第9話、プレオープン
収納アプリ…とりあえず、そう呼ぼう。
収納アプリは物流の改革をもたらした。
ゲートを通過できない大きさのもの…単車のホークⅡや温泉のロッカーなど…も、持ち込めるようになった。
椅子やテーブル、商品も段ボール10箱単位で買い付けることができるのは価格的にもメリットが大きい。
傷薬のマキドンも、100均のアトマイザーに小分けして販売する。
こうした細かい作業は子供向きである。
ダックスバスの5匹も、日に日に巨大になっていき、15人分の座席ができた。
こうして、ついに(仮称)ダンジョンランドのオープン前々日を迎えた。
この日は、身内による最終チェックを兼ねたプレオープンだ。
王と王子は、俺の提供したスクーターでやってきた。
これにもランの改造が入っており、ガソリンではなく魔力で動いている。
だが、国のトップ2が単独行動でいいのかよ…
実はダックス君のほうが早いのだが、そこいらの匙加減は流石に王妃様だ。
ダンジョンランド内は基本的にキャッシュレス化している。
仕組みは、ランが地球のLANから知識を得て魔法を組み込んでシステム化したらしいが、すべてギルドカードで決済される。
「ギルドカードを発行するために、強さのレベルを確認し、見合ったダンジョンに挑戦していただく必要があります。
では、王様からこちらへお願いします」
「えっ、俺もやんの?」
「カードがないと、ダンジョン中のサービスが受けられませんよ。
いいんですか?」
「でもよ、万一初級とか判定されたら、王としての立場がないじゃん。
しかもお前って、そういう配慮しないだろ…」
”E”
スライム導師の判定は Eレベル だった。
スライム導師は結構試行錯誤したね。
判定に不服が出た場合、そのレベルに応じたモンスターに変身して模擬戦を行うようにした。
「良かったですね。
E判定なら、中級ダンジョンに入れますよ」
「俺が入るのは温泉だ!
混浴万歳だ!」
「えっ、男湯と女湯は別れてますよ」
「なにっ! 貴様には男のロマンは無いのか!
王妃、話が違うぞ!」
「だって、そう言わないと貴方来ないでしょ」
「はいはい。次でカードが発行されます。
指先に針を刺しますよ。 ちょっとチクッとしますからね…」
指先に出来た血玉をカードに付けると名前やランク、所属がカードに浮かび上がった。
「はい、ナンバー1のカードです。
今日は全て無料でお試しいただけます。
回復系アイテムも1セットプレゼントしますよ」
「仕方ない、美女のマッサージでも受けるか…」
「男性のマッサージは、孤児の男の子ですけど…」
「王妃!」
ナンバー2は王妃、ナンバー3は王子のカードとして発行された。
王妃は他の奥様方のカード発行を待って温泉とマッサージに向かった。
「仕方ない。 俺はバイクで憂さ晴らしでも…」
「王様、軽く食事でも如何ですか。
こちらの世界にも「うどん」はありますが、それ以外の麺料理を召し上がってみませんか」
「麺料理?」
「ええ、お湯を注ぐだけで食べられる、お手軽な庶民の食べ物ですけど、俺の世界では大ヒット商品です」
「ふむ、偶には庶民の食べ物もよいか…
王子、いくぞ!」
「えっ、これから中級ダンジョンへ…」
「そんなの後にしろ! いいから行くぞ」
「いらっしゃいませ… あら、お父様…お兄様」
「なんだ、リズが作るのか…」
「今、すごく失礼なこと考えませんでした?」
「いや…そんなことは…ないぞ…多分」
「で、何食べるんですか?」
「分らんから、お前が選んでくれ」
「じゃあ、お父様は冷凍パスタのミートソースで、お兄様はカップ焼きそばの塩ね。
きっと二人とも気に入るわよ」
冷凍パスタは電子レンジで6分。
その間にカップ焼きそばに具を入れてお湯を注ぐ。
