第6話、最恐スライム

私は村井ちゃんの手を引いて異世界に転移した。

転移先はトーカちゃんの横だ。先生から座標をいただいているので、異世界だろうが問題ない。


初対面だけど、なんかげっそりしている。


「大丈夫?」


「これで・・・やっと悪鬼から解放されます」


1週間ぶりのクラスメイトは・・・輝いていた。

どの顔にも、”異世界を堪能しました”と書かれている。

話すと面倒そうなので、そのままロストで空間を入れ替える。


祭壇の上には、の村井ちゃんを再現したスライム君10号が横たわっている。


あの後、先生と相談してやっぱり元と同じ状態に戻すのが良いだろうという事になり、急遽復元したものだ。


トーカちゃんに管理者を呼び出してもらう。


「おお、もとに戻ったようじゃな」


「ええ、ご迷惑をお掛けいたしました。

これはお詫びの品でございます」


「この前と同じやつか?」


「種類は変えてありますが、この前と同じケーキでございます。

それで、スライムなんですが、あちらの世界で少し変質してしまいましたので、事故当時の状態を復元しております。

それにつきましては、別にお詫びの品を・・・

プリンの詰め合わせです。ご笑納くださいますようお願いいたします」


「ふうん・・・

オリジナルはお前だな」


管理者様は村井ちゃんを指さした。


「流石は管理者様。ご慧眼恐れ入ります。

ご了承いただけますのなら、これで引き揚げさせて・・・」


「オリジナルも置いて行けよ。

ケーキもプリンもスライムもだぞ。

全部私のものだ!」


「管理者様、それはあまりに強欲な・・・」


うるさいわ!」


管理者がてのひらからぶつけてきた魔力に私は弾き飛ばされた。

まあ、全身をスライム君が覆っている私には効かないんだけど、服が破れてしまった。


「今のは、こちらの空間に対する宣戦布告と考えていいですよね。

ではこちらも遠慮なくいかせていただきます。

村井ちゃん、お願いね」


「はい。旦那様!」


ポッと頬を赤らめる村井ちゃん・・・嫁、確定なのかよ・・・


管理者の前に出る村井ちゃん。その瞬間、管理者の首が横にずれる。


「ほう、面白い技だな。触手を細くして糸状のやいばとしたか。

だが、こんなものでは私は死なぬぞ・・・なに!分裂か!」


祭壇のスライム君10号と3号、4号、6号から9号が村井ちゃんの姿に変わっている。

半分以上は小さい村井ちゃんだったけど。


「いえ。個属性複写コピーです。」


「おのれ・・・」

眷属けんぞく召喚!』


数千と思えるモンスターが現れた。


「泣いて許しを請えば考えないこともないぞ」


そういう間にモンスターは増えていく。

ドラゴン、リザードマン、ワーウルフ等の大型種から天使、精霊、ゴブリンなどの中型種。妖精や虫系の小型種。

節操のない品揃えだ。

不敵に笑う管理者に対し、村井ちゃんシスターズが応じた。


「「「「「いっただっきまーす!」」」」」


「なにっ?」


シスターズはスライムの姿に戻り、薄い膜の状態となり、そのままモンスターたちに覆いかぶさっていく。

魔法などで攻撃されているが、気にした様子はない。


元のスライム君は、全てのモンスターを吸収しており、特性だけでなく耐性も身につけていると5号君が説明してくれた。


パッと広がり、パサッと被さり、モグモグと咀嚼。キューッと吸収し、ズンとスライム君(大)に変化する。

ポンッと複数に分裂し、繰り返しが行なわれる。モンスターの悲鳴は絶え間なく続いている。


「や・・・やめろ・・・私の眷属が・・・」


数分後、一万近くいた眷属は7500匹ほどのスライムに代わっていた。

村井ちゃんはその全てに触手を伸ばし、属性を複写する。

約7500人の村井ちゃんシスターズが誕生した。

どこかの世界にいる某ゴーグルのシスターズと違い、能力の劣化はないらしい。


「あふ・・・」管理者様が、何か言いたそうだ。


「あなたがスライムを使って、ここの人間にやろうとしていたことですよ。」


「違・・・う。ここまでの、能力は与えていない」


「今さらですね。

7512号、吸収してください」


管理者さんは抵抗することなく吸収され、7512号ちゃんは管理者の姿になった。


「では、この世界はあなたにお任せいたします。

何かあったら連絡なさい」


「お姉さま・・・私は、この地で独りぼっちなのでしょうか?」


「安心なさい。転移が使えるようになったら、定期的に誰かよこします。

それまで精進してください」


「はい!

それと・・・できれば旦那様に名前を・・・いただけませんか」


「そうだな・・・白いからバニラかな」


「ありがとうございます。バニラは、精いっぱい頑張ります」


「うん、よろしくね。

ところで・・・村井ちゃんさぁ」


「はい」


「バニラから旦那様って呼ばれたよね」


「はい」


「まさか、全員が今朝の記憶を持ってるなんて・・・」


「当然です。

みんな私ですから」


「あっ、そうなんだ・・・」


初体験一回で、その日のうちに嫁が7500人に増殖・・・


「7500人を一回で転移は無理っぽそうだね。何回かに・・・」


「それなら大丈夫ですよ。みんな合体してください」


スライムの姿になり合体すると学校の校舎くらいの大きさになった。

更に圧縮してバスくらいの大きさに。


こうして、私たちは元の世界に戻ってきました。

私は男の子に戻してもらい、村井ちゃんは先生の手配で住民登録。クラスメイトになりました。


村井ちゃんは我が家に連れて帰り、婚約者として母さんに紹介しました。

異世界出身で身寄りがないと告げると、母さんは二つ返事で同居を認めてくれました。

村井ちゃんの外見は、桃花先生のマトリクスをいただいていますので、銀髪の耳ピコエルフさんです。

ファンタジー大好きの母さんは、村井ちゃんを抱きしめて今日からあなたは私の娘よ・・・なんてホームドラマしちゃってます。


「お母さま・・・」


学校でも婚約者で通しちゃいました。

僕と村井ちゃんは、正式に桃花先生の助手になりました。

そして、先生と佐藤さんの推薦で、政府の特務員の職に就いています。

高校生で桃花先生の助手で政府特務員です。

なにしろ、僕たち二人には7500人の影武者がいるんですから。




「中東なんだけど、過激派に民間人の女性が二人誘拐され、身代金を要求されている。

ミッションは人質の救出と組織の壊滅だ。

報酬は20本で期限は明日の1200だけど、どうかな?」


「詳細は?」


僕へのミッションは、1本100万円で提示される。

今回は2000万円だ。

その代わり、政府は何があっても関与しない。

失敗すれば報酬がなくなるだけの話だ。


僕は一瞬でアラブ系の男性に変身する。もちろんスライム君任せだ。

村井ちゃんは、隣の専用室で最新の情報伝達係となる。


僕はそのまま指定ポイントへ転移する。

もちろん、転移前に全世界に展開しているスライム君が現地の安全を確認し、詳細の調査を始めている。

30分もあれば、スライム君の一人が人質の元に到達し安全を確保。僕が現地へ飛び、そのまま脱出。

ほかのスライム君が組織のメンバーを吸収し、うちのメンバーが増えていくという仕組み。

僕が現地へ飛ぶのは、どちらかといえば拠点への顔出しである。直接人質を救出するのは単なるパフォーマンス。

メインはミッション完了のねぎらいに、関与したメンバーにご奉仕するのだ。

もう、ミッションの度に僕はボロボロのカスカスである。


なんでこうなった・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最恐スライム モモん @momongakorokoro3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