第7話、オルトロス
ダンジョンへ機材を運び上げているとマオがやってきた。
精子の貯蓄には70時間必要だという。
夕方まで待つ必要があり、結局オルトロスに乗っていくことにした。
オルトロスは体長2m以上あり、3人くらいまで乗れるといわれたが・・・怖かった。
競走馬の最高速度が時速70kmくらい・・・
競走馬も単車も、膝でボディーを挟み込んでいるから乗れるのだ。
鐙とかステップのない犬の上で…首にしがみつくしかないだろ…
当然だが、町の入場門と城のゲートで一悶着あった。
こういう時こそ地球産のプレゼントが効果を発揮する。
グミの小袋を一袋づつプレゼントし、事なきを得る。
城の前でリズを呼んでもらう。
オルトロスを労いながら首筋を撫でていたら、いつの間にかモフり隊に包囲されていた。
「撫でても大丈夫ですか?」 「ワフン~♪」
「私もいいですか?」 「クゥ~ン♪」
「匂い嗅いでもいいですか?」 「バウ!」
「すっごい大きいんですね!」 「ワフン!」
「なんて種類なんですか?」 「バウバウババウワ…」
「名前は?」 「バウバウワ…」
「バウちゃんですね、可愛い!」
自分で返事すんなよ…通じねえよ。
いつの間にか、リズや王妃も混ざっていた。
王妃はこんなプレゼントをいただいてどうしましょとかのたまわっていたがスルーした。
リズに、オルトロスに乗って帰るから、着替えるように伝えると、何故か王妃まで乗馬服に着替えてきた…
まあ、いいけど…
良くなかった…
オルトロスは鞍を乗せられ、手綱をつけられた。
「堪えてくれくれ…オルトロスよ。義理の母親なんだ」 「ワフン…」
「なにゴニョゴニョ言ってるの。さあ乗って。帰りましょう」
「えっ?帰るって…」
「ごめんなさい、リュウジさん…
夕べ、色々と話したら…すっかりその気になっちゃって…」
「でも、お義母さんは向こうの世界に行けないかもしれませんよ」
「えっ、どうして?」
「元々、あの通路は、サワタリの一族か神様に近い人しか通れないらしいんですよ。
リズが今通れるのは俺の伴侶になったからだし、最初に通れたのは異例な事だったみたいです」
「じゃあ、私もリュウジ君と関係を持てば・・・」
「却下です」
「とりあえず、本当に入れないのか確認しましょう。
さあ、後ろに乗って頂戴」
やはりダメだった。
手を繋ごうが、抱きかかえようが、王妃の身体は床で阻まれてしまう。
「何をやっている。
通路はサワタリの血を引く者しか通れないと教えただろうが」
「リュ…リュウジ殿、こちらのお方は…」
いつの間にか、王妃は跪いていた。
「あーっ…、俺をこの世界に呼んだマオさんです」
「リュウジ、個人情報を勝手にバラすんじゃない!」
「義理の母親で、この国の王妃様なんですよ。
仕方ないっしょ」
「だが、そこまでだ。
王妃とやら、いずれ会う事があるやもしれんが、今はまだ必要ない。
今日のところは、このまま帰ってもらうぞ」
「申し訳ございません。 お言葉のままに…」
王妃にはオルトロスに乗って帰ってもらった。
「さて、と… その娘が嫁でいいんだな」
「ああ、嫁のエリザベス・サワタリだ。」
自分で言っておきながら、顔が熱い…多分真っ赤だろう。
「こっちは、管理者のマオ まあ、神さまみたいなもんかな」
「ふん、神なんぞ、人が自分に都合のいい存在を考え出しただけの事。
私は、全ての存在に公平だぞ」
「カ…ミ…さ…ま… … …ッ!
