第四話 身辺警護 その二

 七月六日午後、私は首都の東にある国際空港の国際線到着ロビーにいた。


 警護対象であるアイリーンの乗った飛行機は既に三十分前に空港へ到着している。


 私は私服姿でやや短めのスカートを履き、携帯用の銃を右足太もも内側のガーターホルスターに装着している。今回の任務では彼女に不安を与えないよう、オモテの顔である『Shiba-Inu』編集部員の高野美咲としてアイリーンに伝えるよう、彼女の父親と口裏合わせしているため、銃の所持が彼女に見つかると厄介なのだ。


 また基本的に荒事では制圧用魔法を使うことが多い私だが、衆人環視の中での魔法使用はご法度はっと。もしバレたら軍法会議ものだ。想像しただけでブルッとくる。


 銃なんて使わないで済めば一番良いんだけどね。


◆◆◆


 さらに二十分が経過。ようやくアイリーンの搭乗した飛行機の便名タグをスーツケースに付けた旅行者が大勢出て来た。


 そろそろね⋯⋯私は警護対象の顔写真を今一度チェック。英国人だった曾祖母の影響もあり、我が家では当然英語などの外国語学習が必須だった。もちろん待ち札にも英語でアイリーンのフルネームを書いてある。


 私の待ち札を見て一人の外国人少女がこちらに近づいてきた。眼鏡をかけており、利発そうな女の子だ。でもあの歳(たしか高校一年生)で私よりも胸あるんじゃないかしら⋯⋯?


 小さな旅行用スーツケースを引きながらアイリーンが笑顔で挨拶してくる。


「こんにちは。はじめまして!」

 英語ではなく、かなり上手な日本語だった。


「こちらこそはじめまして。私の名前は高野美咲。ミサキって呼んで頂戴。あなたがアイリーンね」

「はい、アイリーンです。パパからは日本の友人である高野さんに日本滞在時の観光案内を頼んだって聞いています。ミサキさんは雑誌の編集者なんですよね」

「えぇ、そうよ。日本犬、主に柴犬の雑誌を刊行しているの。ところでパパは他に何か言ってた?」

「特には何も⋯⋯。初めての日本観光を楽しんでおいでって言われました。おまけにお小遣いまでたっぷりもらいました」


 彼女は写真の中と同じく屈託のない笑顔でそう答える。どうやら父親は彼女に今回の亡命については一言も話していないようだ。


「こんなところで立ち話もなんだから、そろそろ私たちが滞在するホテルに移動しましょうか」

「そうですね。憧れの日本に来られてちょっと有頂天になっていました」

「それにしてもアイリーンは日本語お上手よね」

「はい、昔から日本のアニメと漫画が大好きで日本語を猛勉強しました」

「あぁ、それで⋯⋯」


 仮想敵国Cからの尾行者がいないか、私は周囲を警戒したが、尾崎一佐が護衛につけてくれたチームメンバー以外は今のところ警戒すべき人物は見当たらなかった。


「じゃあ行きましょう。今日から緑の丘にあるホテルに滞在してもらうわ。なんと温泉もあるのよ」

「温泉! それは今から楽しみです」


 私は認識阻害の魔法をかけてから、アイリーンのスーツケースの取手を持ち、車を停めた駐車場へと二人で向かった。

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