年越しニューイヤー

『死神はー、野良の死神要りませんか?』


崩壊するビル。

全身がボロボロで擦り傷ばかり。

頭から血も流れていて意識がもうろうとしている。


同じバイトで後輩の女の子を追ってこなければよかった。

廃墟のビルに入っていくことなんてどうせロクでもない事をしてるって分かってたんだ。

それなのに僕は勝手に興味を持って、ここまでボロボロになっていた。


そんな中で聞こえてきた声は、この場に似合わない明るくどこか楽しそうだった。

僕はその声に、悪魔に話しかけられたと分かっていながら永遠の死けいやくをしてしまった。


『野良死神プレイヤー最強の名に恥じぬよう頑張ります、セーンパイ!」





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「先輩、ハッピーニューイヤーですね!」

「ああ。ハッピーニューイヤーだな。」


空に打ちあがった花火を見て去年を思い返してみる。

色々あった去年。

大学生2年生になって死にかけて、後輩の女の子に助けられて。

そこからの次々と死闘に巻き込まれて。

どれだけ死にかけただろうか?

数十回?数百回?数千回?

どうせ、死んでいないのだから数えても意味がないと思うけど。


「先輩、あっちで鐘鳴らしましょうよ!ちゃんと予約も取ってるんですから!」

「はいはい。」


長い列の後ろに後輩と並ぶ。

彼女に助けられてから、常に一緒にいた気がする。

彼女がいたから死にかけたのに、彼女から離れれば殺されてしまう。

彼女のもとから離れる事が出来ない。

そんな矛盾を持ち合わせながら、心の中では彼女の元を離れる気持ちが薄い。


「先輩、今年はいい年になるといいですね。」

「お前がそれを言うか。巻き込んだくせによく言うよ。」


鼻で笑ってやった。

こいつからそんな言葉が出ると思わなかった。

どうせ、こいつの近くに居れば襲撃ゲームに巻き込まれるんだ。

いい年どころか、死ぬかもしれないハラハラドキドキの一年になる未来しか見えない。


「順番きましたね。これってどうやるのが正しいんですか?」

「こんなの適当でいいんだよ。」


僕は合掌、一礼をする。

それを見て後輩も真似をする。


「一緒に鳴らすよ。」

「はーい。」


後輩と一緒に撞木を使って鐘を鳴らす。

低く、暗い音が周りに響く。

その後、合掌、一礼をしてその場を離れた。


「先輩、おみくじで勝負しませんか?」

「別にいいよ。」


結果だって分かってる。

僕が負けるに決まってる。

去年から不幸続き。

当分終わりそうないんだ。

どうせくじ引きで今日を引いたりしそうだ。


「せーの!」


彼女の声かけと共に、畳んであったおみくじを開く。


『末吉』


なんとも微妙だ。

下から2番目と悪いくじではあるのだが、今日でないところがおいしい所を逃している。

そう言えば、後輩はどうなのだろうか?

そっと彼女のおみくじを見てみた。


『大凶』


あんなの出るのか!?

大凶って存在したのか!?都市伝説だと思ったてぞ!?

