第21話、模擬戦


「とりあえず、特殊部隊のことは考えず、通常の戦闘を考えましょう」


「全員に魔力障壁と物理障壁は入れておきましょうよ」


「身体強化もセットにできるんじゃない?」


「ああ、それで、腕輪にしてやれば使いやすいんじゃないかな」


「腕輪だったら、もう片方に攻撃魔法を装備してもらえばいいよ」


「ミクル先生が、威力増加と使用魔力半減って使ってたじゃない。

あれって魔法ごとに必要なのかな」


「ああ、常駐化できるかってことか。常駐できるなら、防御用の腕輪に書いておけるもんね」


「試してみたいな。ノルンさん、呪文って知ってますか?」


「ああ、この程度の呪文なら暗記している」


「そういえば、必ずセキュリティーをかけろって言ってたよな」


「よく覚えてたの。この一文を一行目に入れてください。

それから、発動の順番を先頭に入れておくの」


リン先生から紙が配られた。


「これって、このワードを入れないと書き換えできないって意味ですか」


「そうですの。

この一文は、普通に読んでも表示されないのよ」


「では、2番目に威力増加で、3番目に使用魔力半減だな」


「あっ、2行目の倍ってところを5倍とかにするの」


「魔法局ではそんなことは教えてくれなかった…」


「今のところ、9倍まではその呪文で増加できることが確認されておりますの」


「それ以上は別の魔法が存在するって事ですか」


「そうですの。例えば、消費MPをすべて1で発動できるようにするとか」


「それって、魔法師の存在を根底から覆す呪文ですよね」


「だから、まだ教えてあげられないの」


「魔力量に関係なく、あらゆる魔法が使えるってすげえな」


「呪文を多く知っている者が優秀ってことですね」


「うーん、一概にそうとも言い切れないの。

魔法が暴発するリスクとか、無詠唱の方が早いとかね。

やっぱり、一から積み上げた人の方がリスクが少ないんですよ」


「ともかく、私たちはできることをやっていきましょう。

4番目が魔法障壁で5番目が物理障壁。

二つ目の腕輪には初級の風魔法を入れておこう


「では、こちらがミスリルの腕輪ですから、書き込んで試してください」


リンは収納から腕輪二つを取り出した。


「では、私が防御の方を」


「じゃ、私が攻撃を」


「この流れだと、俺が試験だな…あれっ、腕輪が入らない」


「役立たずだな。俺が試すよ」


「すいません…」


「左が防御だな。ん。おい、カベオ、俺を殴ってみろ」


「うっしゃ…」 ゴイーン


「痛てえよ。骨が折れるかと思った」


「じゃあ、火魔法で『炎よ、この男を焼き尽くせ!』…駄目ですね。正常に作動してます」


「よし、この状態で右に魔力を…」


「おい、俺に向けんじゃねえよ!この流れだとジュリへ向けるんだろう!」


ボン


「うわー!」 ドガン


「つーっ、これが初級の風魔法かよ」


「そうか、5倍かもしれないってことを忘れていた。許せ」


「効果9倍にして、身体強化かければ、これで突撃できんじゃね」


「そうだな、カベオはそれで参戦してもらおう。安心しろ、右手にはもっと強力な魔法を持たせてやる」


「いや、待ってよ。俺は魔法技師であって、突撃部隊じゃないんだからさ」


「最前線で、魔道具を操る魔法技師なんてすごいですよ。当日は見物人も多いですから、注目も集まりますよ」


「そうね、鎧や盾、剣も持たずに敵陣に飛び込んでいく。勇者級の戦力ですよね」


「いやぁ、そうか…って、やらねえよ!」


「ざんねんですぅ」


「残念じゃねえんだよ。爆風とか防げねえんだよ。知ってるよそれくらい」


「うん、爆風対策を考えましょう」


「そうね。」


「いいよ、そんなこと考えなくても!」


「いや、これは魔法師を守るために必要なことだ。

それから、リン先生。カベオの手でも通る腕輪ってありますか?」


「ええ、今のは中だから、特大なら入りますよね」


「魔法師の中で、俺より大きい人っていないよね。

特大要らなくね?」


「うーむ、結界はどうだろうか。自分で発動するときには細かい設定はしないんだが、予め書いておけるなら体の表面から30cmとかで設定できるぞ。空気は通過するが一定以上の強風は通過できないとか」


