハズだろう。なんでだ」


「魔法障壁の外からは効きませんが、接触してしまえば障壁の内側ですからね」


「そうか…、油断が全てというわけだな。

まあ、明日の反復訓練は罰ゲームとして受けるか。

だが、アレを実践で使われたらヤバいな」


「ええ、こちらの最終兵器にしました。

女性兵士がいれば、インキュバスも使います」


「せめて、今回と同じように、後遺症が残らないようにしてやってくれ。

公衆の面前でアレをやられたら、立ち直れないぞ」


「考えておきます」




「そうか、あそこまで吸われると耐性ができるんだな」


「ええ、ですから普通は20%くらい吸うと満足して帰っていくんです。

吸われた方も多少の疲労感は感じますが、幸福感の方が大きい。

だから、インキュバスやサキュバスは、敵を作らないんです」


「そうなると、もう半分もどこかで耐性を作っておいた方がよさそうだな」


「そうですね。この戦争が終わってからでいいでしょう」


「ところで、ワシのような年寄りにも効くのか?」


「ええ、年齢や性欲の強さは関係ないみたいです」


「なあ、ものは相談だが…」


「ああ、分かってますよ。今度、迷宮の隠し部屋でやりましょう。

自宅や人前じゃ出来ませんからね」


「すまんが、よろしく頼む」




こうして、決戦当日を迎えた。


「みなさんに残念なお知らせと、うれしいお知らせがあります。

どっちから聞きたいですか?」


「うれしい方からお願いします」


「うれしい方は、東側の国ソートランドが進軍してきていると情報が入りました」


「げっ、どこがうれしいんだよ」


「魔法師チームのA班はソートランドの対応に当たってください。

混乱に乗じて、漁夫の利を得ようという卑しい国です。

実践ですから遠慮なしで戦えます」


「…いや、思う存分ってことは、死人が出るよな…」


「まあ、死人が出てもいいやくらいの気持ちで対応してください。

悲しいお知らせは、トウレ国とクツル王国が謝罪してきました。

でも、ご安心ください。

Bクラスの魔法師による模擬戦をすることに決まりました。

ですから、ホールの深さを1mにして、雷とレンズは使いません。

魔法師B班はライズ国だけ対応してください。

ライズ国は予定通りたたいて結構です」


「なんか、どっちも中途半端な感じ」




トウレ国相手はジュリに決まった。


「申し訳ございません。うちのバカ王子が失礼なことを申しましたようで」


「いえ、おかげで私たちも充実した一か月を過ごせました。

戦争という具体的な目標がなければ、ここまで本気で取り組むこともなかったでしょう」


「それは魔道具に対してですか?」


「ええ、魔法の勉強などしたこともない私が、実践で使える魔道具を作れるなんて思ってもみませんでしたから」


「その魔道具というのは?」


「この黄色いいリングです。ここに今回使う一連の攻撃魔法が書き込んであります。

青いリングは障壁などの防御用で、赤いリングは攻撃を抜けてきた人が出た場合の補助攻撃です」


「その、何か試し打ちのできるようなものはありませんか。

なにしろ魔道具など見たこともないものですから」


リン先生に確認すると空砲を使っていいということだったので、練習の時に使った二本線入りの赤いリングを出して中身を確認する。


「このリングは、魔法効果を9倍に引き上げ、空砲を発射するものです。

命中補正もついていますから、狙った標的を外すこともありません。

装着いただいて、そうですね、あそこの岩を狙って魔力を流してください」


「岩ですね」


ドン! バフン!


「す、すごい!3種類の魔法が一瞬で発動できるなんて…」


「連射可能ですし、これがウィンドカッターなら相手の魔法障壁を打ち抜いて二発目をあてられます」


「どんなに優れた魔法師でも倒せると…」


「この防御用のリングをしていれば防げますけどね。

障壁を破られても、瞬時に復元できますから」


「まさか今回の…」


「切り札として用意はしていましたけど、模擬戦では使いませんよ。

ただ、それでも地獄を見るでしょうけど…トウレ国では精神障壁は使っていますか?」


「いえ、魔法障壁と物理障壁だけだと思います」


「今回、幻覚も併用していますから、どう対処されるか見ものですね」


「…」



「王子、敵は魔道具師の女一人だそうです」


「なめやがって、おい、魔法障壁と物理障壁を張れ」


「まだ戦闘開始になってません」


「かまわん。開戦と同時に全力で突進だ。身体強化と高速移動も全員にかけろ!」


ドーン


「いっけー!女の首をとったら昇進させてやる」


オオーッ


「なんだ、あの雲は…雲なんぞ気にするな、突っ込めー」


ドシャー


「うっぷ、前が見えねえ」


ゴゴゴゴゴ


「な、何だ?」


「王子!悪霊が!うわー」


「怯むな!ウップ…」


ゴゴゴゴゴ


「地震だ」 「うわー!」


「あ、足元が…」 「ドラゴンだ!」 「ゾンビだ!」 「く、食われる…」


うわっ! ドーン


「お、王子…だ、大丈夫ですか…」

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