第3話、肖像権って知ってるか?
「写真いいですか」「一緒に写メ撮ってもらえませんか」「SNSにアップしたいんですけど」「オジサン邪魔、どいて!」
「その服、どこで買ったんですか・・・」「ポーズお願いできませんか」「オヤジ邪魔だってんだろ!」
一人が突破口を作ると、あっという間に同調する者が増える。
「写真撮るのは勝手にしていいけど、ネットにアップは禁止!」
リズはきょとんとしている・・・
そのうちに、遠目から写真を撮る奴らが現れる。
風景を撮っていたら、偶然美少女が写っていました・・・作戦だ。
この場合、肖像権が認められるのかは難しくなってくる。
このまま、ハーメルンよろしく知り合いの洋食屋に入っていく。
「あら、珍しい・・・彼女?・・・だと、犯罪の匂いがするけど・・・」
「知り合いの子供を預かっているだけだよ。日本語も分からないんだ。
彼女にはオムライスで、俺は生姜焼き定食ね。
あとおススメを適当に」
「そうね・・・真鯛のマリネとマグロの炙りなんか如何?
あと、生姜焼きじゃなくて、ポークジンジャーね!」
「じゃあ、それでお願い」
「はい。
で・・・ゾロゾロと入ってきたのは彼女目当て?」
「写真は撮っても良いって言ってあるから、よろしく。
彼女と同じオムライスでも売り込んであげてよ」
「卵が一気になくなっちゃうわ・・・
契約農家から買い付けているから、そんなに量ないのよ」
「そうなんだ。あのフワトロが、家でできないんだよね・・・卵に秘密があったとはところでさ・・・」
イベントプランナーとして提案したのは、裏メニュー”フワトロオムライス・LIZスペシャル”。
いつものデミグラスソースの上に、生クリームでLIZと名前を入れる。
他に、付け合わせで差別化できればOK。
どうせリズの写真は拡散する。
だったら一緒にオムライスも広めちゃおう・・・って、安易だけどここのオムライスなら確実に評判になる。
開店間もない店だけに宣伝効果大だろう。
オムライスを見たリザの笑顔にパシャ!パシャ!パシャ!
一口食べた幸せそうな笑顔にパシャ!パシャ!パシャ!
自分たちのオムライスが来た時にパシャ!パシャ!パシャ!
そして一口食べて・・・「ナニコレ」「ンマーイ」「信じられない!」
キャッチコピーが浮かんだ。
”あんまりうるさいと”
”店に代わってオシオキだべ~!!”
コスチュームはセーラ〇戦士
マスクはドロン〇ョ様・・・
次は夜の観覧車だ。
一周15分のデートコース。
上るにつれてリズのテンションも上がっていった。
そして頂上(てっぺん)付近で雰囲気が変わった。
「ここが異世界・・・」
「思い出したようだね」
「・・・はい・・・あの・・・」
どこを思い出したのか、リズは真っ赤になった顔を両手で隠した・・・
「ご迷惑をおかけいたしました・・・」
問題ないと応えたが、それっきりリズは無言になった。
口を開いたのは、部屋に戻って風呂に入って寝ようと提案した時だった。
「リュウジ様・・・私を娶っていただけませんか・・・」
理由を尋ねたところ、異世界の勇者様と結ばれるのは、彼女の祖母クリスの夢だったという。
50年前、この国に異世界人が現れ、生活基盤など様々な改革をもたらした。
その勇者の世話役に就いていたのがクリスの父親で、クリスは勇者から娘のように可愛がられていた。
自分の世界に妻と娘がいるが、帰れるのかどうか分からないという勇者に、帰れなかったら自分が妻になると宣言するクリス。
自分の父親よりも年上なのだが、少女の”大きくなったらお嫁さんになってあげる”は、年齢など超越する。
時に父親に宣言する事もある程だ。
だが、勇者は”国に戻る方法を探す”と城を出たまま戻らなかった。
その後、皇太子に見初められ王妃となるのだが、”初恋”について孫の寝物語に語っただけなのだ。
