第10話、お年寄りのアイドル
ダンジョンのオープン当日は大盛況だった。
ダンジョンというよりも、テーマパークと言った方が正しいのかもしれない。
初級ダンジョンの上層階までならば、プレイ感覚で遊べる。
温泉にマッサージ。 珍しい食べ物に珍しい雑貨。
子供からお年寄りまで楽しめる場所なのだ。
「おい、もっと力を入れて揉んでくれ!」
「はっ、はい」
ギュッギュッ
「もっとだ!」
「はっ、はひいッ」
「いいよ、私が代わってあげる」
「あっ、アカネさん! すみません」
「おいおい、ガキの次はお嬢ちゃんかい」
「最初に言っておきますけど、耐えられないようならベッドを2回タップしてくださいね」
「おお、楽しみだ…」
「凝っているのは、右肩ですね」
ギュウゥゥゥッ…
「ギャアッ!」 パンパンバン!
「あらあら、こんなものでギブアップですか?」
「ギブッて何だよ。いツツッ… マッサージだよな?」
「強くってリクエストにお応えしただけですよ。
じゃあ、マッサージにうつりますね。
ちょっと、ピリッとしますよ」
「ヒャアッ!」
「ちょっと鬱血してますね。
もう少し強めに電気を流して揉み解しますから、我慢してくださいね」
ピリピリ モミモミ
「アウッ! アッ! アヒィ!」
「はい。右肩は終わりましたよ。
左もやっておきましょうね」
ピリピリ モミモミ
「アウッ! アッ! イィ!」
「はい、終わりましたよ」
「アカネさーん、こっちもお願いします」
「はいはーい。
じゃ、お大事に」
「…」
アカネは雷竜であるが、スタッフには電気系の魔法が使える少女 という事にしてある。
ようはヒト型低周波治療器兼麻酔係として引っ張りだこである。
アカネ自身も、人から頼られることを喜んでいた。
「このお客様なんですが、膝が痛いのでマッサージで痛みを和らげてほしいと…」
「ちょっと見ましょうか。
あー、関節液で膝がパンパンに腫れているじゃないですか。
これは痛いですよね…」
「そうなんじゃが…お主はこの病を知っているのか?」
「お爺ちゃんよりも遥かに長く生きていますからね…
直し方も知っているし、ここには道具も揃っているから簡単なんだけど…」
「なんじゃ?
治せるもんなら…金なら、言い値を払うぞ」
「お金の問題じゃないんですよ…
うーん…、王妃さんからね…厚生局としては、あんまり治療院の分野には手を出さないようにって…」
「ほう、王妃様もその辺りは配慮してくださっているのだな。
うむ、そこは心配無用じゃ。
治療院でも見させたが、治癒では痛みが和らぐものの、完治できんのじゃ」
「そうなんだよね。
これは、膝に炎症がおきて、体が必要以上の関節液を作っちゃった状態なの。
治癒で炎症は治るけど、作られちゃった関節液はそのままだから、物理的に排出させないと治らないんだよね」
「なんじゃ。切って中の液を出せばいいのか?」
「切ると、全部流れ出ちゃうじゃない。
だから、細い管を差し込んで、要らない分だけ吸い出すの」
「ここには、その道具があるんじゃな」
「ありますよ。
ホントは、アロマオイル調合のために用意した偽物ですけど、消毒して先を尖らせれば同じですから」
「ふむ。
責任は、この私、教会長であるアーメンマがとる故、その処置をお願いしたい」
「ふーん、お爺ちゃんって偉い人だったんだ」
「肩書なんぞ、そちの持つ知識と技術の前では意味もないが、こうやって使うとカッコイイじゃろ」
「おーい、爺さんのテヘペロなんぞ、見たくもねえぞ」
隣のベッドからヤジが飛ぶ。
「むうっ、産業局長は治療院へ立入禁止じゃ」
「まてっ! マリアちゃんに会えなくなるではないか!」
「はいはい、始めますから、おとなしく寝てください」
「おお、やってくれるのか」
