ダンジョンヘルパー

モモん

第1話、ダンジョンの救助隊

ビーッ、ビーッ、ビーッ

呼び出しブザーで起こされた。


部屋を出て指令所にいく。

「場所はどこ?」

「53階層のB。急いでくれ、赤点滅だよ」

「53のBだと、リザードマン亜種かな。ロングソードでいいかな」


一応、予備のためレイピアとロングソードの2本を腰に差した俺は、転移魔方陣に飛び乗り現場へと急行する。


『婆ちゃん、要救助対象は3名でA・C・D。

相手はリザードマンC3体、同じくEX赤1体』


俺はゴーグルに表示された内容を読み上げた。

Aは自力で動ける者、Cは重傷者でDはデッドだ。


『救助優先。

強制転送後、可能ならEXは捕獲』


『了解!』


俺はリザードマン2体を横なぎに切り伏せ、要救助者3名を簡易結界で保護する。


「ダンジョン・ヘルパーのサブローだ。

救助要請によりお前たち3名を強制転送する。

いいか?」


マニュアルに従い、確認を行うが、唯一無事なAは返事をしない。


「もう一度言う。

救助要請によりお前たち3名を強制転送する。

返事がない場合、正常判断が不可能とみなし、強制転送・・・」


「私は残ります。2名を転送してください」


『婆ちゃん、Aは転送拒否。C・Dを転送する』


『あいよ、了解』


【転送!】

死傷者2名はエフェクトと共に転送された。


5分以内なら約50%の確率で蘇生可能である。


『救助終了。帰還する』


『あいよ』


俺は53Bに向けて歩き出した。


「お待ちなさい!