幼いリズの心に宿った”仮想初恋”は、いつしか”お婆さまの代わりに、私が勇者様を見つけてお嫁さんになってあげる”という、訳の分からない想いへと成長した。
彼女は勇者の妻になるべく、花嫁修業をした。
料理・洗濯・裁縫・育児・・・およそ王女には必要のないスキルを身につけた。こちらの世界ではそれが必要だと知ったからだ。
俺に、リズの申し出を断る理由はなかった。
わが相渡(さわたり)家の家訓は自立である。
アパートの部屋こそ爺ちゃんから借りているが、一人で生活している。
女性に興味がない訳でもなく、リズのような真っ直ぐな心には応じてやりたい・・・というか、明確な返事は待ってもらい、シャワーの使い方を教えていたところで・・・
頭から水をかぶってしまった。二人とも・・・
すぐに服を脱ぎ、浴槽に飛び込んだ。二人で・・・
狭い浴槽の中で、プヨン・ムクムク・ムラムラで・・・うん、責任はとるぞ。
翌朝、カベオ君に親族の迎えは必要ない旨伝える。
彼は前屈みで応じた・・・うん、カロリーメイドの効果は証明されたみたいだね。
ドラッグストアの開店を待って、手みやげを買い込む。
「お嬢さんをください」宣言するのだ。奮発しよう。
ワイン赤白各3本と日本酒・ウイスキーを各2本で計10本。
カロリーメイド10箱にマキドン10本、ゼリー飲料90個。
クッキー2箱にマヨネーズ2本。さきいか、ツナ缶などつまみ系を適量。
5万円を超えてしまった・・・
天井の通路も、いつまで開いているか定かではない。
ある日突然ふさがってしまった場合、今生の別れとなってしまうのだ。
逆のパターンもある・・・リズとは離れないようにしないとな・・・
段ボールに梱包した荷物を天井裏に上げる。
一緒にアルミ製の折り畳みリヤカーとマイチャリ。それからチャイルドシートを上げる。
天井板2枚分。45cm×90cmが上げられる上限サイズとなる。
俺が乗っているバイクはCB400T、いわゆるホークⅡって爺ちゃんから譲ってもらったやつだが、とてもじゃないが無理だ。
もう一台の愛車がこれ。オフロード向けの電動アシスト機能付きのチャリ。
チャイルドシートは改造品で、小柄な女の子なら使える。
これでリアカーを曳いていくつもりだ。
そういえば、アルミのリアカーって、
欲しがるやつもいそうだ。
カベオたちの朝食はカップ麺を食わせておいた。
のん兵衛各種だ。
俺たちは電子レンジでチンのパスタ。リズは暗い洞窟のカルボナーラを美味そうに食べていた。
昼用には、菓子パン・総菜パン・飲み物を買ってきた。
・メロンパン:疲労回復・小
・カレーパン;興奮状態・小
・アンパン:幸福感増
・焼きそばパン:癒し効果・小
・ハンバーガー:鎮静化
・乳酸菌飲料マニー;整腸効果
・コーヒー牛乳:豊胸効果・小
・牛乳:豊胸効果・大
・フルーツ牛乳:女子力アップ
向こうの品物を持ってくると、何かしら補助効果が付くようだ。
リズ・・・牛乳をがぶ飲みするんじゃありません・・・
カベオ・・・ハンバーガーは効いたのか?
ゴミはダンジョンが吸収してくれるそうだ。
言われてみれば、カップ麺のゴミが消えている。
モンスターの死骸とか、冒険者の亡骸や装備も同様に吸収される。
吸収されてどうなってしまうのか・・・
装備品などは宝箱に収容されてリサイクルされるようだ。
そういえば、宝箱って宝石っぽいの付いてなかったか?
そんなものを、どうしてみんな置き去りにしていくのか不思議だったが、・・・どうやら地面に固定されていて持ち出せないらしい。
ゴムゴムの実とかが入っていたのは、ダンジョン産じゃないんだな。
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