第2話、リミッター解除

「それで、このお茶にはどんな効能があるんだ?」


「・・・とても幸せな気分になれますよ」


「誰が?」


「えっと・・・お互いに・・・かな?」


ビーッ、ビーッ、ビーッ


「行ってくる」


「行ってらっしゃいませ」


「婆ちゃん、場所は?」


「53ーDだな」


「またEXがらみかよ・・・」


「自業自得ってやつじゃな」


「何だよそれ?」


「知らんのか?

まあ、帰ってから嬢ちゃんに聞いてみるこっちゃな」


俺は現場に急いだ。


『婆ちゃん、要救助対象は5名でB・B・C・C・D。

相手はリザードマンC5体、同じくEX赤1体』


例によって、ゴーグルに表示された情報だけを伝える。


『死亡者がいるなら救助優先。

強制転送後は・・・好きにしな』


『了解』


「ダンジョン・ヘルパーのサブローだ。

救助要請によりお前たち5名を強制転送する。

いいか?」


「EX討伐に手を貸してもらえないだろうか」


リーダーらしき男がそういった。


「仲間の蘇生確率がどんどん落ちるぞ。

それにヘルパーの任務は救助だ。

討伐の手助けじゃない」


「そうか・・・救助をお願いする」


『婆ちゃん、C・C・D3名を先に送る』


『あいよ』


3名を転送してしまえば、急ぐことはない。

残ったリザードマン3体を片付けた。


EXは手足の腱を切っておきリーダーに尋ねた。


「お前らの獲物だ。

まだ首と尻尾は動くがどうする?」


「すまない、お言葉に甘えさせていただく!」


二人は簡易結界から飛び出し、EXを片付ける。


「魔石は出ないか、残念だったな」


「ダンジョンが発生してから片手ほどしか見つかっていない魔石が、そう簡単に出るわけないだろう」


「それがわかっていながら、何でEXを追うんだ?」


「私を支持してくれる者たちがいるんだ。最後まで諦める訳にはいかんだろう。

申し遅れた、ジークフリード・ロッドだ。ロッドと呼んでくれ。

助力いただき深く感謝する、ありがとう」


「王子なんだろう、そんなに気安く頭を下げていいのか?

