最恐スライム
モモん
第1話、魔法暴発
「もうイヤ!みんな消えちゃえ!!」
『ロスト!』
その瞬間、石川さんの前面が直径10mにわたり淡い光に包まれた。
巻き込まれたのはクラスメイトの半分20名。
ここは体育館、某高校2年3組の俺たちは魔法実習の授業中だった。
光が収まったとき、そこには祭壇があり、クラスメイトは消えていた。
「馬鹿野郎!なにやってんだ!」
『リバース!』
魔法専門教員の毒島先生である。
リバースは”時間巻き戻し”の魔法であり、高校の魔法教員程度が使える魔法ではない。
Aクラスの魔法術者で10秒。Sクラスで3分のところ、毒島先生のリバースは10分の巻き戻しができる。
しかし、毒島先生の魔法は祭壇の上を淡く発光させただけで発動しなかった。
「くっ、なぜ発動しないんだ!」
『リバース!』
また祭壇の上が淡く光った・・・
「先生、祭壇の上が発光りましたので、何か魔法阻害物質があるんじゃないですか?」
「ん、みんな近づくなよ。
委員長、職員室へ飛んでくれ!緊急事態だと」
「はい!」
俺は川瀬太郎、クラス委員長であり、瞬間移動が使える。
『転移!』
「どなたか!体育館で事故です。
石川がロストを発動。クラスメイトの半分が消えました。
毒島先生がリバースをかけたんですが、発動しません。」
「川瀬君、落ち着いて!ほかの情報は?」
「あっ、ロストで代わりに祭壇みたいなものが現れました。
毒島先生のリバースで、祭壇の上が光りましたので、魔法阻害物質があるんじゃないかって、誰かが言ってました。
今のところ、モンスターみたいなのは現れていませんので、けが人とかはいません」
「了解よ。応援に行ける先生は集まってください!」
そういうと、桃花先生は壁のリュックを一つ取った。
緊急セットと書かれている。
「お願いします」
『転移!』
「ぐっ、祭壇の上に何かいる。
みんな、離れろ!」
そう叫ぶ毒島先生は、もう立っていられないようだ。
リバース連発なんて、発動できるヤツいないっての。
魔力切れ起こすに決まってるじゃん。
「先生、今、桃花先生を呼びました。
先生も離れてください」
『転移!』
先生を抱えて、壁際まで転移する。
祭壇の周りは・・・石川さんが蹲ったままだ。
「石川さん!」
呼びかけても反応はない。耳に入っていないようだ。
その時、祭壇の上から透明なものが石川さんに向かって伸びた。
『転移!』
石川さんを抱えて毒島先生の脇に移動する。
『転移!』
「委員長、ギリギリだったがナイス判断だ。
これを飲んでおけ」
そういって、毒島先生は黒い小瓶を差し出す。
「いえ、先生が使ってください」
「俺の分もあるよ」
毒島先生はポケットからもう一本取り出し、開けて飲んだ。
「くーっ!やっぱり桃ちゃんスペシャルは効くなぁ!」
「えっ、桃花先生が作ったんですか?」
「ああ、市販品よりも効果大だ」
手書きラベルには、モモちゃんスペシャル(大)と記載されていた。
桃花先生は、魔法薬学のスペシャリストだ。
3年前、この二人がうちの学校に赴任するというのがニュースになったほどだ。
僕も、二人の指導を受けたくてここの中学に編入した。
高校入学だと、倍率がとんでもないのだ。
その時、体育館の入り口が開き、桃花先生と3名の先生が入ってきた。
「モモ!気をつけろ!祭壇の上に何かいる!
俺の探査では生物としか表示されない!
粘液状で、サイズ約80cmだ!
それほど早くないが、触手みないなのを伸ばしてくる。
どうなるかは未確認だ!」
「了解!
