第3話、委員長覚醒
「よし、6番の出力を落とすぞ3・2・1・・・
出力オフ、サンプル採取!」
「ギャア!」
「くっ、タイミングをあわせてきやがったか。
触手を押し込め。結界を戻すぞ!」
「駄目です!触手がダニエルに絡んでいます!
きっ、切れません!」
「委員長出番だ。行くぞ!」
「はい!」
毒島先生の意識にあわせて転移を繰り返す。
1・2・3・4・・・
6回目でダニエルって人に巻き付いた触手を切断する。
「よし、いいぞ!
結界を復活してくれ!」
毒島先生はそう言いながらダニエルって人から触手をむしり取り、試験管のような容器に回収した。
「すまない。助かったよ。容器はあとで返却する」
「ああん?何言ってんだ。
こっちで回収したサンプルを、なんでお前らに渡さなけりゃならないんだ?」
「サンプル回収と分析はこちらの仕事だ」
「だから、必要ならそちらで採取すれば良いだろう。
これは俺が回収したサンプルだ。
そもそも、なんで佐藤がいないんだ。
あいつの役目だろう」
「分析官は報告のため本部へ戻った」
「だから、勝手に行動したわけか。
だがな、サンプルの心配よりも、そのダニエルってやつの心配したほうが良さそうだぞ」
「なっ、おいダニエルの様子は?」
「触手の巻き付いた跡が、紫色に変色して・・・皮膚がうねっています」
「くっ、大至急医療班を呼べ!」
「佐藤が来たら、サンプルはモモのところにあると伝えてくれ。
委員長、戻るぞ」
「あっ、はい」
「終わったぞ」
「ああ、お疲れ様。
その長いのは向こうにあげてもよかったのに。
欲しがってたでしょ」
「ああ、だが己の力量をわきまえない奴は嫌いだからな。
甘やかすと増長する」
「だって、犠牲者出したのに、成果ゼロじゃ失業しちゃうわよ。
まあ、あれがサンプルになるからいいか・・・」
「助けられないのか?」
「正直に言って、無理ね」
「桃花先生は、ああなることが分かっていたんですか?」
「単なる予測よ。
でも委員長、勘違いしないでね。
予測できても、止められるとは限らないし、仮に止められたとしても良い結果に繋がるとは限らないの」
「・・・」
「あっ、それから、授業が終わったら帰りにもう一度顔を出してほしいんだけど」
「わかりました。
それで、このチカラはどうしたら・・・」
「元々の能力を少し底上げしただけだから、そのままで良いわよ。
転移って希少な能力なんだから、使いこなせるように努力しなさいよ」
「あっ、はい。わかりました」
「あっ、委員長お帰り~」
「どう?少しは生存の可能性ありそうかな?」
「それが、水が出せないみたいなんだ」
「水?
だって、火・水・土・風の基本魔法は、必須項目だから全員が1年の時に習得済みじゃないの?」
「そうなんだけどさ。間が悪いというか、全員がE判定ギリギリだったみたい」
「それって・・・」
「魔力を振り絞って、やっとコップ一杯ってやつ」
最悪だ。
1持間で9㎥以上出せればA判定。3㎥でB、1㎥でC、1リットルでD、200mlでE判定となる。
「嘘だろ・・・全員が魔力を振り絞っても、でかいペットボトル2本かよ・・・
だけど、半年以上前の判定だ。努力して少しは・・・」
「ゼロではないけど、せいぜいがアウトドア派の二人と異世界願望の強い上原しじみくらいだな」
「まあ、付近に水場があることを祈るしかないか。
食べ物はどうなんだい?」
「そっちは大丈夫そうだ。
小動物とかいれば、火魔法や風魔法、隠形なんか実用レベルで使える人が何人もいる。
吉岡が土系の強化魔法が使えるっていうから、多分床下の倉庫で助けを待つだろうって考えられる」
「染谷ちゃんが、結界術に凝っていて、多分気温の調整くらいはできると思うよ」
「それならひと安心だな」
「ここでネックになりそうなのが上原しじみなんだ」
「なんで?」
「あの子、異世界願望が強いからさ。
みんながここで救援を待とうとか言ったら、脱走するかもね」
「まさか・・・そんな・・・」
結局、その日は自習で終わった。
