第二章、ランの世界

第14話、【番外編】ランのアプリ

いつからだろう。

そのアプリサイトが人々の口に上がり始めたのは。


曰く、数日でアドレスを変える。

曰く、一日に一つのアプリしかダウンロードできない。

曰く、ダウンロードする順番によってサイトに表示されたキャラクターの顔が変わってくる。

曰く、悪魔の顔になったら、端末のすべてのアプリが消える。

曰く、誰も到達していない天使の顔があるらしい。

曰く、アプリは7本あり、ダウンロードするアプリは曜日と関連があるらしい。


つまり7×6×5×4×3×2×1=5040通りの組み合わせがあり、正解にたどり着くのは至難の業だ。


そのサイト『ランちゃんアップリーズ』

ネーミングセンスには賛否両論あるが、今はおいておく。


アプリ7本は次のとおり


・ランキング 7

  様々なランキングを表示するアプリ

  売れ筋だけでなく、推しメンや巨乳・ロリなどもランキング形式で表示

・チャンスカード

  今日のラッキー度を7段階で表示、当たる

・あったらイーナ

  今日のラッキーアイテムを表示

・ぷよスライム

  スマホでスライムを育成する

・りーチ延長

  10cm腕が伸びる、効果は30分、寝ていてリモコンを取る時に便利

・ずっと好きでした

  告白支援アプリ、先に結果が分かる

・世の中公平にね

  不運が続いた時に使うと幸運な事が…


こんな感じで、JKを中心に浸透している。

6個のアプリを使い続けるか、7個目にチャレンジするかといったら、普通は前者を選ぶ。

ちょっと注意すれば、アプリのタイトルがサイト名順に並んでいる事に気がつく。

順にインストする者や、50音順、ローマ字にしてABC順等々、様々な試みがなされているが成功の報告はきかない。

一つだけ趣の違うスライム飼育か、アプリのダウンロードランキングが鍵ではないかと睨んだ俺は、スライムに着目した。


スライムのセリフや行動に、アプリを連想するものがあるのだ。

ここまでは順調にきたと思う。

そして今日、最後のアプリをダウンロードする。


残りは リーチ延長。


ブラウザでサイトを開く。


『ランちゃんアップリーズだよ!』


あれっ、アドレスは変わっていないけど、表示が変わってる!


 → NEXT


『いよいよ7日目だね

 これに失敗すると

 全アプリが消えてしまいます

 覚悟はいいですか?』


 → YES


『本当にいいんですね』


 → YES


『後悔しませんね』


なんか、イラっと来るな

 → YES


『では、次の画面で選択してください』


 → NEXT


『テレポート ・ 変身 ・ 重力操作 ・ 無敵 ・ エアハンマー ………』


なんじゃこりゃ!

リーチ延長は…どこだ!


 『09』


せめて、50音順とかに並べ替え…


 『08』


ソートボタンはない…

この、カウントダウンみたいな…


 『07』


みたいじゃなくって、カウントダウンだよ!


 『06』


待て、こういう時こそ冷静に深呼吸 スー ハー


 『05』


なんて、やってる場合じゃねえよ!


