第20話、敵戦力の分析


「はいはーい。午前中の訓練はおしまいだよ。

食堂には専用のメニューを用意してあるから、魔法師中級だって申請するんだぞ。

食事したらリフレイン飲んで、3時間寝ること。

ボクがスリープをかけてあげるから、その前におしっこしておくんだぞ」


──品名:リフレイン(医薬部外品)

    種類:Aランク・魔力回復薬(飲用)

    効果:1ビンで使用者の魔力をほぼ120%まで回復する

       ※個人差があるので注意

        増加分は一時的なものです

        15歳以上、1日1ビン以上は危険


ピンクのショートカット。オメメパッチリのボクッ娘はアリス。

中級魔法師の専属講師である。


朝7時からの訓練メニューは異質なものだった。


例えば、風魔法を使ってプロペラを回す。

一定の回転数を維持すればライトが点灯するので、これを1時間継続する。


例えば、水魔法を使って水槽の中のスクリューを回す。

一定の回転数を維持すればライトが点灯するので、これを1時間継続する。


例えば、火魔法を使ってケトルのお湯を沸騰させる。するとピーっと沸騰を知らせる音が鳴る。

一定の熱量がないと音が途切れてしまうため、これを1時間継続する。

このケトルは常時一定の水量が確保される魔道具になっている。


見学に来た素人は笑うが、経験者は理解する。

一定の魔法を一時間継続するなど、どれほどの集中力と魔力を必要とするか考えてぞっとするのだ。


しかも、余力が生まれてくるとギアが重たくなる。補給される水の温度が下がる。

とにかく、半日で魔力が空になるように調整されてしまうのだ。

これを一日2セット。


ハードではあるが単調な訓練を、アリスは言葉巧みにコントロールしていく。


「お爺ちゃんの本気ってすごーい」

「お兄ちゃんの頑張る姿に、アリス、キュンときちゃった」


こうして本番の三日前を迎えた。



一方、こちらは初級組の17名。専属講師は青い髪のカノン。

セミロングのストレートヘアである。


「じゃあ、今日は鬼ごっこから始めましょう。

鬼は皆さんで、私一人を追いかけてきてください。

ただし、地上に降りてしまったら罰ゲームです。

私をつかまえたら、何でも一つ言うことを聞いてあげます。

私を地上に降ろしてもOKです。

少しくらいエッチなことでもいいですよ。

制限時間は1時間です。では、スタート!」


一見、興味なさそうであったが、みんな必死でカノンを追いかける。

前日、空中浮遊を教えられたばかりであったが、それぞれの得意魔法を併用して追いかける。


罰ゲームは、カノンたちゴーレムの服を洗濯するというものであった。

手を使わず、水魔法・風魔法・火魔法を使って服を洗い、干して乾かすのだ。

30分という制限時間で。


こちらも、お昼には中級組と同じリフレインと3時間の昼寝が入る。


「こっちは、魔法の並行使用と持続がテーマですか。

カノンの移動速度が少しずつあがっているのに、意外と気づかないものですね」


「ええ、それにストッキングや下着などは、不思議と丁寧に洗っています。

時々鼻血を出す子もいますが、ゴーレムの下着で興奮するものなのでしょうか」


こちらも、本番三日前となった。




「では、魔法技師コースの訓練を始めます。

講師のリンですの。よろしくお願いしますわ」


「「「お願いします」」」


「一か月しかありませんから、具体的に有効そうな魔法を考えていきましょうか。

魔導戦車と竜騎士と魔獣部隊だと言われましたから、相手の攻撃を想定していきましょう…、といきたいところですが、すでに国防局で情報収集と分析は済んでいるそうです。

こちらは、国防局のテロ君とスパイさんです。もちろん偽名ですし変装されています。

では、お願いします」


「はい、テロです。

普段は敵国に潜入していますので、本名と素顔はご容赦くださいね。

では、私から魔導戦車についてご説明します。

