第15話【番外編】ランのアプリ2

「という訳で、ランちゃんさんにイエローカードですわね」


モモ…悪い顔になってるぞ…


『ふっ、私にイエローカードを出せるのは、マスターしかいませんよ。

まあ、その勝ち誇った表情に免じて望みを一つだけ叶えてやろう。

授業免除か? スマホか? その可哀そうな胸か?』


「胸は…大人になれば…って、何ヒトのコンプレックスを抉るんですか!

そうですね。

猿ヶ島君と同じ環境を」


また悪い顔になってるぞ…


『環境ってことは、授業免除でいいんだな。

欲のないことは美徳かしらね』


「作業環境を含めてもらうのは…ムリかな?」


『それってムリがあるでしょ』


「じゃあ、端末はこちらで用意しますから、アプリだけって…ダメ?」


『改造が必要だから、アプリ入れても動かないんだよね。

でも、モモちゃんは参謀タイプだからアプリは要らないんじゃないの?』


「だってぇ、自分で体感したいんだもん」


『まあ、そもそもがアプリのテスターだから、アプリがないと意味ないか。

端末を用意してくれたら簡単な改造して、猿ヶ島君の端末から同時にアプリ三つまでインストできるようにしてあげるわ。

それで、鳥居君は?』


「僕も授業免除でお願いします。

それから、これは個人的な提案なんですが、呪禁師のノウハウもアプリにしませんか?

端末とエネルギーさえあれば、ある程度は自分でできますし、アプリの情報があれば足りない機能を補完する形で貢献できると思いますけど」


『ああ、もう面倒くさいわね。

モモちゃん、端末は3台用意してちょうだい。

用意できたら鳥居君に渡してね。

鳥居君にはノウハウを教えるから、あとは自分たちでなんとかしなさい。

学校は三人共自由登校にしておくわ』


「「「やった!」」」



◇ ◆ ◇ ◇



ここはプロトタイプ空間A03023。

Aシリーズは、地球の紀元前3000年をベースにして5000年早送りで展開した。

03023は、主要国のナンバー2に配下の者を入れ、大きな戦争は回避し、宗教の発生も抑止してきた。

そして紀元前1年、大国を中心に邪竜が出現。

人間の手に余る邪竜を討伐すべく、最高神リュウジが降臨する………当然ヤラセである。


AD(主の年).1年、邪竜により荒らされた国はリュウジ神を主神と抱く教会を設立。周辺国や集落を巻き込んで連邦国家を成立させた。

ロシア連邦、中華連邦、インド亜連邦、エウロパ連邦、エジプト・アフリカ連邦、北アメリカ連邦、大アマゾン連邦の誕生である。

邪竜を封印したとされる東アジアの4島を大和国、ヨーロッパ西部の2島を栄国、オーストラリアを禁国とした。

AD.元年以降、この世界の人間だけで2000年を経過し現在に至っている。


大規模な侵略戦争や交易がなかったために、南北アメリカ大陸は近代化が遅れ、農業中心の国家となった。


貿易の中心は紀元前から地中海沿岸であり、現在も小競り合いが続いている。

紀元前3000年には既に発生していた不思議生物カイコによる絹織物産業の独占で潤った中華連邦は、南方へと勢力を伸ばしインド亜連邦と小競り合いを繰り返している。


一方で、封印の地である3国は 大・栄・禁同盟 を結び、大陸からの干渉を食い止めているが、封印の秘密を狙うスパイ活動が続いている。

邪竜ゴッジーラをコントロールする。もしくは復活させるだけで直近の連邦は壊滅的ダメージを受ける。

戦争以外で世界の覇権を握ることができると、各連邦首脳部は考えているようだ。

そして、この3国の上位に位置するゴッジーラ教会と、唯一の神官で最高神リュウジの使徒と噂されるランドランに関する真偽を確認すべく、各連邦情報部の暗躍は活性化している。


