第17話、魔道具

ゴーレム達は手際よく壁面をビニールシートで覆い、廊下側の壁を切り出していく。

切り出した欠片は収納に格納するので、残骸すら残らない。

床面に発泡コンクリートを設置し、壁と天井にウレタンを吹き付けていく。多分、硬質ウレタンフォームとかいうやつだろう。

その上にステンレス仕上げの断熱パネルを組み上げていく。

各壁には、天井までのスチール棚を組み、最上段に魔道具らしきものを設置する。

冷気は下に降りてくるので理にかなっている。

脚立に上り、人間には無理な姿勢で電動ドライバーを駆使する姿は芸術的だ。


入り口側には、上下に2本の鉄骨を組み、鉄骨を挟み込むように断熱パネルを設置。間の空間に硬質ウレタンフォームを充填していく。

そして、枠付きのドアを据え付ける。これもステンレス製の耐熱構造だろう。

最後に魔道具用の配線を行い、ドアレバーの並びに10cmほどの丸いスイッチを付けて完成だ。


「ここから魔力を補充するんだな」


「はい。一日1回、緑色になるまで補充してください」


「分かった。俺は魔法局に行くから冷凍庫の方も頼む」


「かしこまりました」


「うん、見事な手際だったぞ」


「はっ、はい。ありがとうございます」


ミクルは頬をポッと赤らめる。

こういうところに、ランのあざとさが見えるのだが、悪い気はしない。

免疫のないイワンは堕ちるだろうな…



魔法局にいき、局長と魔法師数名に同行してもらう。


「ここが冷蔵室と冷凍室になります。魔法師の方にはお手数ですが、どなたか一日一回、このスイッチが緑色になるまで魔力を充填して頂きたいのです」


「ああ、王から話は聞いている。緑色になるまでだな」


「仕組みを見せてもらいたいのだがよろしいかな」


「あっ、どうぞ。棚の上についているのが魔道具になります」


「魔道具の中身はみられないのか…」


「はあ、設置済みなものですから」


「それでは、我ら魔法師にはメリットがないではないか。

我らは魔力を提供する道具ではないぞ!」


「はあ、局長、どうなっているんですか」


「面目ない…、魔法師全体を掌握しているのはこちらのメリル師なのだよ…」


Pululu


「マスター、転移のアプリを起動してなの。そっちに行くの」


アプリを起動すると、ランが現れた。


「なっ、どうやって現れた」


「転移の術式なの。説明しても理解できないの多分」


「ワシ等を愚弄するのか、小娘風情が!」


「私は地竜なの。この世界の始まりから生きてるの。無駄な会話は嫌いだから本題なの。

これが魔道具の基盤で、術式はこの魔石に書き込むの。これでOKなの。

あなた程度では、魔石を解読できないし、自力で魔道具を作ろうなんて己の力量を弁えてないだけなの。

えっと、あなたと、そっちのあなたは可能性あるわ。

勉強したいなら、ミクルが教えるの」


「ふ、不愉快じゃ!引き上げるぞ!」


「局長、そいつクビにするの。

そいつ程度の魔法じゃ、これから役に立たないの。

代わりにミクルが先生になってあげるの」


「ミクルとは?」


「あっ、はいミクルでございます」


奥から作業中のミクルが現れた。

緑のロングヘアーをツインテールにして、メイドの衣装に身を包んだミクルだ。


「バカにしおって、その娘が魔法を教えるとでもいうのか」


「娘だけど、特別仕様のメイド型ゴーレムなの」


「ゴ、ゴーレムでございますか、まさか、どう見ても人にしか見えませんが」


「ミクルにも魔石が入ってるの。でも、人間には理解できないプログラムなの。

それとミクルには私のチカラを分けてあるから、魔力の補給は不要なの。

理解できたかな」


「ふん、たわけたことを」


「局長、これから魔法局は私の管理下にするの。

異論ある?」


「地竜様に異論などあるはずもございません」


「ん、イイコなの。

魔法局はこれから実力最優先主義なの。

それから、魔道具の開発もやるから、魔法師と魔法技師に分けて、初級・中級・上級の三段階にするの。

それぞれのランクに応じた教育をして、能力を開花させるの」


「ラン、それって可能なのか」


「ん、女の子も入れて魔法少女隊も作るの」


「そういえば、魔法局って女性はいないんですか?」


「ふん、女如きに魔法を教えられるか」


「そういう差別主義者がガンなの。

大した技量もないくせに、偏見を振りまくの。

そうそう、クラス分けを兼ねた実技試験をやるの。

ミクル対現役魔導士全員で」


「おもしろい。ワシ等が勝ったら地竜といえど追放してくれるわ。

ついでに、そいつの肩を持った局長もな。

魔法師界最強のアーマルド家をなめたこと、後悔するといい」


「ミクルを倒したいなら、メテオ級の魔法を用意するといいの」


「メテオだと?」


「星や月を落としてぶつけるの。

まだ、試したことはないけど、理論上は可能なの」


「やめろ、この世界が壊れる」


「別の世界で小さいのならやったの。隕石で氷河期突入」


「地、地竜様。我々は喜んで試験に参加いたします。

ですが、本当に魔道具開発など可能なのでしょうか」


「あなたは、魔法使うとき詠唱する?無詠唱?それとも魔法陣?」


「詠唱いたします」


「その詠唱の呪文を魔石やミスリル銀に書き込むの。

魔石だとイメージが難しいから、最初はミスリル銀の板を使うの。

一度書き込んでしまえば、魔力を通すだけで発動するの。

実際に使う魔道具は、何重もの魔法を重ね掛けする感じ。

10コ以上の魔法を重ね掛けできる魔法式を組めれば中級の魔法技師になれるの」


「10個の魔法を重ね掛けするなんて、とても無理ですよ」


「自分でできる必要はないの。

発動の順番をイメージできて、理論的に破綻しない魔法を組むの。

魔法技師に必要なのは想像力。魔力は魔石に書き込むときにちょっと使うだけ」





「マスターごめんなさいなの。ああいう人間には我慢できなくて…」


「いいさ、俺も少しばかり頭にきた。

自分が一番だと勘違いしているんだな」


冷凍庫が完成して、食堂スタッフの使用者登録も終わった。

登録者以外は扉を開けることもできない。

つまみ食い防止や、個人の酒などを持ち込ませないための対策だ。

実際の運用は室温の安定する明日の朝からだ。


「おお、完成したのか。どれ…、おい扉が開かないぞ!」


「ええ、つまみ食い防止のために、登録者以外は開けられません」


「わし、この国の最高責任者だよね」


「いえ、冷蔵室の管理者は料理長です」


「わしが秘蔵の酒を冷やせぬというのか…」


「私物の持ち込みは禁止です」


「なあ、リュウジよ。わが息子よ。国王の特権を…」


「却下です」


「そうですよ父上。国王だからこそ、皆に手本を示さねば」


「イ、イワン、誰だそれは」


「セリーヌです。僕の側室になりました。セリと呼んでやってください」


「ふつつかものですがよろしくお願いいたします。お義父さま」


国王の手をそっと両手で触れる。

あ、あざとすぎる…


セリーヌは紫のボブで、黒のベストにパンツ。派手すぎない白のブラウスといった姿だ。

側室っていうか、秘書だよな。

まあ、眼鏡をかけていないだけましか。

というか、イワンよゴーレムだとは言わんのか?…駄洒落じゃないぞ。



しかし、万一俺とイワンが敵対した場合、セリーヌはどっちを選択するんだろうか。

俺を選択しそうな気がする…、イワンが不憫すぎる。

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