こんなところに私一人をおいて帰ろうというのですか!」


「残ることを希望したのはあなたです。

俺は救助要請を終えたので、戻ります。

問題ありませんよね」


「くっ・・・

では、王族請求権10条を行使します」


背筋を嫌な汗が流れた。

EXを見たときに面倒ごとになりそうな予感はあったんだよな・・・


「残念ですがダンジョン内で10条は無効で・・・やばっ、結界が切れた」


俺は片手でAを引き寄せ、突っ込んできたリザードマンを切り伏せた。


「EXは私の獲物です!」


「はいはい、どうぞ。

手出しはしませんから」


「いやぁ!」

掛け声とともに真正面から突っ込んでいくA・・・


「あっ、馬鹿。EXにレイピアで突きなんて・・・」


案の定鱗に弾かれてパキーンと折れた。

そのままつんのめってよろけるAの首根っこを掴んで引き寄せる。


次の瞬間、Aの鼻先をEXの爪が掠める。

キャッと叫ぶが、フェイスガードが引きちぎられ、鼻先に少しだけ血がにじむ・・・


「くそったれが、王族請求権第3条が成立しちまった・・・

お前、本当に王族なんだろうな?」


Aはコクコクと頷いた。


「しょうがねえ・・・」


Aを横抱きにしたまま、EXの健を切断していく。

最後にEXの口に”俺のレイピア”を突き入れる。


「ほら、そのまま押し込めば止めを刺せるぞ」


Aが少し力を入れると、EXはエフェクトを残し砕け散った。

後には真紅の魔石が残されていた。


「ほう、EXの魔石とはラッキーだな」


Aからの反応がない。放心状態のようだ。

仕方なくAを背負って転移魔方陣へと移動した。

Aの下半身は・・・少しだけ湿っていた・・・



指令所に戻ると、次の救助要請が入っていた。


「婆さん、ポーションこぼしちゃったから、着替えさせてやってくれ。

ポケットにEXの魔石が入っているから落とさないようにな。

それと、王族らしいから止めを刺したレイピアを置いとくぜ」


俺は次の救助先へ飛んだ。この魔石が起こす騒動に巻き込まれることになるとは予想もできずに。



この日は朝まで救助が続き、クタクタになって家に帰った。

こういう日は何もしないでひたすら寝る。


翌日出社時だが、事務所前で襲撃を受けた。

片刃のナイフを逆手にもち、刃を上に向けている。

殺意があるのは分かるが、力が違いすぎる。


体をかわしながら左手でナイフを掴み取り、右手で軽く腹パン。

グゲッとかいう不気味な声をあげながら、そいつは膝から崩れ落ち嘔吐する。

自分の吐しゃ物に頭から突っ込んでいくシーンは、なかなかにシュールだった。

パーカーのフードからこぼれる、ウェーブのかかった金髪に見覚えはあったがどうでもいい。

ねえ、その汚物に塗れたパーカー・・・俺の持っているやつと同じだね。オソロだよ。


襲撃者の首根っこを掴み、事務室へ連れていく。そのままシャワー室にぶち込み頭からシャワーしてやると意識を取り戻したようだ。

水の勢いで汚物を落とし、俺は言った。


「これからはヘルパーの勤務時間だ。妨害した場合は重罪だぞ」


襲撃者は微かに頷いた。


引継ぎを終え個室に戻るとそいつはいた。

びしょ濡れの髪や洋服からポタポタと水を滴らせ、無言で部屋の隅に立っている。


「うぉ!」驚いた。


「・・・私に殺されるのが嫌なら、自分で死ね。

公けになる前にだ・・・」


「いやだ」


「じゃあ、王になるか?」


「いやだ」


「・・・では、お前が私の貞操を守るというのだな?」


「早く病院へ行ったほうがいいぞ。

精神的な病は治療がむつかしいらしいからな」


「お前・・・まさかと思うが、私を知らないのか?」


「知ってるぞ。一昨日の要救助対象Aだ」


ビーッ、ビーッ、ビーッ


「すまん。仕事だ。

そこの引き出しにバスタオルが入ってるから、体を拭いたら出てってくれ」


そう言い残し、事務所に向かう。


「婆ちゃん、おかしなのを部屋に入れるなよ!」


「王族の要請だ。わしに断れるわけなかろう」


「・・・仕事は?」


「23-A、黄色だ」


「回収だけね。了解」


救助を終わらせて部屋に戻ると、物干し場状態だった。

しかも、俺のトレーナーと短パンを着ている。


「なぜ、俺の服を着ている」


「不本意だがやむを得ない。我慢して着てやった」


「不本意なのは俺でしょ・・・出て行ってください」


「・・・そうか、やむを得ないな・・・」


そういいながらAはトレーナーを脱いだ。色白で形の良い乳房がプルンと揺れる。

短パンの下は俺のボクサーパンツだった。

そのままドアノブに手をかけたところで止まる。


数秒の沈黙・・・


「なぜ止めぬ・・・」


「いやあ、その綺麗な胸に意識を奪われてますから・・・」


羞恥心が蘇ったのか、Aは胸を抱えて蹲る。


ビーッ、ビーッ、ビーッ


「残念。仕事だ。」


87-F結構深い階層で、赤点灯。つまり、戦える者がいないという事だ。

あそこだと、サイクロプスあたりか・・・俺はバスタードソードを選択した。


走りながら身体強化を済ませる。


『婆ちゃん、サイクロプス赤だ。

要救助者はC2名にD2名』


『目玉を採取しとくれ』


目玉かよ・・・つまり、殺さずに動けなくしてから目玉を抉り出さなくてはいけない。

まあ、多少手間取る程度だ。


先にサイクロプスを動けなくしておいて要救助者を転送する。

こんな場合でも、強制転送の確認は必要なのだ。まあ、返事はないけどね。


エフェクトを残して消えたサイクロプスの後には赤い魔石が残されていた。

EXの倍くらいある大きな魔石だった。貴重品である。

回収の指示がない戦利品は、討伐者のものとなる。

俺は魔石をポケットに入れて戻った。


部屋に戻るとまだAがいた。

下はボクサーパンツのままで、薄手のTシャツを着ている。

ちゃぶ台を出し、煎餅を齧りながらお茶をすすっていた。


「おかえりなさい。

お風呂にします?ご飯がいいですか?それともワ・タ・シ?」


「お前、王族だって言ってたよな」


「はい」


「男の前でそんな無防備な姿を晒していいのか?」


「目的のためなら自分の武器は最大限に活用します・・・」


そう言いながら煎れてくれたお茶には薬物反応が出ていた。


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