それと、今回のことは内緒だからな。

ヘルパーが討伐の助太刀したなんてうわさが出ると、色々まずいんだ」


「ああ、承知している。

妹が迷惑かけているのに、俺まですまんな」


「妹?」


「ああ、第7王女フェスタリアが押しかけているんだろ」


「あれか・・・そういえば、名前も聞いてなかったな」


「なんか・・・不憫な気もするが、なに、放置プレイでかまわんから90日よろしく頼む」


「待て、90日ってどういうことだ?」


「ん?それも言ってないのか。まあ、本人から聞いてくれ」


「はぁ、聞かないでたたき出しちゃダメ・・・なのか?」


「ああ、お前のところから出た瞬間、殺されるか犯されるか・・・

まあ、あれでも可愛い妹なんだ。

サブロー、俺もギリギリまで諦めないからって、伝えておいてくれ」


「分かった。

ところで、第7王女とやらが俺のところにいるって・・・なぜ知っている?」


「フェスタ・・・不憫すぎるから、名前くらい覚えてやってくれないか。

王族には近衛から2名がSPとして配置される。

まあ、今朝はSPの静止を振り切って突撃したみたいだけどな」


「そうなると、関係者には筒抜けってことかよ。

ますます面倒じゃねえか・・・はぁ

・・・まさか、部屋に戻るとSPまでいたりするんじゃないだろうな」


「どうかな、フェスタのSPはキリエの妹だったよな」


「はいフェスタリア様のお側には妹のナシカが」


「ふむ、サブロー、キリエは俺の婚約者でもある。

つまり、俺の妹と義理の妹だ。

兄と呼んでくれてもいいのだぞ」


「なんでそうなる。

それに、嫁にするならメイドと決めている」


「ふふふっ、お前も俺と同種の男なのだな。

安心しろ、女SPはすべてメイドあがりだぞ」


「それ・・・選考基準がおかしくないか?」


「なにがおかしいと言うのだ。

メイド道を究めるには、体力・知力は言うに及ばず、洞察力・判断力・統率力・礼儀作法などあらゆる能力を必要とする。

その中で抜きん出た者がSPかメイドマスターに抜擢されるのだぞ。

7人の妹達は・・・残念ながら初級と中級で全員脱落した」


「・・・すまん、俺の認識と違っていた・・・」


「ふふ、気にするな弟よ」



部屋に戻ると、三つ指をついた三人のメイドがいた。


「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」


「なに・・・これ」


「メイドならば嫁にもらっていただけると情報が入りましたので」


「キリエさん情報なの?」


「「「はい」」」


SPの情報網を侮っていたかもしれない。

さっきの会話は筒抜けだと考えた方がよさそうだ。


「私だけでなく、ロッドお兄様の窮地もお救いいただき、お礼の言葉もございません。

先日お助けいただいたナシカも、こうして復帰いたしました」


フェスタは金髪ヘロヘロセミロング、ナシカは黒髪ボブカット。

もう一人は銀髪ストレートのセミロング。


「銀髪の娘は初めてだよね」


「ええ、一人は蘇生後のリハビリ中ですので、応援を頼みました。

セリカでございます」


ピロポロリン・ピロポロリン


「なにこれ?」


「呼び出しブザーの音を変えさせていただきました」


「緊迫感に欠けるから、元に戻して!

行ってくる」


「「「行ってらっしゃいませ」」」


54階層Eポイント。

50階層の主力はリザードマンなので、これもそうだろう。

通常のリザードマンならば、Bランク冒険者でも討伐可能である。

だが、特殊個体であるEXはAランク冒険者複数で挑まないと危険だ。

しかも気配遮断がうまく、奇襲されることが多い。

ロッドのパーティーが崩されたのも奇襲によるものだった。

リザードマン数体が群れている状態で、離れた場所にEXが身をひそめる。

EXの皮膚にはカメレオンと同じナノ結晶が含まれており、光の反射で体色を変化させる。


このため、通常のEXは赤いが、黄色や銀色のEXを見たという報告もある。


身を隠したEXは、前衛が通り過ぎるのを待って中衛や後衛を狙う。

回復役や結界師を倒され、挟撃されてしまったパーティーは脆い。


『婆ちゃん、なんかおかしい。

冒険者30名程度でDも出ている。

しかも、モンスターの中にマッドプラントがいて、全員が狂化してる』


『まずいね。今全員出払っていて応援を出せる状態じゃないよ。

一回戻って中和剤を持って出直しだね』


『ダメだ!反対側からも似たような集団が来た。

転移する余裕はなさそうだ』


『しかたないね。

緊急対応Cを発動する。

リミッター解除!

武器を使うんじゃないよ。素手でなるべく殺さないようにね。

転移の余裕ができたら戻ること』


『へへ、了解』


俺たちヘルパーは、普段の活動時には能力を1割程度に制限している。

本当の非常時以外は女神様から授かった全能力を使えないのだ。

その戒めが解かれた。


新たに押し寄せる30人を軽く撫でていく。

腹をトンと押す要領だ。

マッドプラントなどのモンスターは叩き潰す。


集団の向こう側に走り抜けたところに氷の槍や鉄槍が飛んできた。

少し離れたところに、武装した集団がいたのだ。

魔力と物理の障壁を重ね掛けし突っ切る。


「ヘルパーのサブローだ!

やめろ!

救助活動中のヘルパーへの攻撃は重罪になるぞ!」


一瞬の静寂


「ターゲットだ!殺れ!」


全員を瞬殺し、リーダーらしき男と面倒そうな魔法使いを拘束。


『婆ちゃん、狙いは俺みたいだ。

一度主犯格を連れて戻るから、中和剤を頼む』


『あいよ』


制圧は簡単に終わったが後始末が大変だった。

これだけの人数になるとダンジョンの施設だけでは対応できない。

軽症者は近隣の医療機関へ移送し、警察の応援も依頼した。


慌ただしい一日が終わり、シャワーを浴びて部屋へ帰る。


「「「おかえりなさいませ」」」


部屋に居ついた疫病神が待っていた。

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