第12話、管理者ナオの世界

ダンジョンのオープンから一年が経過した。

ダンジョンの運営は順調であり、俺とリズは仕入れ以外はする事もない。人材も順調に育っている。



ある日のこと。

乾燥機が、別世界の出入り口になった。


まったく…使う側の事も考えてくれよ。


背の高い脚立を用意しながら思い出した。

次の異世界に行く時には、ちゃんと偵察してから行こうと、潜望鏡やドローンを用意したんだった。


脚立に乗り、乾燥機の口に潜望鏡を差し込む。

今回の通路は部屋に繋がっていた。

しかも、床面に繋がっており、縦横の変換になれるまで頭がクラクラした。

部屋は石のカベに石の床。

鉄格子の填った窓からは青空が見える。

360度確認して潜望鏡を引き戻す。


ふう…と溜息をついて状況を整理する。

部屋には6人。男5人で女が一人。

ベッドに鎖で縛り付けられた女性。それが管理者ナオだった。

第3王子と宰相、同行の兵士3人。

部屋にあるのはベッドとテーブルにイス一脚。

すべてタグで確認できた。


なにやら険悪な雰囲気だったので、30分ほど時間をあけて再度潜望鏡で確認すると、管理者ナオだけになっていた。


首だけ出して年話を送る。


『サワタリです』


『おお!来てくれましたか。

申し訳ないのですが、魔力をもらわねば身動きすらできない状況です』


『では、鎖を外しますね』


収納アプリで鎖を倉庫に送る。


『これで、どうですか?』


『おお!今回のサワタリ殿は魔法も使うのですか!

でも、本当に身動きすら出来ないのです…

お手数ですが、行為をお願いします』


やむなく、裾をかきわけて挿入する。

3往復半で射精にいたった。

これからは、秒の殺され屋と名乗ろう…


「う…ぅん…

60年ぶりの充足感ね。

これで、人間共を皆殺しにできるわ」


念話が通じたおかげで言葉を理解できるようになった。

こちらの言葉も、自動的に変換されている…ようだ。


「そんな物騒な…」


「私が…拘束されて、どんな仕打ちを受けてきたか分かりますか?」


「ですが、人間を滅ぼしてしまうと魔物を討伐するものがいなくなってしまいますよ。

よろしいのですか?」


「しかたありませんね。この国だけにしましょう」


「もう一声!」


「サワタリ殿がおっしゃるのであれば…この城だけに止めましょう。

これ以上は譲れませんよ。

それから、交換条件です。あと2回分の魔力を希望します」


「いいでしょう。交渉成立ですね」


「では、四龍を復活させます。」


そう言うと、ナオの足下にポトポトと30cmほどの小さな龍が落ちてきた。


「あれっ?一匹見慣れない子が…」


「あっ、それ多分マオのところの竜です」


タグで暴竜であることを確認した俺が告げる。


「なぜ、よその竜が…

まあ、後で本人から聞きましょうか」


ナオはそう言いながら5匹の竜に魔力を注いだ。

5匹は、2mほどに成長してから人型に姿を変えた。

黒・白・赤・青の髪と瞳を持った4人。

銀のカーリーヘアが暴竜になる。


「ボス!会いたかったですぅ!」


暴竜にはシオンの名を与え、経緯を確認したところ、シズク(水竜)のところまでたどり着き、本人が不在であったため帰宅を待っていた。

急におかしな魔力を感じ、抗ったものの巻き込まれて酒と一緒に転移させられた。

相を超える転移酔いでフラフラなところをこの国の兵士に討伐され、核の状態でナオに取り込まれたらしい。


「そういえば、シズクが酒を盗まれたと騒いでいたな。

転移ってのは召喚術みたいなものかな」


「そういう知識と技術を放置するわけにもいきませんね。

やはり、国ごと消滅させましょう」


「まあ、とりあえず調べてみるからさ。

お茶でもしててよ」


スマホ収納から、人数分の椅子を取り出し、お茶セットや茶菓子なども用意する。


「お酒がよかったら、これもあるからさ」


「そっ…それは…」 「竜殺し…」 「じゅる…」


「あらあら、みなさんは討伐されると困りますから、私が預かっておきましょうね」


「じゃあ、シオン行くぞ」


「私も同行しましょう」 「あっ、ずりい!」 「私も」


結局全員で行くことになった…のだが、兵士などの戦闘職には気の毒な限りだ。

竜女5人による憂さ晴らしの対象となった。

そもそも、4~5人程度の集団で竜に挑むだけでも無謀なのに…


「剣士ムジジは何処だ!」

「重騎士ジンロ!正々堂々と勝負しろ!」

「魔剣士ドド!」 「卑怯者のジムザ出てこい!」


城壁に沿ってナオの結界が張られた以上、逃げ出すことはできない。

登城していれば運命は決まっている…


侍女達には、中庭に避難するよう伝えたが、巻き込まれた人はご愁傷さまというしかない。


矢を放ってくるものや魔法を使う者もいたが、かすりもしない。

唯一、生身の俺は存在する相が違うため、体を害するような攻撃はすべて無効化される。

それでも煩わしいので、地竜ラン特製のアプリ 『倍返し』 をセットした。

効果は説明するまでもないだろう。


「ベクトルの方向を反転させて、すべての効果に2を掛けただけですから大したプログラムじゃないですよ」

こともなげに言われた。だったら、2を掛ける元の数値がどこにあるのか教えてほしい…


CPUと融合したあの娘は、もはや人智を超えた存在になってしまった。

地球世界のネットワークから情報は取り放題。

物理的に実現不可能なものは、魔法を代替えすることで実現してしまう。

例えば、重力魔法による滞空がそうだ。

基地局のない無線通話もそうだし、物質転送や空間制御とかetc

このスマホがあれば、日本くらいは征服できんじゃね…やらんけど。


王族や宰相の居場所は3Fの会議室だとナオが言うので直行した。


「剣士ムジジよ、こんなところにいましたか。

一対一で勝負しましょうよ」


「重騎士ジンロ! 次はあなたよ。準備しておいてね」


「ドド、その次だぞ」 「最後はジムザさんよ」


「まて!

我らは宰相殿の指示に従っただけ…」


「あら?

剣士ムジジに討伐されるのを誉と思うがよい…とか言いながら私の首を刎ねたわよね。

竜殺しとか言われて得意になっていたのではないかしら?

今更言い訳ですか?

それとも、酔いつぶれた女の首しか取れないんですか?」


「いや…、しかしこんな場所では…」


「あーっ、悪いな勝負の前に、今の話に出てきた酒のことで確認したい。

そこで使われた酒5本は、どうやら俺のところから盗まれたものなんだが、誰がやった?

国単位での陰謀なら、宰相 お前が知っているんだろうな」


「ふん、礼節を弁えぬ平民の知ることではないわ!」


「ほう、貴族様ってのが他所の世界にまで通用するとは思わなかったよ。

ところでナオよ、この国の王族・貴族全部とサワタリ、世界に必要なのはどちらだ」


「馬鹿なことを聞くな、サワタリ殿に代われる者などいるはずがなかろう。

やはり、礼節を弁えぬ人など滅ぼした方が良かろうよ」


「その話はついただろう。

なあ宰相殿、管理者ナオ殿はこのように申されているのだが、先ほどの質問に答えてくれないものかな」


「サッ、サワタリ殿とは知らず、ご無礼いたしました。

文献に伝えられておりますれば、国をあげて歓待させていただきます」


手のひらを反すように、貴族・王族がひれ伏した。



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