し、失礼いたしました」
リズが慌てて跪き、頭を垂れる。
「なあ、リュウジよ、これが正常な人の反応だぞ。
王妃もそうだったが、人は神を敬うもんだ」
「勝手に呼びつけておいて、敬えもねえだろう。
それに、俺の世界の神じゃねえだろうに」
「ん、まあ…そだね~っ!」
「おまえは、どこぞのカーリング選手かよ!
…っ、勝手に菓子をポリポリ食うんじゃねえ!
しかも、マオならフィギアだろ! 道を外すんじゃねえよ」
「エリザベスよ、こんなケチな男は考え直した方が良いぞ」
「うるせえ! 他人ん家の事だ! 余計な口を出すんじゃねえよ!」
「まあ、そういう訳でとっとと済ませてこい。
おっと、これを避妊具のように装着してな。
そうすれば、精液は私の元に転送される。」
「何だコレ…ピンクの…スライムかよ…」
「目も悪いようだな… 幸せを運ぶピンクのゾウだろ、どう見ても」
「そりゃあ、装着すれば猛り狂ったゾウになるけどよ…
そんで…部屋に戻っていいのか?」
「大丈夫とは思うが、異相を超える事で変質する可能性がある。
寝室を用意したから、そこでヤッてくれ」
「分かった。
それで、これがダンジョン改造計画の素案だ。
目を通してみてくれ」
リズは”嫁”と紹介したところから、真っ赤になって跪いた姿勢のままピンクのゾウがとかブツブツ呟いている。
リズを抱きながら、概要を説明する。
ただ、マオに言われたからではなく、俺自身が抱きたいんだと強調しておく。
それと、向こうの世界にも戸籍を作って、正式に夫婦になろうと言うとリズは恥ずかしそうに首肯した。
なんか、JKを騙してモノにしたような罪悪感が…ちょビっとある。
コトを済ませて部屋を出ると、マオが真剣な表情で素案を読んでいた。
「どうだ、それなら魔力の活性化が可能だろう」
俺の精子で活性化したマオのモンスター細胞は、単独で細胞分裂を繰り返しモンスターへと至る。
別に受精した訳ではないから、俺の子供でもない。
このモンスターが討伐される事で魔力が散布・拡散される。
魔力が濃くなれば、魔法を操る人間も増え、モンスターを討伐する人も増える。
有効な精子は約一千万で、今までは50年近くかけて放出してきた。
その頻度を増やすことで活性化させる。
人間の意欲を煽るため、年に数本のエリクサーを宝箱に仕込む。
ダンジョンも拡張し、奥深くいくほど高レベルのモンスターを配置する。
そして、俺は回復薬を中心にここで販売する。
「だが…、お前はいいのか? この世界中心の生活になってしまうぞ」
「ああ、覚悟してる。
まあ、金貨を稼いで向こうで換金すればうまく回るだろう」
「なら、良いが…。
この拠点は、もっと入り口近くにあったほうが良いのではないか?
それに、王都への定時便馬車は、モンスターを使ったほうが早いぞ」
「ゲートの移動が可能なのか?
それに、馬みたいなモンスターがいるのか?」
「お主の世界に、バス型のネコがいるではないか。
あれは便利だぞ!」
「ネコ…バス? アニメじゃねえかよ・・・」
「ふん、知っておるわ。
あれだけ明確なイメージがあれば、真似ることは容易いぞ」
「おい、著作権が……」
「ふん、私はイヌ派だぞ。
そうだな…、足が短めで胴長… … …!
ダックス! ダックスバスじゃ!」
マオの叫びにあわせて、ミトン風の裾からボトボトと落ちてきた。
「いかん、あまりにも素晴らしい思い付きに、実体化してしまったぞ」
「かっ、可愛いじゃねえか…」
そこには、ダックスバスの子犬が5匹…クウン、ワウンと啼いている。
「可愛いです」
リズも駆け寄り、しゃがみこんで膝に乗せる。
「どれくらいで実用可能だ?」
「まあ、一か月だな」
「よし。
一か月後にリニューアル・オープンだ。
それまで閉鎖するぞ」
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