魔導戦車というのは、単に鉄の箱に車輪がついただけのもので、その中に、魔法師が5人から10人乗り込み、攻撃と防御をおこないます。

戦場までは馬でけん引し、戦場では魔法だけで動かすのですが、動力はなく風魔法なんかで動かせる重量ではありません。

したがってm実質下り坂でないと動きません。

そのため、事前に土魔法で坂道になるようルートを作っておきます。


「なんだか鉄の棺桶のような気もしますが、攻撃魔法は一通り使ってきそうですね」


「先生、それって落とし穴とか、こっちも土魔法で上り坂にしちゃえばよくないですか?」


「そこまでしなくても、大きめの岩を目の前に落とせば終わりだと思います」


「そうですね。今リンさんが言われたように、戦車自体は融通の利かない棺桶同然です。

ですが、中に入れられた魔法師はたまったものじゃない。死に物狂いで攻撃してきます」


「だよな。最前線に追いやられた魔法師は魔力切れになるまで抵抗するにきまってる」


「接近されたら苦戦は必至という事ですね。

他になければ竜騎士隊の情報をお願いします」


「竜騎士隊というのは、2部門あります。

ゲータリアというオオトカゲ種を使った地上部隊とワイバーン種を使った飛竜部隊です。

飛竜部隊は10頭のワイバーンで構成されていますが、防空の要であり、はたして城を離れて参戦するかは定かでありません。

と言いますのも、あの巨体ですから長距離の飛行には向いていません。従って、参戦するのであれば前日に移動し、闘って、翌日帰還となります。

ワイバーン自体が希少種で、万一損傷した場合の補充が難しく、実際に使役レベルにするには最低3年かかります。

かの国が、そこまでのリスクを冒してくるかどうかですね。

一方で、地竜部隊ですが、こちらはコントロール不可能。実際には野生の群をエサで誘導して敵軍にぶつけるもので、長距離移動は実質不可能と考えられます。

具体的な戦略としては、群に相手を誘導してからでないと機能しません」


「ワイバーンが参戦してくるかどうかという事ですか」


「そうなります」


「ワイバーンには、騎士が乗ってくるということですよね」


「騎士といっても、鎧などを装備したらワイバーンの負担が増えますので、革製の軽鎧です。

ブレスがありますが、射程10mほどで、そこまで脅威にはなりません。

羽ばたきの上下動が激しいので、騎手は弓も使えず、魔法師が主となります。

ただ、皮膚が堅く、矢は通りません。従って、戦略としては敵の上空を飛び越して、後方に魔法師を送り込む作戦となります」


「えっと、俺達の後ろは城ですよね」


「ええ、ですから防空の要と申し上げました。

城攻めであれば、直接城に乗り込むという事もありますが…」


「石のようなものを掴んで落とすってのは?」


「エサ以外を運ぶのは嫌がりますね。単発はあるかも知れませんが、二度三度はやりません」


「では、最後に魔獣部隊ですね。スパイさんお願いします」


「はい、魔獣というのはライオンやトラなどの大型ネコ科の猛獣を使役する部隊で、総勢50頭50名の猛獣使いで構成されています。

主に夜間戦闘や森林地帯で威力を発揮する部隊です。以上」


「えっ?」


「今回のように、昼間の平地で使われる部隊ではありません。以上です」


「どういう事かな?」


「考えてみてください。

このような平地でたかだか50頭のライオンやトラが攻めてきたらどうしますか?」


「まあ、弓で迎え撃つか、炎で焼き払うか…」


「氷でもいいし、電気なんか使ったら、それこそキャンキャンいって逃げていきますよ。

どこかのボンクラ王子だかが、勢いで口走っただけです。

クツル王国で脅威なのは、むしろノーマルの戦力であり、その量です。

本気で来るなら、兵士5000は余裕で投入してくるでしょう。戦士3000、支援魔法師1000,攻撃系魔法師1000が最低ラインです」


「そっちの方が面白くなりそうじゃん」

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