 『04』


リーチ延長 やーい


 『03』


音声認識はないようだ…


 『02』


ああ、俺のリーチ…


 『01』


えっと、次画面とか…あっ、タップしちゃったよ


 『選択を受け入れました』

  チャラリーン


 『全部とは、なんて欲深なんですか…』

  チャラリーン


いや、選択したわけじゃないけど、全部なんて…


 『ニマッ』


牙に尻尾…、これって悪魔の…

終わった…


 『では、アプリを回収します

   See You』


See Youって、またね…

まだ、チャンスは…

アプリ消えてるよ。

ああ、サイトもアクセスできねえよ…


「精神的ダメージが大きいよな。

誰かに、この結果を教える気にはなれねえよな。

そういう事かよ」


もう、寝るしかなかった。

俺の ランちゃんアップリーズ! はオワタ…



翌朝、スマホの着信音で目が覚めた。

だが、鳴っているのはイポンスマホXX。

俺のじゃない、俗にダブルエックスと呼ばれる最新機種だ。

それが、充電中だったはずの俺のイポンスマホに取り替わって鳴っている。


だが、俺の部屋で鳴っており、他に人がいない以上出ない訳には…


『早く出なさいよ! まったくもう!』


「えっ?」


『エッじゃないわよ。

猿ヶ島 わたる で間違いないわよね!』


「はひぃ」 噛んだ


『じゃあ、これからはワタルって呼ぶわね。

私はラン。よろしく』


「はあ…」


『頼りない返事ね。

あそこは朝ボッキして元気なのに!』


「なっ…」


『なにキョロキョロしてんのよ。

スマホがあるんだから、常に見られていると思いなさい!』


「えっ、スマホってそういう機能あるんですか?」


『そのXX<ダブルエックス>にはあるわよ。

私がアプリ組めたんだから、他の誰かが作っていても不思議じゃないわよ。

だからって、女の子の入浴時間を狙ってアプリ使ったら許さないからね。

XXは没収になるし、元のスマホも返さないわよ』


「し、しませんよ」


『ボッキしながら言われてもねぇ…

あっ、こんなことしてる余裕はなかったんだ。

XXを頭の上に乗せて、画面を下に向けなさい。

…そう、それでいいわ。

まったく、全アプリ希望なんて図々しいにも程があるわよ。

おかげで、こんなヘルプアプリや最新機種が必要になるし…

今から、頭の中に直接ヘルプを送るわ。

…、ん完了っと。

じゃあ、何かあったら連絡ちょうだいね。

バイバーイ』


「はい! 有難うございました!」


ヘルプを頭に刷り込まれて分かった。俺はこのXXのテスターとして合格したって事だ。


アプリDLの順番なんて関係なかった。

アプリを通して人間性を見られていたわけだ。


そもそも、7つのアプリ自体がとんでもないものだった。

なんちゃってアプリではなく、ランキングなら市場の実測データや各種予測ルーチンを駆使し、正確な情報を提供している。

そして俺は、さらにその上をいく、文字通り人知を超えた能力を手に入れたことになる。

このテスターという存在は、学校の特待生どころではない。

無期限での授業免除、学費免除。時期がくれば首席以上の優秀者として卒業できる。

大学入試すら必要なく、好きな理数系に進学できるのだ。


ただし、テスターとしての務め。アプリの使用感・改善点などを毎日報告しなくてはいけない。

更に、不定期で特別指令がくだり、対応することが義務付けられている。




俺の名前は 猿ヶ島 亘(わたる)

都内の普通科高校に通う16才だ。

何の因果か、クラスメイトに 田所 桃香 ・ 犬養 敦 ・ 鳥居 橘 そして俺だ。

俺達は「チーム桃太郎」と一緒くたにされる事が多い。


彼らに連絡しないわけにはいかない。

担任から「猿ヶ島君は、今日からしばらくの間授業免除になりました」なんていう情報が伝われば、その日の夕方には全員がうちに集合する。

グループチャットで情報を書き込む。


サル 『特殊な仕事で、しばらく授業免除になりました』


モモ 『私も手伝うから免除申請ヨロ』


キジ 『うん、一人じゃ大変だろう』


イヌ 『もしか、夕べの7米か?』


モモ 『ウッソー、私ランキング一個しか…』


イヌ 『放課後、サル家集合』


結果は変わらなかった…


ヘルプには、秘守についての項目はない。

そこらへんをランちゃんに問い合わせたところ、各自の裁量に任せるとの回答。

問題が起きた場合は、全員の関連記憶消去だといわれた。


ただし、授業免除はない。


夕方まで、部屋でも使えるアプリをチェックした。

『変身』 『ミラーアイ』 『クリーン』の3アプリだ。


『変身』は、指定した対象に変身可能なアプリだ。

標準で一般的な動物や鳥に変身できる。しかも、スマホで写真を撮れば任意の人物に変身可能な優れもの…なのだが、起動コマンドが音声式になっており「テクマクマヤトン○○さんになぁれ」は改善希望だ。

