第19話、魔法試験開始

「魔道具を作成できる素質があるか、見極めを行います。

試験は二つ。制限時間は両方で2時間です。

両方終わった人は食事休憩に入ってくださいね」


「先生、両方クリアできないと失格ということですか?」


「一つ目はクリア必須ですが、二つ目は私が判断します。

独創的なアプローチがあれば、完了していなくとも合格とみなす場合があります」


「クリアできれば魔法技師初級なんですね。

もし受かることができたら、その、今の職場から移動させていただけるんですか」


「もちろんです。もし、今の職場と兼務したいと希望されるのでしたら、特別手当も支給いたしますよ。

魔法師の皆さんも、魔法技師の初級になれば特別手当の対象です。

若い人ならば、今のお給料の1.5倍以上でしょうか」


「い、1.5倍!」


「では、一つ目の試験です。

これから、前にあるミスリル板の中から一枚を選んでいただき、そこに書かれているものを紙に書き写してください。

書かれているのは魔法文とは限りません。

魔法陣だったり、落書きだったりします。

書き写せたら私のところに持ってきてください。

正しければ次の課題を渡します。次の課題は、指定された魔法陣もしくは魔法文をミスリル板に書き込んでもらいます。

間違って書いてしまった場合は、手を挙げていただければ私が消しにいきます。

質問はありますか?」


「絶対に、何か書いてあるんですね」


「はい。おぼろげでもイメージが浮かんだら書いてみた方がいいですよ。

何回チャレンジしても大丈夫ですから。

あっ、オッパイとか卑猥なものはありませんから、自分の妄想とかを書くのはやめてくださいね。カベオ君」


「先生、お約束のチャンスを消さないでください」


「はい、ほかに質問がなければスタートです。ミスリル板を持って行ってください」


ガタガタガタ、全員が席を立ってミスリル板を選んでいます。


「えっ?」「おー!」適性のある人は、手に取っただけで分かるはずです。


意外なことに、一番最初に持ってきたのはカベオ君でした。書かれていたのは…


「多分、妄想ではないと…、思いたい」


「姉ちゃんが好きだ。ですか、顔が真っ赤ですが大丈夫ですか?でも、リュウジ様の側室なんですから…、もうお姉さんから卒業しないと。

正解ですけどね」


「くそ、正解したのに、敗北感でいっぱいだ…、何でこれを選んだんだろうか…」


「はい、ではこの文字は消しますから、この板に紙に書いてある魔法陣か魔法文を書いてください。

どちらでも良いですからね」


二番目は女性でジュリさんでした。

こちらは水魔法の魔法陣です。一部間違えてあるので作動しませんけどね。


「お見事です。では次の課題へ」


「先生、ペンを使ってもいいですか。物理的に描くんじゃなくて、なぞる感じで」


「その方がイメージしやすそうね。いいですよ」


少し時間が空いてノルン。

更に少しして女性のシェリー。


ほかの人は、板に手を当てたり、頭にこすりつけたりしている。


「相性が悪いと思ったら、板を交換してもいいですよ」


最初に二問目をクリアしたのはジュリさん。


「OKです。食事休憩に入ってください」


「先生、魔法師の方はパスしたいんですけど」


「いいですよ。試験を見学していってもいいけどどうしますか」


「土木局なので、合格の報告をして荷物をまとめてきます。

それで、机とかはあるんですか?」


「ええ、城技工士室の隣ですよ」


「あ、あそこって、騒音がひどいので空き部屋になってるとこ」


「何のための魔法技師だと思ってるんですか。音の遮断くらい簡単ですよ。

みなさんには、最高の環境を用意してあげますわ」


二番目はノルンさんで、カベオにシェリーさんの順で、それ以上一つ目の課題をクリアした者は現れなかった。



食事休憩後は、魔法師の試験である。カベオとシェリーは見学に回っている。


「では魔法師の実技試験に入ります。

それぞれ、得意なやりかたで私を攻撃してください。

私の方は、そうですね。判定の終わった人にはスリープの魔法をかけます。

防げるなら防いでください。

10分後の時点で寝てしまった人は初級以下です。

魔力切れで立っていられない人も初級とみなします」


結局、10分後に残っていたのは5人だった。

全員が肩で息をしている。


「この5人は中級とします」


「せ、先生、私達は上級とは認められないという事ですね。

できれば、上級の基準を教えてもらいたいんですが…」


「そうですね。何を見せればいいでしょうか…」