高校生4人が暮らす家は、この大和国の首都 エド にほど近いさがみ野であった。




◇ ◆ ◇ ◇



チャラリーン

『特別指令です。

ポイント35.41-132.42

難民船を装った特殊部隊

海軍は間に合わないわ

よろしくね ♪』


「ちぇ、狙いは出雲教会かよ。

あそこにはゴッジーラの両足が封印されているんだったな。

村井ちゃん、距離は?」


『約700kmです。

対象の上陸予想は55分後です』


『サル君、鎌倉の教会道経由で移動して。

鎌倉へは、私の方で手配するから』


「あんがと、モモッチ」


『イヌ君は、二次待機お願い』


『こちらイヌ。了解した』


村井ちゃんは、俺の端末で育っているスライムだ。

そして、教会道とは各教会間を瞬時に移動できる転送機能の事になる。


本州に存在する教会5か所にゴッジーラの体が分散して封印されている。

別に秘密でもなんでもなくて、教会の看板にそう書かれている。

封印の地は出雲、伊勢、富士、鹿島、日光の5か所で、各所に教会が設置されている。


九州・四国・北海道は各3個所。

オーストラリアではウルルと呼ばれる巨大な一枚岩の下に封印されているとか、栄国ではストーンヘンジの下だとか…真偽のほどは定かでない。


上陸前に現地へ到着すれば、あとは簡単である。

ドローンに変身し、相手に警告を与える。

胡麻化そうとする相手の素性を読み上げ、口上を述べる。

つまり、敵対行動を確認したため確保すると最後通牒を突き付けるのだ。


反論は一切聞かない。

船ごと瞬間冷凍し施設に転送する。

この後は、俺の仕事ではない。


「転送完了。

帰って大丈夫かな?」


『待って、二人足りないわ。

付近に生体反応はない?』


「ああ…、これか泳いでる奴と、潜ってる奴。

泳いでる奴はそのまま冷凍して送るよ。

潜っている奴は、少し時間がかかるかな」


『何言ってるの。

結界で確保して強制浮上。

冷凍して終わりでしょ』


「スタイル抜群の、水着のお姉さんみたいなんだけど」


『人類の敵よ。

抹殺を許可するわ』


「へいへい…」


『それから、沖に領海侵犯の潜水艦。

そっちは浮上させないで潰せって』


「へいへい。

了解ですよ」


直接見えなければ、ゲーム感覚だ。

うおりゃ!と叫んで艦影をタップする。

良心の呵責みたいなものもない。

問答無用でミサイルを放ってくる奴らだ。こいつらを放置するって事は、大和国民の生命を脅かすことになる。


それに、こういうのは対処が簡単だが、渡り鳥などを使った細菌攻撃みたいなのは手に負えない。

気がつくまでに数万人が犠牲となり、現在も続いている。

大和国で夏もしくは冬を過ごす鳥には多くの種類がある。

その一部は、大和を中継点としてシベリアまで飛ぶ。

その鳥たちに細菌を感染させて運ばせるのだ。

当然、気が付けばロシア側も報復に出る。


結果、数十万羽の鳥が命を落とした。

種が絶滅したものもいる。


現在は結界で菌を排除しているが、感染している鳥は国に入ることができず、息絶えていく。


自分たちが生きていくためなら何をしても許される。

両連邦がそういう価値観を持つのならば、俺も自分の価値観で行動しよう。

最近はそう思うようになってきた。


”時には特別な指令で活動してもらうことがある” 当初そう言われていたが、蓋を開けてみれば連日の対応が待っていた。

俺たちは、モモを司令塔にして、三交代で現地対応にあたっている。


大陸側からの干渉が多いため、宗像、大宰府、阿蘇、出雲、宗谷、知床の教会を経由することが多い。

出動のあった日は、危険手当込みで一日五万円が支給される。

連日対応があれば月50万以上になるが、ちょっとした油断が死に繋がる事を考えれば妥当なところなのだろう。

高校生には高額すぎるとか軍の方から言われたが、大人とか子供とかいう問題ではない。軍が対応しきれない部分をカバーするのだ。


『そんな訳で、来月から一回辺りの出動手当が10万円になります』


「何がそんな訳なのか分からないけど、国が実績を認めたって事よね」


『はい。

それとは別に、成功報酬も出ます。

それから、どこそこの基地を使用不能にして欲しい等の特別要請が来るかもしれません。

受けるかどうかは、皆さんで決めて下さい。

断っても問題ありません。

本来、軍の仕事なんですから』


「そんなの、ムリに………アプリをフルに使えば出来ない事もないか…」


『そう、皆さんにはそれだけのチカラをお渡ししました。

その気になれば、この世界を支配しようが破壊しようが思うままです』


「気になっていたんだけど、何でそんなチカラを私たちにくれたのかしら?

それに、何でそんな事が出来るの?

