第15話
昼食をとり終え、二人は教室に戻った。午後の授業が始まるまで、あと二十分ほどある。囀は、自分の机に突っ伏して眠ってしまった。月夜は、次の英語の授業でテストがあるから、軽くその復習をした。
長閑な昼休みだ。
一生、このままでも良かった。
午後の授業が始まり、テスト用紙が配られた。これは、いわゆる小テストと呼ばれるもので、定期的に行われ、僅かに成績に加算される。成績に加算されるというだけで、どういうわけか、生徒はやる気を出す。まるで、成績をとるために学校に来ているみたいだ。
でも、自分のその内の一人だ、と月夜は思った。
もちろん、それだけではないが、それを大切にしているのは確かだ。
難なくテストが終わり、通常の授業に入る。ネイティブが話す音声を聞いて、教科書に書かれた内容を確認する。分からない単語があれば、その都度調べ、記憶しようと努力する。プリントが配られ、近所の生徒と、互いに発音し合ったり、問題を出し合ったりするパートもあった。どれも、事務的で、あまり面白くなかった。
英文を一人で読んでいるときが、きっと一番面白い。
今日は、冬休み明けだから、午後の授業はそれだけだった。
他人の教師が教室に戻ってきて、ホームルームを行う。今日は、掃除がある日だが、月夜は担当ではなかった。机の上に椅子を載せて、前に移動させ、昇降口へ向かう。囀も掃除はなかったから、彼女と一緒に廊下を歩いた。
「学校って、楽しいね」囀が言った。
「どういうところが?」
「なんか、ほのぼのとしているところとか」
月夜は、彼女が言った意味を考える。
「月夜は、どう? 学校は好き?」
「うん、少しは」
「あ、じゃあ、嫌いなところもあるの?」
「それは、どんなものでも、そう」
「まあ、そうだね」
靴を履き替えて外に出る。月夜は、この時間帯に帰るのは久し振りだった。多くの生徒が、流れを作りながら、駅へと向かって歩いている。最寄り駅はその一つしかなく、そして、皆同じ路線だから、この集団が、車内まで続くことになる。上りと下りで二手に分かれるから、人数は半分になるが、空間が狭くなるせいで、密度はむしろ上がる。
いつも通りの電車に乗って、月夜と囀は帰路についた。車内は混んでいたから、座ることはできなかった。
囀は、いつも降りる駅を通り過ぎて、月夜の家がある方向にさらに進み、途中の駅で下車した。月夜も彼女に続く。
都会とも、田舎ともいえない、そんな街だった。
交通量は、多いともいえないし、少ないともいえない。
景観も、良いともいえないし、悪いともいえそうにない。
曖昧さを売りにしているような気さえする。
囀のあとについて歩き、駅構内に築かれたデパートに入った。
「月夜は、何か、見たいものはある?」歩きながら、囀が尋ねた。
「ない」月夜は答える。
混雑しているが、歩くのが困難なほどではない。
某有名なブランドの洋服売り場に来て、二人はそこで衣服を見た。
「これ、似合いそうじゃない?」
そう言って囀が持ってきたのは、黒いカーディガンだった。
月夜は、それを受け取り、上半身に当てる。鏡の前に立ち、自分の姿を見た。
「自分では、分からない」
「似合っていると思うよ。僕が、プレゼントしようか?」
「いや、いいよ」
「いやいや、付き合ってもらっているんだし、遠慮することないって」
「カーディガンは、持っているから、いらない」
「じゃあ、何が欲しい?」
「うーん、何も……」
そう言いかけたとき、ベージュ色のロングスカートが月夜の視界に入った。
「……そういえば、スカートは、あまり持っていなかった」
囀は、月夜が見ているスカートを取り、彼女に当てる。
「うん、なかなかいいじゃん。じゃあ、それね」
「囀の方が、似合うんじゃない?」
「うーん、どうかなあ」
「何を着ても、似合うと思うよ」
囀は、目を細めて、口もとを上げる。
「どうもありがとう」彼女は言った。「でも、それ、知っているよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます