第2話、体力回復にゼリー飲料

「姫様はボス戦なんて挑戦しませんから・・・多分・・・

さっきの体力回復でお願いします」


「あっ、そういえば名前も聞いてなかったっけ。

俺はリュウジね、よろしく。」


「アメイヤです。

大変申し訳ないのですが、家名はご容赦くださいませ」


「アメイヤね・・・台風由来かな・・・

それで、体力回復の報酬は何かな?」


「うっ・・・それは・・・

美女の胸さわり放題の詰め合わせでは・・・」


「それじゃあ只の変態だよ。

見境なしじゃないか。胸はアメイヤだけで十分だよ」


「・・・」


「まあ、本人からいただきますかね」


「ええっ?」


俺はゼリー飲料を少しだけ口に含んで姫さんの唇に重ねた。

歯を舌でこじ開け、姫さんの口内にグレープフルーツ味のゼリー飲料をこすりつける。


意識のない人に、液体を飲ませても危ないだけだ。

だから甘酸っぱいゼリー飲料を口全体で感じてもらい、唾液と一緒に飲み込んでもらう。

そう、口移しなのだ。


「・・・んっ・・・んっ・・・んーっ!」


噛まれる前に舌を引き戻す。


「大丈夫?言葉はわかる?」


少し間を開けて、姫さんはコクリと頷いた。


「ここはダンジョンの中で、君は魔物に襲われてケガを負った。

ここまでは覚えてるかな?」


姫さんのモスグリーンの瞳が揺らぎ、体が小刻みに震えだした。


「ちっ、何やってんだ俺は・・・生々しい記憶を呼び起こしたことでパニック状態ってとこか・・・」


俺は強めに姫さんの体を抱きしめた。


「大丈夫だから・・・

ここには魔物はいないよ・・・

ケガも治ったし・・・

何があっても俺が守るから・・・」


何度も耳元で繰り返して聞かせる。ゆっくりと・・・


「ホント?」


「えっ?」


「お兄ちゃんが守ってくれるの?」


「ああ、ホントだ。お前は俺が絶対に守る」


「んっ・・・信じる・・・」


その瞳から、怯えの色は消えていた。


「俺の名前はリュウジだ。リュウでもいいぞ。

それでお嬢さんの名前は?」


「エリザベスです・・・リズって・・・呼んで」


「リズか、可愛い名前だね。

それで、女性に年齢を聞くのは野暮ってものだけど、リズは何歳なのかな?

25歳の俺のお嫁さんになれそうな歳かな?」


「18歳の差ね・・・もう少し若かったら良かったんだけど・・・

少し考えさせてね・・・リュウお兄様」


「おっ・・・おう、期待してるぞ・・・

じゃあ、リズには元気になってもらないとな。

これを飲むと元気になるんだけど、飲めるかな?」


リズはフルフルを振り、目を閉じてアーンと口を開けた。

どうやら、口移しをご希望のようだ・・・

アメイヤの視線が痛い・・・が、リクエストに応えないわけにもいくまい・・・


リズは一口ごとに元気を取り戻していった。

一袋分を飲み終える頃には血色もよくなり、眠気を訴えたので寝袋で寝かせる。


「という訳で、ショックによる一時的な幼児退行ってところだな」


「一時的って事は、治るんですか?」


「それは俺にはわからないよ。

単に魔物に襲われたショックで混乱しているだけなのか、それとも他に大人になりたくないって強いストレスでもあったのか?」


「王族は17歳になったら婚約者を決めます。

姫様は来月で17歳・・・

第一王女ですからおそらくは他国の王子に嫁ぐ事になると噂されていますが、姫様は国から出ることを嫌がっておられるご様子でした」


「どっちにしても、お前らを連れと認識できない以上、連れ帰るのは無理だな」


「ならばリュウジ殿に城までご足労いただければ・・・」


「冗談なしね・・・今この場所と俺の世界はつながっているようだけど、帰れなくなったらどうしてくれるの?

