第8話、オープンカー

「よし。 一か月後にリニューアル・オープンだ。 それまでここは閉鎖するぞ」


「では、竜たちの番だな。

地竜には一万匹ほど精子をくれてやろう。

どんな変化があるか、楽しみだな…」


そう言いながらマオが触れると、ランドが淡く光りだした。

一旦元の形状に戻り、周囲に置いたパーツをガチャガチャと取り込みながら変形していく。

やがて治まった光の中から現れたそれ(・・)は、ヒト型をしていた。


「マスター、それにマオ、ありがとうございます。

これで、マスターのお役に立つことができます」


お前はどこの未来から来た殺し屋なんだ…と、突っ込みたいが我慢した。


ワオーン


丁度、オルトロスも戻ってきた。

オルトロスにも同量の精子を分け与えると、こちらは座敷童風の和風童女になった。


「お父様、よろしければ名を賜りたくお願いしたいのですが…

ご迷惑でしたら… 諦めます…」


魔法のない地球世界で、消費される事のない魔力をサワタリ一族は体内に蓄え、精子の形で放出する。

これをマオやモンスターの細胞が取り込む…いや、喰らう事で活性化する。

だから、お父様ではない…筈だ。


想像してみよう。

精子が泳いで卵子に飛び込み受精。細胞分裂が始まる。 これが普通だ。


俺の場合、泳いでいる精子がパックマンのような細胞にパックンチョされ、細胞分裂が始まる。


あんまり変わりねえじゃンか…仕方ねえ。


「お前は、茜だ。

そんでもって、ランドも女の子みたいだから蘭な」


「アカネ…なんかキュンとくる名前です。 ありがとうこざいます」


「ラン…地竜である私に花の名をいただけるとは…感謝いたします」



全員でダンジョン改造について打ち合わせを行い、俺は王妃に伝えるためリズと二人で城に向かうことにした。


「ラン、城まで頼む」


「了解です、マスター」


ガチャガチャとパーツが組み変わると…


「お、おい、これって…」


「マスターのPCにデータがありましたので復元してみました」


「イオタ…」


俺の憧れ。 ランボルギーニ イオタ。

オリジナルは世界で一台しかなく、もう存在しない。 エンジンはアメリカに渡ったと聞く。

現存するのはミウラをベースにしたレプリカのみ。

それでもいい。 あのフォルムは憧れに値する。


「オープンカーにして、エンジンスペースを利用して後部座席を組み込みました。

この形状であれば、このまま飛行可能です」


王妃には、ダックスバスをお任せして、一か月のダンジョン封鎖 …神の啓示があったことにした… と、エリクサーがダンジョンの宝箱から出現した等の周知をお願いした。

ダックスバスは、一匹対価として取られたが、想定内である。


孤児の件は、本人たちが希望すればいくらでも使っていいとお墨付きをもらった。

次に、国としてダンジョン運営に参加できないか打診され、冒険者ギルドの設立を提案した。

ダンジョン由来の素材調達を受注し、現地で手配するのだ。

その他の素材買い付けや、城での回復系のアイテム販売も手掛けてもらう。

そうすれば、厚生局長としての活動にできる。


「いいわね、それ。

ダックス君たちも、現地との連絡手段と考えれば厚生局の業務にできるわ。

業務なんだから、一日中この子たちの世話をしていても文句言われないわね…うふふ」


「お母さま…」



翌々日、ダンジョンの基本構造を造り替える。

これでマオの魔力がスッカラカンになったので、俺はリズを抱いてマオの魔力を補充する。


ダンジョンの入り口は、馬車2台がすれ違える広さとなっており、なだらかなスロープで直径50mの中央広場へとつながる。

スロープは真西に位置し、北は初級ダンジョン、東は中級ダンジョン、南は上級ダンジョンへの入り口となっている。

広場に面した区画は、間口10m×3か所となり、俺の居住区兼店舗と素材買取所は東南の3エリアをもらった。

北東エリアは温泉と簡易宿泊所で、冒険者ギルドもこのエリアに入る。

北西エリアと南西エリアは未定だが、たぶん厚生局に1区画提供することになると思う。

屋台や酒場は地上部分だ。


照明については、食虫植物型モンスター エルイーデーがマオにより開発された。

光によって来た虫やネズミ等の小動物を触手で捕食する優れモノだ。

後に”G”にも効果があると分かり、厚生局からの要請で国中に普及していくヒット商品だ。


温泉の熱源は、溶岩魔人だ。

こいつは砂糖が大好きで、毎日バケツ2杯の砂糖水を提供するだけだ。

一か月で砂糖一袋。 無公害のエネルギー源となった。


温泉では、女性限定でアカスリと美容マッサージを行う。

現在リズが講習を受けに行っているが、これを孤児院の子供たちに教える予定。


俺はモンスターのデータベースを作っている。

モンスター名と特徴。 素材になる部位の確認と記録だ。

デジカメの写真付きだ。

いずれ、書籍化して金貨1枚で売り出そう。


そういや、こっちの文字で作らないといけないのか…やっぱり面倒だ。却下しよう。



意外と面倒なのが、価格設定だった。

入湯料やマッサージ代。回復アイテムの売価。従業員の賃金etc


こちらの貨幣は


●金貨…銀貨10枚と同等:地球での価値 5万円相当

●銀貨…銅貨10枚と同等:地球での価値 5千円相当

●銅貨…鉄貨10枚と同等:地球での価値 5百円相当

●鉄貨…石貨10個と同等:地球での価値 5十円相当

●石貨…きれいな石、特に加工はしていない、個人により認識の違いあり

      主に貨幣と同じくらいの大きさで、平べったいものや丸いものが好まれる


石貨は一般的に貨幣として流通しているわけではなく、主に教会や貴族の主催するバザー等で使うことができる。

集めた石貨は、玉砂利の代わりにしたり、噴水に沈めたりしている。

要は、これだけ慈善事業を行っていますというステータスなのだ。

誰が始めたのか定かでないが、これって好ましく思う。


入湯料は安くしたいので鉄貨2枚。

マッサージは、使用するオイルやクリームによって銀貨1枚から金貨2枚。


金貨2枚は安すぎるんじゃないかと王妃から言われ、金貨5枚のスペシャルコースを提供することにした。


入浴から髪・ネイルのケアまで行い、使用したオイルやバスローブ・香水などすべてお持ち帰りの、貴族専用コースだ。

ただ、ここは手を出したくないので、厚生局に丸投げした。



2週間ほど経過したとき、ランからとんでもないものを渡された。


「マスター、空間を制御して、保存スペースを確保しました。

重力制御も併用して、時間経過も百分の一にしてあります。

出し入れは、このスマホ用にアプリを開発しました。

カメラで映ったものをタップすれば収納できます。

出すときは、同じアプリの一覧から選択できます。

よろしかったらお使いください」


「えっ、収納機能のついたバッグとかじゃなく、スマホなの?」


「はい。

普通の収納では、面白くないですね。

あと、端末同士での遠隔通話も可能です。

今のところ3台。

マスターとリズさまとアメイヤさまの分です。

私は自前の通信機能がありますので端末は不要です。

相手の名前を言っていただければ、常時接続状態の私が相手を呼び出します」


「これって、俺の世界じゃ使えないよね…」


「いえ、ゲート経由を選択していただけば、どの世界からでも収受可能です」


お古のスマホがとんでもないことになった。

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