派手なエフェクトも要らないし、一旦下着姿にされるのはご容赦願いたい。女子限定の機能とする事が望ましい。


『ミラーアイ』は、鏡越しに任意の鏡の映像を見る事ができるアプリだ。

夢のようなアプリだが、音声は聞こえず使い道の難しいアプリと言える。

鏡のある場所って、浴室やプライベート空間が多く、欲望を抑えるのに苦労しそうだ。

起動には、音声コマンドで「鏡よ鏡よ鏡さん~…」長い…。

ドンペリルームとかの子供向け番組で、ケロヨンとか言うオバさんがやっていたらしいが。


『クリーン』は素晴らしい。

身体や衣類だけでなく、カメラを起動すればタップだけで綺麗になる。風呂要らずで、キャンプなどに便利かな。

ただ、身体をキレイにするにはやはり音声コマンドで「マハリク・マハリタ・ヤンバルクイナ~ ♪」と一小節を歌う必要がある。

肛門裂男先輩の歌った替え歌メドレイのだ。


余談だが、クイナという鳥は、何であんなに顔色が悪いのだろうか…あれは、ゾンビの顔色だ。



18時にモモがやってきて全員集合だ。


「ごめんちょ。

生徒会の打ち合わせが長引いちゃって…」


”ごめんちょ”とは、ごめん委員長の省略形だ。

委員長とは俺の事で、まあ、今回の事でお役ご免だろう。


「いや、急な事だったし…っていうか、俺 呼んでねえよ。

集合かけたのは犬養だよな」


「僕は音頭をとっただけで、直接の原因はサルなんだから進行よろ」


「まあ、しょうがねえか…

最初に言っておくが、授業免除は俺だけだ。そこは確認してある。

その理由については、俺の責任において話しても構わないとの言質はとった。

ここ重要なポイントだから、茶化さないでくれ。

話を聞いてしまったら後戻りはできない。

最悪、問題になれば記憶操作を受けて関連事項は全て忘れる。

当然、記憶操作なんてどんな弊害があるかわかんないよ。

そのリスクを承知するなら話す。

イヤなら、聞かずに帰ってくれ。

どうする?」


「メリットは?」


「退屈な人生とはお別れできる。

先がどうなるかは分からないが、俺は半日でこれまでの常識ってやつが覆った」


「一つだけ教えて。例のアプリ関連なの?」


「モモが他に思いつかなければそういう事だ」


「乗った。

あのランキングアプリって半端ないもん。

あの情報を元に株で…お年玉が100倍になったわ」


「俺もだ。

あのアプリを解析したが、文字通りクラウド…雲の中だよ。

全然追えない。

あの先を見せてくれるなら、リスクなんて問題ない」


「僕は…」 チャラリラリーン♪


鳥居が何か言おうとしたところで、スマホの呼び出し音がなり、ランちゃんの姿が立体投影された。


『フィー! サル君にイエローカードよ』


「なんで?」


『スマホが警戒の赤点滅を示しているのに気付かなかったでしょ。

鳥居君は何らかの精神的束縛を受けているわ。

それに気付かず、ここまで接近を許してしまった事。

イエローカード3枚でスマホ没収よ』


「うーん…

スマホのアラームには気付いていた。

鳥居の異常にも気付いていて、実は泳がせていたって信じてもらえませんか?」


『なっ…』


「そうだね。

鳥居君の左手にある五芒星がそのままだったから、また何か悪だくみしてるなって思っていたわ」


「はあ…、もう少しで逆探知できそうだったんだけど…

『六根清浄 急急如律令』

悪しき心はヒト型に留まれ。

はぁ、これで相手の神通力は封印しました」


『こっ…、この世界に魔法は…存在しないはず…』


「そうですね。

魔力が存在しないので、代わりに神様の力や地脈を使う方法がごく一部で研鑽されてきました。

それが陰陽師や僕たち呪禁師です」


「という訳で、ランちゃんさんにイエローカードですわね」


勝ち誇ったようにモモが宣言した。

モモ…悪い顔になってるぞ…

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