第24話 王都Ⅱ 下



そこには、鎖でつながれ長い髪が乱れ引き締まった体つきの優しい表情をした青年が吊り下げられていた。


 「だれだ! おまえは!!」


アルトゥールは、シェスティンだと思いこんでいたため動揺し、思わず叫んでしまった。


男は、全裸でつながれており引き締まった体が細いながらも強い印象をあたえている。

体中に、新しい傷と古い傷が無数に残っていた。


  男は、うなだれていた顔をあげた。


 「なんだ、拷問官。なにも話すことはないぞ・・・・・・ではなさそうだな。どうしてここに・・・・・・君は・・・・・・いや、そんなことは、どうでもいい。この鎖を外してくれないか?」


 「どうして、おれが罪人の鎖を外さないといけないんだよ。ここに閉じ込められるようなことしたんだろ。 おれは、人を探しているんで行くぜ」


 「待ってくれ!少年! 私は、魔王軍に戦ったんだ! 王都を守るために・・・・・・すでに王都は魔王軍に制圧されている」


 (どういうことだ。王都が制圧? さっきまで・・・・・・)


 「貴様! ここでなにをしている」


 突然、扉から声が聞こえ襲いかかって来た。

アルトゥールは、冷静に一体を鉄扉に叩きつけ、もう一体を地面にぶつけ気絶させた。

どちらも、漆黒の鎧をきて全身は毛が生えて犬のような顔をしていた。


  (コボルトってやつか・・・・・・この漆黒の鎧は)


 「少年! 君は、一体・・・・・・」


 「まぁ、何にせよ、邪魔したな。おっさん。またな!」


 「ちょっと待て! いや、まってくれ少年! 王国の危機なんだ。国王陛下を、王女殿下を救出しないといけないんだ!」


 「王女殿下? ソフィアか! ソフィアがどうしたんだよ!」


 男に詰め寄るアルトゥール。


 「私なら、王女殿下のところまで道案内ができる! 頼む! 助けてくれ! 見回りの兵士を倒しのだ。時間がもうない」


 アルトゥールは、拷問官から奪った鍵で手首に食い込んでいる鎖を外した。


 「私は、エドヴァ・・・・・・エドだ。よろしく頼む」


 「おれは、アルトゥール。 もう一人、仲間が捕まっているんだ! 頼んだぜ」


 エドは、コボルトの服と装備を奪い部屋を出た。


 しばらく歩いていると、エドは転んで動けなくなった。

 

 「つかまれよ。無理すんな」


 アルトゥールは、肩を抱きかかえて起した。


 「すまない。君には感謝という言葉で返しきれない恩を感じている。もう二度と外には出られないと思っていた」


 「気にするなよ。礼ならそのうちたっぷり返してもらうからさ」





 アルトゥールは、もう一つの光点がある方に向かった。


 「シェス! だいじょうぶかっ!」


 鉄扉の鍵を開けると勢いよく踏み込んだ。


 そこには、両手足を細い触手なようなものでひっぱられ、空中に持ち上げられ複数の触手がまさぐり、体中に透明のヌメヌメした液体がしたたりおちシェスティンが頬を赤らめて悲痛な表情をあげている。。


 「なーんだー。こんなところに。見張りのコボルトたちは、さぼっているのか?」


 巨大なナメクジ状生物が部屋いっぱいにつまっており、胴体部分に人の顔がついていて、それが喋りかけていた。


 「なんで人間が入って来るんだ? 目障りだ。うせろ!」


 体の皮膚から無数の触手がムチのようにしなりながら速度をだし襲いかかって来た。


 アルトゥールが、拳銃を構え顔のようなところに狙いを定めると、


 「危ない! 少年!」


 後ろから、エドと名乗る男がアルトゥールを押しのけるようにして入って来て、触手を切り落として行く。


 「我が剣に光をおぉぉ!」


 剣に光がまといつき、そのままナメクジ状の生物に深く突き刺した。


 「少年、君は恩人だ。必ず守ってみせる」


 ナメクジ状の生物は、悲痛な声を上げながら動かなくなり、エドも地面に倒れた。


 「これも、魔王軍なのか?」


「わからない。私もここまで人外な生物は見たことがない」

 

「そうだ! シェス! だいじょうぶか!」


 慌ててシェスを抱きかかえながら叫んだ。


 「う~ん、ごしゅじぃんさまぁ~。シェスはだいじょうぶですよ。えへ」

 シェスも抱きつき返しながら答えた。


 アルトゥールは、自分の上着を渡しシェスが着たがブカブカで袖をまくりあげていた。


 

 ウィンドウから、光点が上の方に集まっているのをみると出口が近くになるのだろうと歩き出した。


 「みんな、こっちだ! 気が付かれる前に急ごう!」


 アルトゥールは、エドに肩をかし何度か階段を登って行くと、しっかりした石で出来た階段に差し掛かった。


 「この上が、出口で10体の見張りがいる。さらにその上に4体いるようだ。おっちゃんとシェスはここで待っていてくれ」


 「なぜ、君はわかるんだ? すまない体が言うことをきかなくて」




 犬のような耳がピクピク動く。


 「おい、なにか音がしたぞ。この匂い・・・・・・人間か!?」

 「こんなところに、普通の人間が来るはずがない! 気をつけろ! 全員剣を抜け! 戦闘配備だ」


 コボルトたちが、慌ただしく動き剣を抜いて警戒をはじめた。


階段から黒い物体が投げ込まれ金属音を響かせ転がって行く。

コボルトたちが一斉に振り向き注意を向けた。


「なんだ、これは?」


一体のコボルトが手にとった瞬間、激しい光と音が鳴り響いた。

コボルトたちが、耳と目を押さえ平衡感覚がなくなったかのようにフラフラとなっている。


 アルトゥールが飛び出し、階段を上がったところの見張り2体をサバイバルナイフで倒すと拳銃を両手に持ち、銃から火花マズルフラッシュ が飛び散るたびにコボルトたちは、為す術もなく倒されて行く。

エドとなのる男も、階段から駆け上がるとコボルトたちを一刀両断に倒した。


 「風の精霊よ!」


 シェスティンも、負けじと風の精霊をつかいコボルトを壁に叩きつけて倒していた。



 「すごい剣術だな! もしかして、名のある剣士じゃないの?」

 

「少しだけ剣術をやっていただけだよ。まだまだ修行中のみ」

 

 「シェスも、役に立つんですよ。褒めて褒めて」


 「はいはい、シェスもがんばりました」


 アルトゥールがシェスティンの髪をくしゃくしゃになるぐらい撫ぜてあげた。

シェスティンは、満面の笑みで喜んでいる。


 (しかし、無人航空機を飛ばしているのによくわからないなぁ。王都全体が赤外線からレーダーすべて拒絶されている結界とかそんな感じか。)


 アルトゥールは、無人航空機UAVを上空に展開させていた。


 身を隠しながら入り口から、外を見回す。

街中はすっかり暗くなっておりモヤが立ち込めて、人の気配はまったくなかった。






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