アメイヤちゃんが一生面倒をみてくれるの?」


「それは・・・無理だ」


「じゃあ、姫さんは俺が預かるしかないっしょ。

明日の同じ時間に、できれば親に・・・この場合王妃さんか・・・10年前、姫さんに会っていてあまり変わってない人。

爺ちゃんとか婆ちゃんが一番かな・・・一緒に連れてきてよ」


「でも、突然そんなことを言っても、信じてもらえないと思いますけど・・・」


「それなら、マキドンと回復薬を持っていけば信じるっしょ。

ついでに、カロリー・メイドもおまけするよ。

36時間持続する精力剤。未検証だけどさ・・・」


「あっ、それってオヤクソクってやつですね」


「・・・だけど・・・試すなら半分以下にしておきなよ。

36時間はさすがに・・・」


全身鎧の中で勃起したらどうなるのか・・・ちょっと怖い・・・


「あっ、何かあった場合に備えて、二・三人残しておいてよ。

じゃあ、あとはよろしくね」


寝袋のままリズを抱えて部屋に戻り、ベッドにそのまま寝かせる。

あらためてリズを見るが、とんでもない美少女だった。

ストレートの黒髪は若干緑がかっており、肩口で切りそろえられている。

白磁のような肌は人形のようだ。

切れ長の目にモスグリーンの瞳。長いまつ毛にすっと通った鼻筋。

胸は小さいがウエストは引き締まっており、いわゆるスレンダーな体型だ。


リズは1時間ほどで目を覚ました。


「おはよう」


少し考えたあとで「おはようございます、リュウ兄さま」と返してきた。


「明日迎えがくるまで、この部屋ですごしてもらう。

丸一日あるから、少し外へ出て、買い物したり食事をしようと思うけど、何かリクエストあるかな?」


リズはその瞳に喜色を浮かべながらフルフルと首を振った。


「兄さまにお任せいたします」.


俺は独自の価値観を持っている。

相手との関係性を金額に換算するのだ・・・人に知られたら、嫌な奴だと思われる。間違いない・・・

対リズについては・・・


【マイナス】

・ゼリー飲料・・・135円


【プラス】

・綺麗なおっぱい拝観・・・10000円

・若い女性とのディープキス・・・20000円

・お兄様呼びプレイ・・・5000円


治療はアメイヤの依頼なのでリズとの収支には関係ない。

という訳で、リズは俺から35000円の対価を得る権利を有している。


ちなみに、宿泊等は俺の好意だ。好意は金額に換算できない。


まあ、今回は向こうの世界で金貨1枚分の商いをすれば回収可能だろう。

500円硬貨ほどの金貨で、それくらいの価値になる。


リズにグレーのパーカーを着せて近くのショッピングモールへ出かける。

中高生向けのショップ店員に、足元から下着・洋服を3組見繕ってもらうよう4万円を渡して頼んだ。


だがパーカーを脱いだリズを見るなり「店長~!」と走っていってしまった。


結局、4人の店員によるコーデを写真に撮り、店の宣伝に使う代わりに商品は無料という条件で臨時モデルを引き受けることになった。

リズのキラキラアイを見たら、断れなくなってしまったのだ。

店の奥に併設されたブースで試着・撮影を繰り返すこと1時間・・・店を出るときにはローファーに黒のニーハイ、緑チェックのミニと白のブラウス。

胸元には瞳のモスグリーンにあわせた大き目のリボン・・・海王星にかわってオシオキとかいいそうな服装にかわっていた。

もちろん落ち着いたデザインであり、なるべく目立たない服装で歩きたいという俺の希望を反映したものであるのだが・・・



例えば、現役のアイドルを連れて歩いたとする。多くの人が振り返り写メを撮ったりするが、興味のない3割程度は素通りする。

これが、ホンモノになると9割近くが振り返る。

オーラとでもいうのか、視界に入っただけで知らずのうちに注目してしまう。

リズもそんなオーラを纏っていた。

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