「風速10m以上は通過しないとかね」


「待て、その10mってのは、時速か秒速か?」


「あれ?どっちだっけ」


「身体強化って全身にかけられるんですか?」


「うん、それと高速移動をセットしておこう。

先生、あと2組み腕輪をください」


「あっ、私は小でお願いします」


「おーい、俺を置いていかないでくれよ」


「大丈夫ですよ。カベオさんは主役なんですから」


「爆風の試験だから、風魔法は中級の空砲を使おう。

全員同じ設定で、書き込んだら他の人に渡してチェックしておこう」


「そうですね。間違って死んじゃうのも可哀想ですから」


「待って、誰が可哀想なの?」


「大丈夫ですよ。3分以内ならお湯をかけて蘇生できますから」


「俺はカップ麺じゃねえよ!」


「よし、チェック完了。場所はどこにする?」


「やっぱり西の荒れ地でしょうね」


「おーい…」


「あっ、右と左を間違えないように、右にはマーキングしておこう。

攻撃用は危険だから赤」


「じゃ、防御用も青でマーキングしましょう」


「では、私が確認してコーティングしましょう。

空砲のある方が赤ですね。

防御用は青」




みんなでお揃いの腕輪をした一団は、西門を出た先の荒れ地に向かう。


「よし、カベオは自軍の想定だからこっちだな。俺達は敵軍としてあの岩山に陣取る。

俺が合図したら、カベオは岩山に向かって突撃。空砲で俺達を攻撃する。

俺達は、爆風の試験だからカベオの周りを空砲で攻撃する。

あくまでも試験だから、ムキになるなよ」


「「はい」」 「おう」


「先生、合図をお願いします」




かくして、爆風防御の効果を確認する模擬戦が始まった。


「おお、すげえ。あっという間に敵陣だぜ。爆風もそよ風程度しか感じねえよ。

うっしゃ、こっちも攻撃だぜ!」


「うわっ、足下が崩れた『浮遊!』。カベオのヤツ…。それなら」


「おっ、ノルンのヤツ、足場が崩れて転落…、浮かびやがった。なんだ?俺の足下ばかり撃ってきやがって、うわっ!」


「ふん、墜ちたら次は周りを崩して埋めてやる!」


「身体強化してるから問題ねえよ。とお!」


「くそお、飛び上がってきやがった。なら次は…」


「はいはい、お終いでーす!」


「おいノルン、埋めようとしやがったな!」


「お前こそ、岩を崩して落とそうだなんて姑息な手を使ったくせに!」


「狙いが狂っただけだ!」


「そうか、照準補正が必要だな」


「落下防止も考えた方がいいな」


「はいはい。一度帰りましょう。

結構派手だったから、お城から警戒するよう連絡が入ったわ。

模擬戦だって返事しておいたけど、次からは事前に連絡するようにって…」




「しかし、照準補正は問題ないとして、浮遊の自動発動か、どうするかな」


「靴に仕込んだらダメかな。足下がなくなったら発動するとか」


「その場合、高さの設定をどうする?」


「その場所をキープでいいんじゃない」


「そうすると移動できなくなるわね。それに、岩ごと落下したら発動しないわ」


「うーん、どうしようか」


「でもさ、これでカベオくんヒーロー確定だね」


「えっ、まだその設定消えてないの?」


「ノルンさんとのダブルエースだね」


「えっ、俺は魔法師として参戦するけど」


「魔法技師として参加したほうがいいよね」


「そうだな、魔法技師としての有効性を証明するために、最前線で魔道具を書き換えて活躍するなんて格好いいぞ」

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