「針を刺しますから、チクッとしますよ…
これくらいね。
はい、終わりました。
あとは、傷薬と念のため回復薬をお願いね。
10分くらい寝ていてくださいね。
そしたら、普通に歩いて大丈夫ですからね」
「おお、痛みも圧迫感も無くなった。
本当に治ったんじゃな!」
こうして、マッサージ室に看板娘が誕生した。
治療院のマリアとダンジョンのアカネ。この二人は本人達の知らないところで爺さん達のマドンナとして人気を二分していく。
貧乳派vs巨乳派、ロリコン派vsシスコン派、ブルネット派vsブロンド派etc、まあ、どうでも良いが…
オープンから一ヶ月。
中級ダンジョンの最下層に置いてある宝箱からエリクサーが発見されると、一気に冒険者数が増加し、商人の数も増えた。
ダンジョン入り口の周辺には、仮設店舗が並び、”エリクサー買い取ります”などの看板が出てきた。
人が増えれば、酒場が出来て宿屋ができ、風俗系も顔を出す。
あっという間に、小さな町に成長した。
二ヶ月を過ぎた頃、ダンジョン入り口の反対側に湖が出現した。
やってきたのは、当然水竜の…胸の放漫なお姉さん。
妻にしろと迫られて、側室二号に納まった。 名前はシズク。
これで、温泉の水源と水質が補完された。
そして3ヶ月。当然のように残っているうちの火竜がやってきた。
お湯番に納まるかと思いきや、溶岩魔人が譲らなかった。
ちょうど同じ頃、上位モンスターから食堂と温泉の利用希望が上がってきたため、ダンジョンを拡張しそっちを任せる事にした。
半年が過ぎても暴竜は現れない。
リズはお祖母ちゃんの口利きで戸籍を取得できた。
最初に臨時モデルをつとめたショップで専属モデルとして契約も締結し、地球側での生活基盤もできつつある。
向こうで稼いだ金貨の換金ルートも婆ちゃんが手配してくれた。
稼いだ金で太陽光発電の設備を購入し、城に設置する。
これで、城に冷凍庫と電子レンジを展開。
一方で、城の料理人には調味料やソース、コンソメ等のこの世界では加工が難しい品を提供する。
そんなある日の事。俺は不思議な光景を目撃する。
上級と思われるモンスターが武器屋に入っていったのだ。
それ自体は不思議なことではない。
モンスターだって武器を使うものもいるから、メンテナンスに訪れることもあると聞いている。
不思議なのは、何本もの剣を抱えていたことだ。
俺は気になって武器屋に入った。
「おばちゃん、これだけの業物だぜ。
金貨3枚ってことはねえだろ」
「何言ってんだい、これだけ刃こぼれしてたら、もう普通の研ぎじゃ済まなイんだよ。
材料代にしかならないね。
次からは、打ち合わずに回収するんだね」
「くそっ、あいつらも腕を上げてきたからなぁ・・・」
「どうしたんだ?」
「あっ、グラマス。お久です」
「おう。で、その剣は?」
「戦利品っすよ」
「お前ら、金なんて必要ないだろ」
「いやだな…
グラマスが言ったんじゃないっすか。
贅沢したけりゃ自分で稼げって」
「あーっ………言ったな」
「だから、倒した冒険者から高そうな武具だけ回収して売りさばくことにしたっす」
「その金は、何に使うんだ?
武器の新調か?」
「いやだな。酒代っすよ」
「飲食費はかからないハズだぞ」
「やっぱ、旨い酒飲みたいっすよ。
外の屋台にも興味あるし…」
「そうか…」
「俺らの最終目的は魔力の散布っす。
その時が来るまで、楽しんじゃダメっすか…」
「いや、応援する。がんばれ!」
コジロとロクサンヨンは中級ダンジョンのボスを守る双璧だ。
この半年で、一度だけ攻略された。
攻略は彼らの消滅を意味する…
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