点検口をあけるとそこは異世界だった
モモん
第一章、異世界
第1話、天井裏は異世界だった
押入れの天井の端っこを押し開ける。
ここまでは昨日と一緒だ。
LEDライトを点けると岩肌が目に入る。
この数日、カタコトと物音がするので覗いてみたのだが…
特殊な建物ではない。
首都圏の一角、ごくありふれたアパートの1階・・・のはずだ。
だが現実には、天井裏にもかかわらず結構広い空間が広がっている。
おい!二階はどこにいった・・・
「サル!」
ふいに声がかかった。サル怖え・・・って、もしかして俺の事か?
「スチャラカバ、ドーテーシヌマデ、カシコミマオソウロウシテ」
微妙にバカにされている気がしないでもないが、気のせいだろう。未知の言葉だ。
「ケガ人か?」
意識をうしなっているらしい女性を指さして聞いた。
「ガチャドウニ!」
いきなり男が剣を振り下ろしてきた。
「おわっと」天井から首を引き戻す。
剣が岩を打って跳ね返るような動きを見せた。向こうの床面はちゃんと存在してる・・・のかな。
もう一度首を出し「ちょっと待てよ!」と言うも、また剣が降ってくる。
冗談じゃないよ。生死を掛けたモグラたたき・・・穴一つだけど・・・なんて真っ平だ。
幸い?ここは押入れ。つまり、普段は使わないが何かあった時に使えるものの宝庫だ。
しかも、緊張感のある場面を茶化すのは得意な方だ。
・・・で、何があったかな・・・ゴソゴソ・・・ゴソゴソ・・・このあたりでいいか・・・ニヤッ・・・
全身鎧だとかを着込んだ文化レベルなら、効果は期待できるだろう。
まずはハゲズラに鼻眼鏡の変装グッズを装着して・・・
顔を出し、相手が反応する前に・・・”パーン!”・・・クラッカーを仕掛けた。
相手が破裂音に驚き、飛んでくる紙吹雪と紙テープを剣でさばく・・・
その慌てた様子にあわせて「ケヒケヒケヒッ」と変質者っぽく笑い、クラッカーをもう一発喰らわせる。
ここで沈んで様子を伺う・・・剣で細い紙テープが切れるはずもなく、そのまま振り回せば剣に絡みつく。
無害なものだと分かり逆上して紙テープをむしり取る・・・いやぁ、脳筋は反応が読みやすいね・・・
今度はゆっくりとバズーカを押し上げる。
これも紙製のクラッカーなんだけどね。
「イヒヒヒッ」と笑いながら”ドーン!”
クラッカーって、暗いとこだと一瞬光るからね。知らなけりゃビビるよ。うん。
で、仕上げは爆竹。
束のまま、導火線に火を点けて鎧の足元に放り投げる。
俺は下に退避する。
爆竹ってさ、よく販売禁止にならないで生き残ってるよね。
あれ、導火線に火がついたまま他の爆発で飛んでくるんだよね。
だから非難したんだけど・・・もういいかな。
鎧男は仰向けに倒れてフンガフンガ言ってる。
『お願いです!もうやめてください!』
なんか・・・頭の中で聞こえた・・・
えっ、俺が悪者?
『えっと・・・念話は通じるんですよね?』
念話?・・・意味が分かるって事は、言葉系じゃなくてイメージで伝えるのか・・・
『念話ってのは使ったこともないが、こんな感じで通じんのか?』
『ええ、大丈夫です。それで通じます。
良かったです。
これで弟は、殺されない・・・で、すみますよね・・・』
『そこのバカは弟だったのか・・・
だけどよ、いきなり切りかかってきたのはそいつの方だぜ・・・
って、それよりもケガ人は大丈夫なのか?』
『あっ!そうです。
回復魔法か治癒魔法は持っていませんか?
薬でも結構です!』
『魔法だって?
そういう世界なのかよ・・・まあ、魔法は使えないが薬なら適度に用意がある・・・だが、見たところ傷が深いようだ。
血止め程度しかできないぞ』
『十分でございます。
弟カベオに救援を呼びに行かせますから』
「カベオ、応急処置を頼みましたから、すぐに救援の要請を頼んできてください」
「ねっ、姉ちゃんダメだ!
こんな得体の知れないヤツのところに、二人を置いていけるわけない!」
あれっ?言葉が分かるぞ・・・
「うるせえ!