ランちゃんって……神さま?」


『当然の疑問ですよね。

最後ですからお教えします。

この世界は私が造りました。

神なんていう概念は、人が勝手に創ったものですから勘違いしないでくださいね。

こういう世界があって、万能に近い能力を純粋な少年少女が手にしたら、どういう世界になるのか。

私の欲するのは経過と結果であって、条件付与が終わったので、これ以上の関与はしません。

この後で、最後のレクチャーを行い、その先は皆さんでどうするか考えてください。

もちろん、皆さんが世界に関与しないという選択肢もアリです』


「最後の…レクチャー?」


『はい。

今頃、国は中華連邦に対して報復を宣言している筈です。

度重なる侵略行為や破壊活動に対して、中華連邦最大の複合基地であるT半島基地と細菌戦略の中心であるB基地。

これを壊滅させると、全連邦に通知しています。

それを皆さんで実施します。

今回は私がアプリの機能をレクチャーしながらです。

イヤなら降りてもいいですよ』


「それが終わったら、ランちゃんとの連絡は…」


『ええ、余程の事がなければ呼びかけに応じる事はありません』


「余程の事って、例えばゴッジーラが復活するとか?」


『ああ、あれが復活しても、皆さんなら簡単に倒せますよ。

ただ、完全に消滅させるには、この世界ごと消す必要があります。

ですから、封印があっても定期的に復活してきますよ。

モグラ叩きみたいなものですよ』


「人間に倒せんのかよ?」


『まだムリですね。

でも、封印の地以外で活動を開始しますから、皆さんが連邦に恩を売るチャンスですよ』


「ダメだ、余程の事ってイメージが湧かない…

あれか! 隕石が地球に向かってくるってヤツ!」


「隕石自体を収納できるんじゃね?」


「じゃあ、地球外生命体による侵略」


「それって、ゴッジーラよりも強いんだろうな!」


「それじゃあ、未知のウイルス!」


「未知だろうが既知だろうが、結界を抜けてくるってんだな?」



そんなこんなで、俺達は基地へ向かう事にした。

『変身アプリ』でメタルドールに。

これが素のランちゃんに一番近いらしい。



『絶対に守ってほしいんだけど、必ずゲートを経由して出動する事。

今現在で、あなた達の個人情報は私しか知らないわ。

ゲートを出たら結界を展開してレーダー波を吸収。

音速を超えないように注意してT半島基地へ向かうわ。

まあ、探知されても問題ないんだけど、なんかそれっぽいでしょ』


「問題ないって…ミサイルとかで狙われるのはイヤですよ」


『あら、この結界なら、核でも大丈夫よ』


「結界は大丈夫でも、海が汚染されちゃうよ」


『そんな時に便利なのがスライム君。

トリプルタップで実体化するから、簡単に指示しておけば爆発前に倉庫へ収納してくれるわよ』


「スライム君が実体化…、ずっと出しっぱなしでいいんですか?」


『10時間が限界よ。

それ以上は魔力切れを起こして消滅しちゃうわ。

家へ帰りたいって言ったら、すぐに戻してあげてね。

あっ、ほら戦闘機のお出迎えよ』


「えっ、あわ…どうすれば…早い!」


『大丈夫よ。

スライム君に任せておけば…

捕獲して…収納して…ポイよ』


「ポイって…」


『生身の人が、亜音速で空気の壁にぶつかるのよ。

真っ赤な花が咲いちゃうけど…どうする?』


「でも、この高さから海面に…」


『それとも、裸のおじさんを捕虜で連れてく?』


「「……ポイの方向で…」」


『でしょ!

それにね、操縦不能にして撃墜(落とす)こともできるけど、航空機は一機100万円で引き取ってくれるわよ』


「い…今ので…」 「300万…」


「ラ…ランちゃん、それって基地においてあるのも…同じ…なの?」


『当然ですよ』


「さあ、早く基地に行きましょう!

置いてあるのをポチるだけの…簡単な…いえ、重要なお仕事ですから!」


「モモ…、せめてそのキラキラした目を何とかしろ。

1ポチ = \1,000,000 $_$ ってなってんぞ……」



そう言いながらも、俺たちは基地に降りてタップしまくった。

最初は怖かったよ。小型ミサイルとか自動小銃とかグレネードランチャーとか、基地の中だっていうのにバシバシ撃ってくるんだもん。

で、そういう武器もポチってたら、三本指タップで範囲指定して一括収納とかできるんだって。

敵の司令部のある建物で実演してくれた…上空から基地全体を範囲指定することもできたんだって…早く言ってほしかった。


基地司令官とか3軍のトップとかを『マユマユ君』っていうアプリで拘束して、基地の残りも範囲指定して収納。

軍艦とか潜水艦とかもいただきました。

後に残ったのは、建物と裸に剥かれた軍人さん。


捕虜を連れて一旦帰国。

成果品も引き渡して細菌の基地へ。

結局、両方で5億円いただきました。


ランちゃんにお礼を言って、そのままお別れ。

その後、侵略行為はピタリとなくなりました。


俺たちは、災害救助活動が中心となり、手の空いた時は金鉱を探したり沈没船を曳き上げたりと…お金に不自由はしていません。

適度現れるゴッジーラ退治なんて億単位で依頼がくるし、未使用のアプリもまだまだたくさんあります。

それに、時々アップロードとかいって新しいアプリがインストールされてきます。


結局のところ、俺たちは間接的な抑止力でいくことにしました。

いずれは4人も家庭を持ち、正体を隠すために就職とかするんでしょうが、まだ深く考えないようにしています。


そうそう、『ランちゃんアップリーズ』は俺達が引き継いで運営しています。

見込みのありそうな奴がヒットしたら、劣化版の端末をプレゼントして様子をみています。

もし、あなたがサイトにたどり着けたら、ぜひ7つ目のアプリに挑戦してみてくださいね。

お待ちしています。

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