普通何処のおみくじでも一番下といえば凶だ。

こいつ、ある意味持ってやがる。

大凶が入っているおみくじを販売している神社で大凶を引く確率ってどれだけだよ。


「せ、先輩、どうで‥…したか?」

「末吉だったよ。」


こいつ、よく大凶を引いて聞けるな。

顔は真っ青で白目になりかけている。

相当ショックを受けてるな。


「そ、そうだったんですか。」

「ああ。で、お前はどうだったんだ?」

「えっ!?あ、あ‥‥えーっと、大吉です!!ま、まあ、私ですから、当然ですね!に、にしても、先輩は末吉ですか。運がないですね!はははは。」


馬鹿にして笑っているつもりなのだろうが、ブーメランになっていてどんどん自分を傷つけてるぞこいつ。

てか、ちゃっかり真逆のくじ運言ってるし。

まあ、僕が気付いていなければ少しはほめてやったんだが、こうして見るとどこか泣けてきて頭をさすってやりたくなる。


「せ、先輩なんですか!?頭撫でないでください!?」

「あ、つい。」


心の中で浸っていたつもりだったが、うっかりと表面に出てしまった。

まあ、こいつも満更じゃなさそうだしいいか。

僕は、後輩の頭を思いっきしさすった。





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――――――――――

――――

――




「先輩、人のおみくじを勝手にみるなんて卑怯ですよ!?」

「ごめんって。さっきから謝ってるでしょ?」


あの後、ついうっかり口を滑らしてしまい、おみくじ先に見た事がばれてしまった。

怒らしてしまい、帰っている中ぐちぐちと責められている。


「先輩は、女性の気持ちと言うか、他人の気持ちをあまり考えていません!そこを改善して見てください。」

「あ、それ無理。他人に興味がないんだ。」

「即答はどうなんですか?もっと興味を持つ努力をしましょうよ。」


僕は生まれつき、目の前の事にあまりにも興味が持てなかった。

それが生きているものでも、そうでないものでも。

そこにあったとしとも、そこにないように扱ってしまう。

自分の周りが見えていないわけではない。

見えているから、邪魔なものを排除してしまっていた。

自分以外の邪魔なものを取り除いて周りを見てしまっていた。


そんな異常なことに気づいたのは中学生になってからだった。

このころになると、学生同士のグループが大切になってくるらしい。

僕は別に誰かと仲良くしようと思ったことはないから、気にしていなかった。

だが、それを気に入らないと思うやつもいたから事件が起きた。


僕は一人の生徒を自殺させた。

いや、自殺するところを見ていたが正しいけど。


あの生徒の名前は今でも覚えていない。

ただ、僕に対して色々してきていたことは覚えている。

何かと絡んできて目の敵にするような奴だった。

僕としては別にそれに対して何も思う事はなかった。

僕とみんなとでは価値観が違う。

人が同じ価値観を持たないのだから、当然の事でもある。


そいつはある日、僕を屋上に呼び出した。

とあるゲームをしようと言ってきた。

ルールは自分が飛び降りた回数だけ相手に飛び降ろさせるものだった。

そして、先に飛び降りるのは僕。

僕がギブアップと言うまで飛び降り、その分だけあいつが飛び降りるものだった。


今思えば、僕が何でこんなゲームをしなければならなかったんだろう。

僕に不利なゲームだと分かり切っていて、付き合う義理もない。

でも、僕は躊躇せず飛び降りた。

後ろ向きに背中を風に預けるように4階の建物の屋上から飛び降りた。


その後気付いた時には病院にいた。

全身包帯でぐるぐる巻きで、全身骨が砕けている状態。

どうして生きていられるのか分からないと医者に言われるほどだった。

僕もどうして生きているのか分からなかった。

ただ、どこかそんな確信があったからこそ飛び降りたのかもしれない。


完治した時には1カ月が過ぎていた。

久しぶりの学園だが、何も感じなかった。

いつも通りだった習慣をまた繰り返す日常。

ただ、その日は特別なことがあった。

僕とのゲームをしていたあいつに屋上から飛び降りてもらうと言うイベントがあった。


僕は、ボイスレコーダーを使う事で簡単にそいつを呼び出せた。

ゲーム途中で逃げられても困るからだ。

僕はそいつの背中を見守り、そいつが飛び降りた数秒後にそいつは死んだ。


「先輩、何感情に浸ってるんですか?」

「なに、昔の事を思い出してただけだけど。」


どうでもいい記憶をよみがえらせていただけなんだ。


「なら、もう少しまともな顔になってくださいよ!後ろの人に変に感ずかれちゃうじゃないですか。」

「ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだ。それで、あそこでいいかい?」


僕は数歩先にある裏路地を指す。


「はい。こんなおめでたい日ですから、誰にも見られずぱぁーッとやりたいんですよ。」


なるほど?

あの人たちは命日になるのだから、めでたい日とは言えなくなるかもしれないけどね。

僕に拒否権もなければ反発する理由もないので何も言わないけど。


「さあ、今年初の襲撃ゲームをしましょうか!」

「今度も負けないようにしたいな。」

「新しい年ですから、白星掲げていきたいですね。」

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