第18話、即席の魔道具

数日後、選抜試験が行われた。

最初は魔法技師の判定だ、

城の会議室に集められたのは49名。

魔法師の定員は30名なのだが、魔法技師は誰でもチャンスがあると宣伝したところ、城勤めの中から19名が集まった。

女性の参加が5名あったのは喜ばしいところである。


…カベオ、お前には無理だよ、たぶん。


「今回、試験管を務めますミクルです。

おそらく皆さんは、魔道具など、見たことも聞いたこともないという方がほとんどだと思います。

そこで、適性を見る前に魔道具がどういうものなのか知っていただこうと思います」


昨日と同じメイド服姿のミクルは、ミスリルの板を丸めて筒状にしたものを一番前の席にいる7人に渡す。


「このミスリル銀の筒には、一行だけ風を出す魔法をかきこんであります。

弱い風ですので害はありません。

魔法を使える方は魔力を流して確認してみてください」


うおー!、とか、おお!、とかの声があがる。


「確認出来たら後ろの人に回してあげてくださいね」


「ふん、この程度を魔道具とかぬかすなよ」


「えっとメリルさんでしたっけ、これを魔道具というつもりはありませんからご安心ください」


「確認できましたかぁ。」「はーい」


「では、窓の外をご覧ください。50mほど先に的を二つ用意しました。

魔法の得意そうなメリルさん。あの的に魔法で火でも氷でも当ててみていただけませんか」


「ふん、その程度魔法師なら造作もないこと、ほかの奴でも問題あるまい」


「では、どなたかお願いできませんか」


「ああ、俺でよければ。何の魔法でもいいんですね」


「はい。お願いします」


『氷のヤリよ、あの的を貫け』


シュッと音がして1mほどの氷のヤリが的に当たります。


「ノルンさんでしたよね。すごいです。これだけの距離で命中しました。詠唱も省略形ですね」


パチパチと拍手が起こる。


「では、魔法師ではない方…、カベオさんがいいですね。

魔力量も適度に少なくて、どう見てもノルンさんと同じことは出来そうにないように見えますので」


「ひでえ言われよう…」 クスクスと会場から失笑がもれます。


「一番後ろの方からミスリルの筒を集めてきてください」


「えっ、まさかの単なる雑用係?」 再びの失笑


筒を受け取ったミクルは、一本の筒の表面に三度指を走らせます。


「先ほどの風の魔法に追加して、最初に魔力量削減と氷のヤリを作る魔法を書き込みました。

さらに、風魔法の効果を50倍に引き上げて、照準の補正を書き加えてあります。

これで、五行分の魔法式を持ったミスリルの筒になりました。

では、カベオさん、この筒を的に向けて魔力を流してください」


「いや、マジで魔力量少ないんですって!」


「大丈夫です。風魔法を使った時と同じくらいでいいんですから、私を信じてください」


「は、はあ。じゃあ、行きます」


バシュ! ドーン!


「「「えっ?」」」


「はい、そこの女性の方もこちらへ」


「えっ、私?」


「次の筒には、効果50倍と、照準の補正だけ書き加えました。

氷の代わりに、この鉄の球を打ち出します」


鉄の球が落ちないように、紙を丸めて栓をする。


バシュ! ドーン!


「次はあなた。

今度は火のヤリにしてみました」


バシュ! ドーン!


「今、この筒には安全機構がありませんので、今の魔法は全部消しておきます」


「「「えー!」」」


「魔法を使った三人は、魔力の消費はどうですか?」


「風を出した時と同じくらい…かな」

「ああ、でも爽快感みたいなのがあって、消費した感じはねえよ」

「同じです」


「魔法が得意ではない三人が、ノルンさんと同じだけの効果をあげました。

これが魔道具の基本です。

カベオさん、氷を作ったことはありますか?」


「いや、初めて…」


「ジュリさん、火魔法は得意ですか?」


「使えないことはないけど、指先に灯す程度なら」


「このように、得意とか苦手とかに関係なく、魔力さえあれば魔法が使えてしまうのも魔道具の特徴ですね。

逆に言えば、書き込んである事しかできません。ノルンさんのように、状況に応じて魔法を使い分けることはできないんです。

如何でしょう、魔道具というものがどういうものなのかご理解いただけたでしょうか」


パチパチパチと拍手で肯定されます。


「先生!質問があります」


「はい、トルーさんでしたね。何でしょう」


「先ほど、先生はミスリルの筒を指で撫でていましたが、あの一瞬で魔法の書き込みを行ったんですか?」


「えーと、あれは分かり易くイメージしていただくためにやりました。

別に触れていなくても書き込みは可能です」


そういうと、ミクルはミスリルを板状に戻し、少し離して床に並べた。


「硬化、床から20cm上昇して静止」 ミクルは左足をミスリルの板に載せます。

「硬化、床から40cm上昇して静止」 ミクルは右足をミスリルの板に載せます。

「硬化、床から60cm上昇して静止」 ミクルは左足をミスリルの板に載せます。


「えっと、下にはドロワーズを履いていますので、覗いても無駄ですよ。カベオさん」


「いや、お約束っしょ!」 爆笑


「ですから、実際に魔道具として使うときには、第三者から書き換えされないようにガードをかける必要があります。

そして、静止を解除して移動」


ミクルは20cmの板に片足で立ち、ドアまで往復する。


「例えば、足の悪い人に、移動可能な椅子の魔道具を作ったり、外壁工事の職人さんの足場を作るなんていう魔道具も作ることができます」


「先生、私たちでも、本当にそんなことができるようになるんですか?」


「だって、みなさん、魔法技師になりたくて集まったんでしょ」


「だが、そんな空中を浮遊する魔法なんぞ存在しておらんぞ」


「ニ・ン・ゲ・ンの間では、でしょ。ドラゴンはあの巨体で空を飛びますし、地竜であられるラン様は、大地を自由に操り、水竜であられるシズク様は水を自在に操ります。

十分な魔力量があって、理屈さえ分かっていれば世界の事象は再現可能だとお考え下さい」


「そんな事ができるなら、この世界を征服することすら可能ではないのか。

さっきのミスリルの武器が1000本いや、100本あれば戦争で負けることすらないだろう」


「えっと、勘違いされているようですが…、人間は魔力を享受する立場としては最下層の存在です」


「最下層だと」


「ええ、魔力とはサワタリ様とマオ様によって世界に散布されています。

五竜の皆様はそのサポート役で、私はそのお手伝いにすぎません。

今、この世界はサワタり様が留まっておられるために、魔力に溢れておりますが、その幸運に感謝すべきところ。

戦争のような無益なことで魔力を無駄に消費しようなどというのは、看過できるものではありません」


「だ、だが、攻められれば応戦しない訳にはいくまい」


「この国は、サワタリ様と縁を持つことができました。

サワタリ様の意に添わぬことが起こった場合、指示があれば私達が全力で阻止いたします。

でも、今は五竜のお姉さま方が揃っておられますから、私の出番があるとは思えませんけどね」


「ご、五竜が揃っているなど、聞いたこともないぞ」


「確かに、久しぶりの事だと言われていましたわね」


「お前達はそれほどの存在だというのか」


「私はただのお手伝いですって。

とりあえず、この国を発展させるために、魔道具を普及させるだけ。

やっと、本題に戻りましたね。

さて、前置きが長くなりましたが、魔道具を製作できる人間を育てるために、試験を開始いたします」

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