じゃあ、私は探査の準備をしますから、先生方は結界のほうをお願いします」
「「おう」」「はい」
桃花先生は、黒い三角錐みたいなものを取り出し、2個づつ渡す。
続いて黒い箱をリュックから取り出し、魔力で起動すると、桃花先生を中心に六芒星結解のラインが現れる。
桃花先生はダイヤルを使って器用に六芒星の中心を祭壇に移動する。
「モモ、10時の方向に30cm!」
微調整を毒島先生が誘導する。
「委員長、動けるか?」
「はい、大丈夫です」
六芒星結界は授業でやっている。
光のラインの各頂点に三角錐を設置し、魔力を流すから6人必要なのだ。
「よし、やるぞ!3、2、1起動!」
薄島先生の合図で魔力を通し、結界が起動した。
さっき飛び出した触手みたいなのが祭壇に戻っていく。
「よし、とりあえずこれで良いだろう。
あとは調査機関を呼んで調べてもらう」
毒島先生は、携帯端末を取り出し連絡を始めた。
「彼女がトリガーかな?」
「はい。石川カスミさんです」
「じゃあ、先生方は彼女の拘束と聞き取りをお願いします」
「拘束するんですか」
「そうよ。
未申請の固有魔法をほかの生徒に対して使った。下手をすれば殺人よ。
固有魔法の隠ぺいだけでも犯罪なのに、弁解の予知なしってやつね。
魔法師として届け出た以上、未成年だなんて通用しないわ」
「それは・・・」
「端末はあるか?」
「はい、ブーちゃんのやつ」
「構内でそれは止めろって・・・」
「ブ・・・ブーちゃんですか・・・」
「委員長、卒業したかったら、その記憶は抹消しろ・・・」
「あっ、了解です」
「分析結果が出たわ。
種族候補
スライム93%、スライム亜種6%、未確認生物1%
特性予測
魔法耐性、99%
物理耐性、予測不能
その他、魔力吸収体の可能性あり」
「魔法耐性99%のスライムだと・・・信じられない。
しかも、魔力吸収なのかよ・・・
こっちの・・・マジログだと・・・
くそっ、ロストの転移先不明かよ・・・
あとは、国の監視ログか、スライムの組成分析。
起動者の持つレコーダーかチップからのログ分析に期待するしかないか・・・」
マジログ、マジック・ログは魔法の痕跡を分析するシステムで、使われた魔法や発動内容を確認するのに使われる。俺たち魔法使いは、魔力の動きを記録するレコーダー所有が義務付けられ、同時に同じ機能を持つチップを耳に埋め込まれている。
「毒島ぁ!」
「おお、佐藤、悪いな手間かけて」
「これが仕事だからな」
「先生、こちらの方は?」
「ああ、大学時代の同級生だ。
佐藤守、今は魔法管理局で分析官だ。」
「えっ、エリートじゃないですか!」
「まあ、ログの解析だけは敵わなかったな。
それ以外は、俺とモモちゃんの方が優秀だったぞ」
「まあ、ブータローの言う通りだが・・・」
「ブッ、ブータローですか・・・」
「PUじゃなくてBUな。まあ、PUでも大きな間違いじゃないけどな」
「誰がプータローだ!
委員長、こんな大人になるなよ。
卒業したかったらな」
毒島先生と佐藤さんは校長からお呼びがかかって出て行った。
桃花先生は、結界装置毎佐藤さんの仲間に引き継ぎをしている。
教室に戻った僕たちは自習で、教室での待機を指示された。
残った18名に声をかけて、情報の共有を行うことにした。
授業は5班単位で課題に取り組むものだった。
試験の成績順に班分けされており、石川さんの班はトップクラスの5人だった。
魔力量は多く、ペーパーテストの成績も良いのだが、細かな制御は苦手でしかも協調性に欠けるところがあった。
毒島先生や僕も班を替わってはどうかと提案したが、優秀な自分に皆が合わせるのが当たり前だと・・・
相当プライドが高かったみたいだ。
今日も一人だけペースがあわず、自分に合わせろと主張。
断られて癇癪を破裂させた・・・にしては、被害が大きすぎたが・・・
当面の対応としては、クラスメイトの飛ばされた場所の特定と救出。
これが最重要となる。
これから行われるであろうログの解析などを僕から説明した。
それと同時進行で、あの祭壇に関する分析。
特に、祭壇の上にいたスライムらしきモンスターの特定と対応。
「ねえ、ロストって対象を消滅させる魔法じゃないの?」
「僕も図書室の本で読んだ程度なんだけど、転移の上位魔法で、別の世界と空間を入れ替える魔法みたいだね」
「そうすると、少なくとも染谷たちが飛ばされたのは、祭壇なんかを必要とする知性体が存在する世界って事か。」
「捜索まで生き残れるかどうかは、まさに神頼みってことかよ」
クラスメイトが力なく笑った・・・
「私たちにできることは?」
「政府が動いているから、僕らが何かするってことはないって言われると思う」
「いわれる?」
「委員長は、何か出来るって考えているわけね」
「ああ。ブーちゃんの弟子の名にかけて」
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