私の親

 (ガサッ、ゴソッ・・・)

 俺は物音に気付き目を覚ます

 辺りを見渡すと優の姿が無い———どうやらテントの外に出たようだ

 

 なんでこんな時間に外に出るんだ?

 不審に思った俺は心一の顔にけつまずきながらテントの外に出る


 テントを出て砂浜に向かうと優が砂浜に座っているのが見えた

 「寒くないのか?」

 俺が声をかけると優は一瞬驚くも、すぐに表情を緩める 

 「起こしちゃった?」

 優は申し訳無さそうに話す


 「いや、ただトイレに行きたくなっただけだ・・・」

 俺はかっこをつけようとしたが結局、かっこが付かないことを言ってごまかす 

 「そ、そう・・・」

 返答に困った優は再び黙り込んでしまった



 俺と優の間に長い沈黙が流れる

 「なんでこんな時間に浜辺にいるんだ?」

 沈黙に耐え切れなくなった俺は口を開く

 「え?えぇ・・・と・・」

 優は良いよどみ、また黙り込み沈黙が流れるが、今度は優がすぐに口を開き長くはなかった


 「私の親の事・・・・知ってるでしょ?」

 優はゆっくりと話し始める

 

 「あぁ、確か1代で超巨大総合商社を立ち上げた社長と副社長だったな」

 「そう、私の両親は20代で一念発起して会社を立ち上げたの・・・最初は製造関係の会社で経営は火の車だったんだって・・・」

 優は1人で話す、その様子は俺に話してるというより違う何かに話してるようにも感じられる



 「私が生まれた時、会社は軌道に乗り始めてたの・・・・・でもその時、お父さんが公務員の友達に騙されてうちの会社は多額の借金を背負ったの———その時、ただ1人どん底に落ちたうちの会社を救う人物が現れた・・・・」

 優の表情が曇り始める


 「浅井 勝利・・・・彼の進める軍國主義政策の標的にうちの会社がなったの

 彼は・・・浅井はうちの会社の工場を軍需工場として買い取り、経営をうちのお母さんに任せた———

 最初は銃器の製造だったのが会社の規模が大きくなるにつれて戦車や戦艦を作るようになって、私が小学生になる頃には巨大武器商社として名を馳せるまでに成長していた———浅井もその頃には首相として様々な政策を打ち出していたわ・・・・

 浅井が打ち出していた政策の中の1つの『経済活性法』ていうのがあってその政策の筆頭に浅井はうちの会社を選んだの・・・・

 経済活性法の名の下、浅井はうちの会社に業種問わず色んな会社を買収させて國中の資源、人材をうちの会社に集約した———

 その結果、うちの会社は日本一の総合商社になった本来であればうれしいことよね?会社が大きくなってるんだから――――けど、お父さんとお母さんの顔は会社が大きくなるにつれてどんどん曇っていった・・・・・・最初はどうして暗い顔になるのか分からなかった―――けど、お父さんとお母さんの書斎に入って色々調べてみてその原因が分かったの・・・・・」

 

 そう言って優はポケットから紙を取り出す  

 「この紙に書かれている事を読んでみて・・・・・」


 

 紙に書かれていることを読むとそこには『対中國軍殲滅用殺戮機』物騒な文面と何やら複雑な図面が描かれていた

 

 「これは・・・・」 

 「お父さんの書斎にあったの————お父さんとお母さんに軍事知識とか色々お知えられてるのもあって、図面が読めるんだけどその武器に積み込む予定の火薬は900m級のビルを一撃で粉砕できる火力を持ってるわ・・・・」

 優は悲しそうな表情になり続ける

 

 「多分、政府は近いうちに中國と戦争を始める気よ———そして、その武器は全部お母さん達が作った物・・・・・」

 優は泣きそうな声になりながらも続ける


 「お母さん達は間接的に人を殺そうとしている——————どうしてそんな事をするのか分からない・・・・けど、こんなの絶対間違ってる!!」

 そう言うと優は俺の方を向き泣きながら話す


 「ねぇ、私はどうすればいいの!?黙ってみてる事しか出来ないの?お母さん達が返り血に染まっていくのを・・・・・?!そんなの私・・・」 

 俺は思わず優を抱きしめる


 「ゆ、勇?!」

 優は驚いて声を上げる

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 俺は何も言わずに優を抱きしめ続ける


 優が俺の顔を見る、俺は何も言わず微笑むと優の顔が次第に崩れ始める

 「・・・・・・・・・うっ、うっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!」

 優の中の何かが決壊したのか、優は俺の胸に顔をうずめ大声をあげて泣き始める


 俺は何も言わず優を強く————ただただ強く抱きしめる・・・・・・


 誰もいない2人だけの静かな浜辺で優の泣く声だけが響いた

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