ミクルは指をパチンと鳴らして全員を起こします。

もう一度鳴らすと、魔力が回復していきます。


「支援系なら、広域の全回復ですね。

無詠唱は当然で、防御系なら今私がお見せしたように広域の魔法耐壁及び物理耐壁。

攻撃系だと、振動剣とか国全部を一瞬で灰にしたり氷漬けにするとかでしょうか。

あっ、一点集中型も嫌いじゃないですよ、えっと」


ミクルは1mほどの岩を指さし、5cmほどの貫通孔をあけた。

更に手のひらを岩にあてて粉にする。


「今のは、熱を圧縮して溶かし、つぎに高速振動させて粉砕しました。

上級なら最低でもこれくらいを平然とこなしてほしいですね」


「わ、分かりました。精進いたします」


中級に残ったのは、メリル・ノルンその他の5人であった。

そして8人の脱落者が出た。


「あなた方8人は、魔力量も少なく、とても魔法師として認められません。

クビです」


「はん、後悔するなよ。

ライズ国からわざわざ親善大使扱いで来てやったんだが、俺をクビになんてしてみろ。国交は断絶。下手すりゃあ戦争だぞ。

まあ、俺としてはこの国にいる理由がなくなって願ってもないことだがな」


「…ライズ国?」


「サルタ殿下、恐れながら午前中の話を聞かれていましたか?」


「そんなつまらん話を聞くわけなかろう。こんな三流国から得るものなどない」


「思い出しました。開始早々にトイレとか言って出て行って戻ってこなかった人達でしたね」


「ふん、あんな退屈な話など聞く耳持たんわ。

おい、行くぞ。国に戻って王に報告する」


「で、殿下、お待ちください。話半分だとしても、あのような魔道具は脅威になります」


側近らしい奴が殿下とやらを止める。


「馬鹿を言うな。我が国の魔導戦車隊をもってすればこの国など一日ももたんわ」


「魔導戦車?」


「わがトウレ国の竜騎士隊もおるぞ」


「クツル王国の魔獣部隊を忘れてもらっては困るぞ」


どうやら、三か国の王族らしいのが紛れ込んでいたようだ。


「魔導戦車と竜騎士と魔獣部隊ですか、今ラン様より指示がありました。

まとめて相手してあげるから三か国で束になってかかってくるの。とのことです。

ご安心ください。五竜は出ないそうです。お酒を飲みながら見学だそうです。はい。

ただし、つまらない戦を見せてみろ、その時は国を亡ぼすから…これは暴竜様のお言葉です。

えっと、日時は来月の1日、ちょうど一か月後ですね、こちらのメンバーはメイド部隊6名と、魔導士隊・魔法技師隊のみ。

10時開戦で、どこから攻めて来てもかまわないそうです。

ご理解いただけたでしょうか?」


3国の計8名は顔を真っ赤にするものと、真っ青になった者に分かれた。

勝手に参加者に指定された者は不安そうな表情をしている。


「先生、戦争はダメだと…」


「これは競技会ですよ。もっとも、戦争と言われれば、一瞬で三つの国を消滅させますけどね。あっ、国はやりすぎですか。城だけにしておけと。はい、承知いたしました」


「取り消しは効かんからな。後悔するなよ。この国の住民は皆奴隷にしてくれるわ」


「あっ、メンバー以外に手を出したりしたら、五竜様というかラン様が介入されるそうです。

というか、ラン様の結界を通れるはずがありませんけど」


「ふん、五竜まとめて屠ってくれるわ。いくぞ!」


「あっ、ダメですよ。そんなことを言ったら…」


ゴロゴロという予兆なしにドーンと雷が落ちた。ミクルの横に。


「「「ひっ」」」


「ミクルさん。何かバカにされたような気がしたのですが、気のせいでしょうか?」


「いえ、アカネ様のご機嫌を損ねることは何もございません」


「そう、マッサージ室の方が騒がしかったから、聞き間違えたのかな。

お邪魔したわね」


再びドーンという爆音と共に閃光が走る。


「い、今のは…、温泉マッサージのアカネちゃん。

まさか、あの子が…雷竜だと」


「はいはい。今見た事は忘れてくださーい。メリルさんも滅多なことを口走らないでくださいね。

あら、サルマタ殿下、人前で失禁なんて恥ずかしいですわよ」


サルタであるが、8人はそそくさと退出していった。


「はい、みなさん、今聞いたように一か月後に実戦があります。

早速訓練に入りますよ。

魔法師部門は、一か月の間、こちらのアリスちゃんとカノンちゃんが指導にあたります。

魔法技師の方はリンちゃんが専属講師になります」


いや、みんな展開に付いていけてねーよ…

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