3分砂時計で焼きそばを仕上げ、ちょうど出来上がったパスタを皿に盛りつける。
パスタには乾燥パセリを振りかけて、二食同時にカウンターに出した。
「はい、どうぞ。 あっ、カードに記録するので出してくださいね」
「おっ、おう…、やけに早いな…」
「どれどれ… 麺と葉物が少し… ヘルシーすぎないか…っ! … …うみゃー」
「こっちも、味が整っている! うーむ、娘の作った料理… 侮れないぞ!」
「塩味っていうから、そんなに期待してなかったんだけど、塩だけじゃない複雑な…旨味のある味。
しかも、ピリッとスパイスも効いていて…なんだ、この旨さは!」
「パスタもだ。 ひき肉と野菜の微塵切炒めて…いや、煮込んであるのか…味付けは…甘辛く…これはフルーツや野菜系の甘さだな。
ベースの調味料は…わからない、初めての味だ。
こんなフクヨかな味を作り出すには、どれだけの時間を費やせば…城の料理長に再現…、いや無理だ。」
「父上、そちらのパスタも、少し…」
「おお、塩焼きそばも食べてみたい…」
「あっ、すまん、少しこぼした」
「そのままでいいですよ。
クリームちゃんお願い」
「ピキーッ」
直径15cmの、半透明なゼリーが現れた。
淡い緑で、黒い点々が目なのか。
「なっ、なんだこいつは!」
「クリーンスライムのクリームちゃんよ。
私がテイムしたんだけど、その程度の汚れなら完璧にお掃除してくれるわ。
あとね、体の汚れや耳掃除なんかも得意なのよ」
「お前が、テイム?」
「うん。 レアだけど初級ダンジョンに出現するの。」
「テイムって?」
「出会って、逃げなかったらチャンスね。
ゆっくり目線をあわせて、慎重に手を差し出すの。
手に乗ってくれたらテイム完了よ。
その時になれば、感じが分るわ」
「よし、王子! 食ったらダンジョンだ!」
「初級とはいえ、二人だけじゃ危ないわよ。
今、だれか案内できないか確認するから」
だが、関係者ではモンスターの方から寄ってきてしまう。
テイムして~って感じでだ。
結局、アメイヤの弟、カベオと愉快な仲間達にお願いした。
初級ダンジョンは、地下5階層まである。
最初のフロアには、スライムをはじめとして癒し系・モフモフ系のモンスターが中心だ。
攻撃も、眠りや軽い麻痺・痺れなどで死ぬことはない。
「こんなモンスターじゃ、倒すなんて可哀想だ。
よし、テイムしてやるぞ」
チャラリーン:王様は、眠ってしまったようだ…
「まったく、父上は油断しすぎなんだから」
パンッ!パンッ!王子は王様の頬を叩いた。
「王子、回復薬を…」
「もったいないでしょ」
「…おまえ… 父親を何だと…」
「今日は、完全オフですから
この程度のモンスターなら、ワンパンでしょ」
「てやっ!」 ボフン zzz
チャラリーン:王子は、眠ってしまったようだ…
パンッ!パンッ!
「まったく、油断しすぎだな。
おっ、目当てのクリーンスライムではないか!」
クリーンスライムが現れた。
どうしようか、迷っているようだ…
「いいこだ… どうだ… 城で贅沢三昧させてやるぞ…
そうだ… この手に…」
「ブェックション!」
ダダダダッ クリーンスライムは驚いて逃げ出した。
「ぶぁっかもん!
もう…少しだったのに…」
「すみません父上…」
「王様、それより、あの茂みの中…
宝箱じゃないっすかね」
「どれっ、おお!」
「それで、無防備に空けたわけね。
それって、初心者が引っかかるスリープボックスってモンスターよ。
で、オイハギンに身ぐるみ剥がされて、パンイチで仲良く眠りこけていた…
みんなで、どれだけ探したと思ってるのよ!」
「申し訳ない…
王子がクシャミせなんだら…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます