第2話、クラスメイトの行動を予測する

「僕たちにできること。

いや、僕たちにしか出来ない事。それは行動予測だ」


「「「行動予測?」」」


「ああ。状況を想定し、あいつならこう考えるだろう、行動するだろうってシミュレーションするんだ」


「でも、そんなの家族とかの方がよく知ってるんじゃない?」


「一人一人ならそうかもしれない。

だけど、あのメンバーが集団でどうするか。予測できるのは僕たちだけだと思わない?

道具は?今何を持っているのか。得意な魔法は?誰がリーダーシップを取りそうなのか?

生活物資は?

水が出せそうな人はいるか?鳥や小動物を狩れそうな人は?

サバイバルの経験者は?

そういう情報を持ち寄れば、多少なりとも行動の予測がつくんじゃない?」


「そうすると、あの遺跡みたいなものからも情報を探ったほうがいいよね」


「私は、あの中に親しい友達はいないから、遺跡から情報を集めてくるわ」


「よし、じゃあ50音順に、赤石君の情報に詳しい人いる?」



こうして、僕たちは行動予測という手段で、クラスメイトの生還に協力できるかもしれないという、わずかだけど希望を見いだせる課題に取り組むこととした。

1時間後、再集合して検討を開始した。


「じゃあ、環境面からだね。あの遺跡から読み取れる情報をお願いします」


「はい。調査団や桃花先生のご意見を参考に仮説を作りました。

まず、あの石造りですが、おそらく最近作られたものです。

ただ、重機や人力で組み上げた形跡がない事から、魔法や超能力などで作られたと推測されます」


「遺跡などではないと言うことですね」


「はい。

ただし、使った痕跡が見られない事から、何か特殊な儀式用などが考えられます。

また、石の隙間に入り込んだ植物の種などから、比較的高地と推測されます」


「そうなると、気温は低いとみるべきか・・・」


「周囲にはスギなどの樹木があり、動物の毛も確認されました。

シカやヤギの類だと思われます。

ちなみに、床下が倉庫になっており、転移で崩れていなければ屋根のある空間として使えるかもしれません」


「中の物は?」


「石灰やリヤカー程度のようです。

屋外で使う物品の倉庫なので、マットレスなどは期待できません」


「ほかに、何か使えそうな機材は?」


「テニス用のネットや、授業で使う金属バットほかソフトボール機材一式も可能性があります。

可能性というのは、こちらの倉庫には祭壇下の土が詰まっていて、奥に何が残っているか確認できないからです。

更には、誰かが一時的に置いたものや、持ち出ししたものが確認できません。

玉入れの籠や綱引きの綱、文化祭で使った模擬店の残骸とかが入っている可能性もありますし、正確な把握は困難かと・・・」


「実験装置のアクリルケースを使えば、水とか入れられるかもしれませんね」


「あ、ありがとうございました。

次に、個人の特技を確認します。

何か、サバイバルや建築、屋外活動・食料調達に関連する特技を持っていそうな人っていますか?」


「あっ、今野君と赤石君がアウトドア派です。二人でキャンプに行ったりしてるって聞きました。」


「吉岡君は家が建築関係です」


「今井さんは家が定食屋さんで、時々手伝っているって・・・」


「あべっちは魚おろせるって自慢してました」


「さおりんが、洋裁得意です」


「しじみちゃんは、読書家でいつか異世界に行くんだって言ってました。

モンスターについては、いろいろと知識豊富だと思います」


「じゃあ、次は持ち物ですね。

手荷物で使えそうなものを持っている可能性は?」


「あ、赤石君は・・・多分、ライター持ってます」


やっぱり、手荷物は多くなさそうだ。

鞄とか持ってるわけじゃないからね。


「時刻設定はこっちと同じだとしましょう。

みんな昼飯は食べたし、あと3時間くらいすると日が沈みます。

しばらくはこの場所を動かないでしょうが、そろそろ食料の確保と水・トイレ・寝る場所などの問題などを考え出すころだと思います。

その前に、突然の転移でパニックになりそうな人。それをなだめる人。リーダーシップを発揮できそうな人。リーダーを押し付けられそうな人を考えてみましょう。」


「さおりんはパニクってるわね。

普段は私が抑えるんだけど、あの中だと谷内さんがなだめるかな」


「頼れそうなのは吉田だな」


「副委員長はあべっちだけど、女子をまとめられるのって染谷さんだと思う」


「出しゃばりそうなのは井上だな・・・」


「おい、俺は残ってるんだ。なんであっち組に入れるんだよ!」


爆笑だった。


「こういうムードを作ってくれそうなのは・・・今井さんかな」


パンパン

「はいはい。馬鹿言ってないで、まず役割分担を決めましょって、染谷さんが言い出す」


「そうだね。じゃあ、暫定的に外回り組と居残り組に分けようか。

外回りは、状況把握とできれば食料確保。

居残りは使えそうな物品の確認と寝る場所の確保・・・吉田ならこんな感じかな」


パチパチパチパチ

半開きのドアに桃花先生が立っていた。


「面白いわね。

飛ばされたクラスメイトの行動予測ですか。

アプローチとしては間違ってないわよ。

で、委員長、手を貸してほしいんだけど、抜けられるかな?」


「はい。

坂下、続きを頼むよ」


「ほい。いってら~」


桃花先生の研究室にはブーちゃんがいた。


「モモ、まさか生徒に危ないことさせるつもりじゃないだろうな。

それと、委員長。今、失礼なこと考えなかったか?」


「空間移動を使えるのがいないんだから仕方ないでしょ。

それとも、ブーちゃんが一人でやってくれるぅ?」


「何やらせるつもりなんだよ?」


「あの結界じゃあ、完全には抑えきれないかなって思うの。

だから、サンプルをとってきてほしいのよ。

はいこれ」


そういって桃花先生は二つのアイテムを差し出した。

毒島先生は当たり前のように黒い棒を受け取った。

僕の前に出されたのは水色の小瓶だった。

ラベルには”モモちゃんスペシャル★委員長専用”と書かれていた。


「ブーちゃん用のは、ゴリラタイプなの。

あんなの飲んじゃ駄目よ。

これなら、魔力は5倍くらい強化できるわ。

それと、私やブーちゃんと思考通話できるようになるから」


桃花先生は男子生徒の憧れナンバー1である。

その先生が、僕専用の薬を作ってくれた。

嬉しくて、一気に飲み干した。

体の中心が熱くなり、一気に全身へと広がった。


「転移先を意識するだけで魔法が発動するはずよ。

意識をブーちゃんにあわせて、ブーちゃんの行きたいところに転移。

できるかな?」


「なんか・・・こんなやり方で能力が上がるって知ったら、普段の努力が空しくなってきますね・・・」


「馬鹿ね。

地味な基礎訓練とその反復があるからこそ使い物になるのよ。

今までの努力を誇りなさい。

さて、時間がないわ。

3分50秒後に今の結界が緩んでスライムが暴れるわ。

その制圧を兼ねてサンプル取りよ。よろしくね」


「はい!」


「やっぱり、初々しくっていいわね。

ブーちゃんも、あの頃は・・・」


「委員長、いくぞ!」


体育館では魔法管理局のスタッフが10人ほど作業していた。

佐藤さんの姿は見えない。


「よし、6番の出力を3秒かけて弱める。

それで動きがなければ2秒後に6番だけオフにする。

時間は1秒だ。その間にサンプル採取してくれ」


「「「はい」」」


「よし、持ち場についてくれ」


桃花先生の予告時間まで、あと35秒。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る