明日にでも保護者会を開くので、それまでは第三者には情報を流さないように注意され、僕は桃花先生の研究室を訪れた。
「君は、ブーちゃんのような優れた魔法師なりたくはないかい?」
「僕はお二人に憧れて、ここの中学に編入してきました。
お二人は僕の目標です」
「それは光栄だね。
できれば、君の手を借りたいのだが、どうだろうか。
転移持ちが欲しかったんだが、なかなか有望な人材がいなくてね」
「僕なんかでよければ、いつでもお使いください!」
「ありがとう。
じゃあ、早速性器を出してくれるかな。
サンプル採取するからさ」
ニコッと笑う先生は、とても魅力的で、急に股間が・・・
言葉の意味が理解できなかったが先生にされるまま・・・
「あれっ?先生の髪って、銀色でしたっけ・・・耳も、こんなにとがってたんですね」
先生は少し口の中でクチュクチュしていたが、僕と唇を重ねた。
思ったとおり、ドロッとした液体状のものが入ってきた。
「君の遺伝子に私のものを重ねた。
2~3日すれば全身に浸透するはずよ。
そうすれば、私のことも分かるわ。
今のは、二人だけの秘密だからね」
「あっ、はい。じゃあ、失礼します」
そういって部屋を出た。
どうやって家まで帰ったのか・・・覚えていない。
「ねえ、今日学校で何があったの?」
母さんが聞いてきた。
いろいろありすぎて、何を答えたらいいのか分からなかった。
僕の一大事は、桃花先生とのアレだが、あれは流石に教えられない。
「どうして?」
「ニュースでやってたの。何とかって外国人の分析官が、あんたの学校で死亡したって。」
「ああ、多分緊急の保護者会があると思う。
ちょっと・・・どこまで話していいのか分からないから、学校で聞いてくれる」
「あんた、まさか・・・」
「なに?」
「学校で悪いことしたんじゃないわよね」
「それは・・・多分、ないと思う・・・」
人に言えない・・・後ろめたいことがいくつか頭に浮かんだ。
本当なら、クラスメイトのことが気になって、眠れなかったんじゃないかって思うのだが、無性に眠たかった。
翌朝の目覚めは爽快だった。
桃花先生の遺伝子によってもたらされた覚醒は、世界に違う意味を持たせてくれたのだ。
「おはよう」
教室に入ると、話題は半数のクラスメイトのことだった。
生きているのか、救出は可能なのかetc
回答は覚醒した頭の中にある。それを口にするわけにはいかないが、不安感を払しょくできるようなヒントを与えることはできる。
「僕も、帰ってからいろいろと考えてみたんだけど、あの祭壇には動物が徘徊したような痕跡はなかっただろ。
争ったような痕跡もなかったから、そうイレギュラーな場所じゃないと思うんだ。
結界で囲われているとかね。
スライムは例外。あれが何なのかは、政府が分析中。
転送された場所は、石川さんのチップを解析すれば確認できるから、もう一度同じ座標に対してロストをかけてやれば呼び戻せるはずだよ」
これは概ね正しい。スライムの分析は、桃花先生・・・いや、モモちゃん先生が行なっており、座標もモモちゃん先生が確認済み。
あとは佐藤分析官に教えて、佐藤分析官がどうやったのか辻褄をあわせれば対策に着手できる。
問題は、誰がロストを実行できるか・・・
石川さんのロストは、完全な暴発で再現は不可能。
魔法回路自体がパンクしており、基礎魔法すら使えないだろうと診断されている。
政府が術者を用意できれば良いのだが、転移系術者はただでさえ数が少ない。
ましてやロストなんて言う派生形の最上級魔法で、かつ別の世界への転移などできるとは思えない。
そう・・・普通なら。
モモちゃん先生は、僕なら異世界への転移が可能だろうと考えている。
あと3日くらい、必死に訓練すれば確率80%くらいで普通に転移できそうだと・・・
だが、その場合、そんなことのできる高校生(術者)がいるとバレたらどうなるか。
モモちゃん先生の下僕でいられなくなってしまうじゃないですか!
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