ガキがここに残っても役に立たねえだろ。さっさとパシってこい!」
「くっ・・・」
おーっ!通じたみたいだ・・・なぜだろう、念話の副次効果かな?まあ、後で確認しよう。
「じゃあ、俺は薬をとってくる」
一旦部屋に戻り、救急箱と未開封の粗品タオル5本、ペットボトル2本に水道水を詰め、洞窟に戻る。
ついでに、押し入れにあった寝袋も持ち込んだ。
傷といえば消毒で、俺達の世代ではマキドン・シュバッ!が主流だった。爺さんの世代は赤チンであり、消毒薬と絆創膏はどの家にも必ずあった。
その、僕らの世代の常識は、最近になって覆ったようだ。
消毒は皮膚の細胞にもダメージを与え、絆創膏のガーゼは体内から分泌される自己治癒の体液を吸い取り、なおかつ皮膚に癒着してしまう。
ジュクジュクの状態を維持できれば、瘡蓋も残らず綺麗に治癒できるらしい。
そのため、傷口を水道水で洗い流し、軟膏を塗る治療方法が主流なんだと。
うちは血止めにワセリンを使ってたから、似たようなもんだけどさ。
今回はモンスターの爪でやられたそうなので、消毒もしておこう。
傷口から魔物とか湧いてきたらイヤだもんな。
--おかげさまで、あれ以来傷口からスライムが湧いてきますの。
スラ吉、スライ、スラリン・・・みんな あなた様とわたくしの子供ですわ・・・オーッホッホ・・・
妄想を振り払い、貫頭衣をめくりあげると・・・オッパイがあった。
「・・・なあ、この世界ではオッパイ用の下着は着けないのか?」
「あらっ、貧乳好きなんですか?」
「オッパイに貧乳とか巨乳とかロケットとか差別はしない。
全てのオッパイが好きだ!
というか、この人・・・王女とか言ってなかったっけ?
王女を貧乳呼ばわりって、オッケーなのか?」
「はいはい・・・。
でも、今は治療をお願いします。
あとで好きなだけ触らせてあげますから」
「それ、知ってる。
さっきの弟の胸を触らせるとかいうパターンだよね。
女性じゃないと認めないよ」
「ちっ・・・面倒な性格ですね・・・
はいはい、承知しましたから、いいかげん治療を・・・」
「えっと、傷口を水で洗い流して・・・っと、新しいタオルでポンポンとふき取る。
消毒のためにマキドンをシュバッ・シュバッで・・・?あれれ・・・?・・・なに、この泡・・・ブクブクと・・・」
「まっ、まさかの想定外ですか?」
「うーん、マキドンでこんな状態にはならないんだけど・・・んっ・・・何かタグが付いてる・・・
触れないんだけど、もしかして魔法的なやつかな?
──品名:マキドン
種類:Bランク・治療薬(塗布専用)
効果:使用者の自己治癒力を一時的に高める
殆どの外傷に有効であるが、再生はできない
へえ、異世界効果ってヤツかな。
・・・マキドンすげえ!傷が消えちゃったよ・・・」
「Bランクの・・・治療薬・・・ですか・・・
自然界における薬草由来で薬師が調合できるのはCランクまで・・・
高価な錬金素材と高位の錬金術師が必要なBランク治療薬は、国王くらいしか所持できません。
そんな錬金薬を・・・なぜお持ちなのでしょう・・・か?」
「・・・報酬が魅力的だから・・・かな」
「あっ・・・」
「でも、その前に体力回復だな。
もろにそれっぽいゼリー飲料2種類と、カロリー・メイド。
おっ、やっぱりタグが出てるぞ。どれどれ・・・
──品名:エネチャージ3秒(エネルギー補給)
種類:Aランク・体力回復薬(飲用)
効果:1パックで使用者の体力をほぼ満タンまで回復する
※個人差があるので注意
──品名:エネチャージ3秒(ビタミン補給)
種類:Aランク・体力、魔力回復薬(飲用)
効果:1パックで使用者の体力と魔力をほぼ50%まで回復する
※個人差があるので注意
連続使用は不可、次の服用は6時間空けること
──品名:カロリー・メイド(栄養補助食品)
種類:Aランク・精力剤(食用)
効果:1本で36時間持続する
※連続の使用は危険
おっ、やっぱり体力補給はこいつか。
ゼリー飲料って、それっぽいもんな。」
「ちょっと待ってください。
ホントにAランクの体力回復薬なんですか?
しかも、魔力も同時回復なんて・・・聞いたこともないですよ。
おいくらなんでしょうか・・・」
「150円から300円くらいかな?
こうなるとドリンク剤も期待できるよね。
──品名:アロナミンZ(清涼飲料水)
種類:Aランク・魔力回復薬(飲用)
効果:1ビンで使用者の魔力をほぼ満タンまで回復する
※個人差があるので注意
──品名:リフレイン(医薬部外品)
種類:Aランク・魔力回復薬(飲用)
効果:1ビンで使用者の魔力をほぼ120%まで回復する
※個人差があるので注意
増加分は一時的なものです
15歳以上、1日1ビン以上は危険
──品名:ユンゲル皇帝液G(第2類医薬品)
種類:Sランク・魔力増幅薬(飲用)
効果:服用後30分間は魔力の消費を1/2にできる
※個人差があるので注意
その他アイテムとの併用不可
15歳以上、1日1ビン以上は危険
ユンゲルすげー!
やっぱドリンク剤はボス戦用アイテムだよね」
「姫様はボス戦なんて挑戦しませんから・・・多分・・・
さっきの体力回復でお願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます