所持品の捨てメイド
その日はどうしても外に出なければならなくて、気分は憂鬱だった。
空は暗く黒く、稲光が傘越しに見え、今の心情を現しているようだった。
久々の外出なのに、警報が3つも出ていて、梅雨入りを憎む羽目になった。
傘が小さいせいで自分だけでなく大事な資料が入った鞄はひどく濡れる。
自分と資料のどちらを第一にするかを迷った結果とも言える。自分の優柔不断さはいつもと変わらず健在で、とても嫌々しかった。
2個先の角を曲がれば自宅に着くという所まで行くと、このびしょ濡れから解放されると安堵する。
早くシャワーを浴びて、半裸状態でビールと飲むんだと妄想し、頭の中が楽園と化す。
『にゃお-ん(棒読み)。』
一個目の角を通り過ぎようとしたとき、覇気の籠っていない猫のような鳴き声が聞こえてきた。
感情はなく、ただ泣いているようなで、誰かに助けを求めているような弱々しさ。
頭によぎるのは『捨て猫』。
いつもなら見なかったことにするのに、その日はなぜか見に行ってしまった。
偽善?興味?好奇心?憐れみ?
どんな気持ちだったかは今は分からない。
でも、その猫を見た時の感情は今でも覚えている。
なんたって、本人の目の前で口にしてしまったんだから。
「汚ねぇ~。」
ボロ雑巾のように泥まみれで痩せ細っていて、目は死んだ魚のように深く沈んでいる。
ミカンの箱から頭から胸までを覗かせて、そこら辺の捨て猫に擬態しているように見えた。
『にゃお-ん(棒読み)。』
人間の前でも猫のように振舞うためにひたすら鳴く。
助けてほしいのか、拾ってほしいのか、持ち帰ってほしいんか、何をして欲しいのか分からない。
だから一言だけ口にした。
「捨てられたの?」
猫の真似をしている人間にこんなことを言っても意味があるとは思えない。
ただ鳴くだけのようにも感じていたが、あえて口にする事にした。
優しい声で助けを求めてくるかもしれないと、ラブコメ脳に落ちた頭ではピンク色の未来を想像してしまっていた。
「そんなことを聞く前にとっとと助けろよ。こっちは捨て猫ならぬ捨てメイドだぞ。」
体が固まる。
目の前の生き物が猫の擬態をやめ、言葉を口にしたと思ったら辛辣な一言。
誰がこんなことを言われると予想できただろうか?
「自分は見世物じゃないんだぞ。ご主人様になる気がないならとっとと消えろ。」
こういう時、一般人はどんな行動をとるだろうか?
一、捨てメイドをたたく。
理由は生意気だから。
二、その場を去る。
言われた通り言う事を聞く。
三、見つめ続ける。
捨てメイドの言う事を聞かず、にらめっこをし続ける。
四、捨てメイドを拾う。
目の前の捨てメイドのご主人様になる。
いったいこの中のどれを選ぶだろうか?
いや、これ以外のどんな選択肢を用意するだろうか?
結局のところ、最終的に自分が選ばないといけないので、他人に聞いても意味がない気がする。
それに、自分がとった行動は選択肢通りの別の行動だから。
しゃがんだ足を延ばす。
来た道を戻り、帰路を歩む。
どうしようもなく、自分はひどい人間だと思った。
でも、これが普通だ。
人間なんて、赤の他人の事はどうでもいいと思っている。
だから、これは当たり前で普通で、一番人間らしい行動なんだ。
だからだろうか?
一番人間らしい行動をすると、やけに気持ち悪い。
見て見ぬふりをする事には罪悪感は無いが、人間らしい行動に嫌気がさす。
差し詰め、肉ばかり食べる生活をしていると、野菜を食べるのが嫌になるようなものだ。
とはいっても、家についてしまったから、もう気にする事はない。
さっさとシャワーを浴びて、ビールの缶を開けよう。
そうして一気に飲み干す。
きっと気分がよくて、楽しいのだろう。
でも、今の自分ではそんなこと全くなかった。
むしろ、アルコールのせいで余計に気分が悪くなる。
「こんな事しても、自分のためにならないんだけどな。お金どうしようかな。」
独り言をつぶやき終わると、腰を上げる。
ぷっつりと夢の世界から現実に引き戻されるような感覚。
俺はどうしようもなく面倒くさい人間なんだと思った。
30分程度前にいた曲がり角に、今度は大きめの傘を2つ持って向かう。
誰かに拾われていないかな?と、ひょうひょうとしていたが、また奇妙な鳴き声が聞こえる。
『にゃお-ん(棒読み)。』
同じ鳴き声しかできないのか?と思いながら、俺は捨てメイドの前に腰を落とした。
視線を合わせ、そいつの目の奥を覗く。
数十秒間見つめ合い、にらめっこをしているような状態になる。
それにしびれを切らした捨てメイドが声を出す。
「自分は見せ物じゃねえぞ。ご主人s…」
「口が悪いな。それがご主人様に対する口の利き方かよ。」
勢いよくそいつの頬をたたく。
アルコールが完全に回っていたせいで、いつもより態度が大きくなり手を出しやすくなっている。
普段ならどんな事があっても手を出す事なんてないのに、アルコールは偉大でとても恐ろしいんだと今に感じる。
「てめえ何しやがる。」
「だから、口が悪いって言ってるんだよ。はぁ、何でこんなの拾おうと思ったんだろ。さ、これ持って付いて来な。」
「は?いったい何なんだよ。」
「ご主人様になってやるって言ってんだよ、捨てメイド。ご主人様の言うことぐらい聞きなよ。」
酔いがさめる前の自分は、これほど傲慢になっていたと後で知って驚いた。
こんな風に格好つけた気持ち悪い人間はごめんだと思っていたのに、アルコール一つでここまで変わってしまうとは。
今度からはビールをやめてメロンクリームソーダ味のラムネを飲もうと思った。
「へぇ、ご主人様ね。」
「なんか文句でもあるの?」
「いや、自分は捨てメイド。拾われたらそこのメイドになるだけ。これからはよろしく頼むぞ、ご主人様。」
使っていない傘をメイドに与える。
ボロ雑巾で死んだような目をしていた捨てメイドは、今この瞬間に活気ある仕えるメイドに変わった。
これがメイドとの出会いの話。
今はもう、その時の面影はなく、立派に家事をしてくれる。
口が悪い所は治らなかったけど、別に気にすることはなかった。
自分の仕事の邪魔をするわけでもないし、むしろ口が悪くても命じればそれなりにやってくれる。
偶に下の世話を好き好んでやろうとしてくるのが唯一の欠点ぐらいか。
それ以外は家主とメイドとして浅く広い関係を気づけている。
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どうも今日、雪の降る冬です!
最近、TRPGを友達とやろうと思って、キャラシートを作りました。で、そのキャラクターの経歴をどうしようか悩んでいるうちに、どうせなら小説書いたろうと思って、出会いの物語を書いてみました!!この物語はメインキャラと所持品のメイドの出会いの物語になっています。
キャラシートは調べたら出てくると思いますが、どのサイトで作ったかは内緒にしておきます。
こういうキャラをモデルにキャラシートを作りたい人はぜひ使ってもらって構いません。ただし、DMとかで一言くれると嬉しいです。
アカウント名@yuki_furufuyuです。
この物語は小説家になろうの方でも上げてます。
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