王都Ⅱ

第22話 王都Ⅱ 上


 1週間前、アルトゥール一行が王都をでてすぐのことであった。

近衛師団小隊長、赤毛のルイースが叫んでいる。


 「みな、こっちに避難しろ! 急げ!!」

 

剣を抜き、逃げ惑う人々を誘導している。


街中の至る場所から、切り裂くような悲鳴が鳴り止まない。

赤毛のルイースは、剣を握りしめ急いで悲鳴があがっている場所へ走り出す。


 「ルイース! そっちはダメだ! いま、王宮に騎士団を集結させている!いそげ」


 「第一騎士師団長!! しかし、住民が! 街の人が!」


 「急ぐんだ! 個別に戦えばこちらが負けるだけだ!」


 王都の至るところから黒煙があがっていた。





「シェス! お口の周りにシチューがついていますわよ。もっと上品に、人間の間ではエルフというのは高貴で高位な人種として崇められているのよ。ふるまいからマナーも気をつけないと」


 「え~、おいしいからから、食が進むんだ! シェスはねぇ、ずっと森の中にいたから、マナーなんてわからない~。 エルフはねぇ、人里から離れたところに結界をつくって住んでいるんだ。 食べ物は質素で味付けなんてしないし、ここ数十年は山の中いたから。 ご主人さま、このシチューおしい! えへへ」


 ソフィアが布巾でシェスティンの口元を拭ってあげている。


 窓から朝日の差し込む丸いテーブルを囲み4人は食事を酒場の片隅でしていた。

あれから一週間が過ぎており町は活気が戻ったとはいかないが、賑わいをみせていた。


 「おれたちも復興の手伝いもしたし、もう町も大丈夫かな、セリアが10式戦車を森に隠して警備してくれているし。後は、先に王国に報告に行ったシュティーナが新しい借りの領主を連れてくれば一気に復興が進むだろう。そのまえに、近衛隊長の任をほったらかしにしていたのを怒られそうだけど」


 アルトゥールがシチューをすすり、シェスティンにシチューの美味しさにうなずきながら同意した。


 「たぶん、それほど怒られないと思いますわ。今回だけじゃないし、わたくしの警護や今回はアルトの警護もいわれていましたから。あの子は、わたくしの幼馴染ですの。小さい頃からわたくしを守ってばかりでね。いつも、自分よりわたくしを優先してかばってくれているのよ」


 愛おしそうに指でお茶の入ったティーカップの縁をなでてソフィアは遠くを見ていた。


 「今日で、この町ともお別れかぁ~。お城も半壊させちゃったし、ちょっとやりすぎたかなぁ。世話になったな!マスター!」


 少し離れたカウンターから、マスターが乗り出して近寄ってきた。


 「いえいえ、滅相もない。まさか、アレニウス王女殿下に、あのヴァインツィアール殿下だとは、つゆ知らずご無礼なことを。城に泊まれないとしても、私の宿を選んでいただき光栄の限りです。この町をお救いいただいた英雄です。この酒場もヴァインツィアール殿下にちなんだ名前に変えようかと思っている次第です」


 「やめてくれよ。そんな気持ちわるぃ~ぃ事。おれは、そんな趣味はないし。第一小っ恥ずかしいぃ~わ。勝手に銅像とか作ったりしねーでくれよ」


 マスターは、図星だったのかひどくがっかりした表情を見せている。


 「それじゃ、マスター。そろそろ行くよ」


アルトゥールたちは、食事をすませ酒場を後にした。


 幌馬車 ほろばしゃには、人だかりができておりアルトゥールたちを見かけると大歓声があがり、次々と感謝の言葉を述べて行く。


 「おいおい、こんなに食料いらないよ。座るところなくなんだろうが!」


 苦笑しながら3人は顔を見合わせた。


 「この町の沢山品だよ。みんな、あんたらに感謝しているんだよ。これでも感謝が足りないぐらいだよ」


 「気にしないでくれよ。こっちは乗りかかった船っちゅうか。成行きでのことだし」


 「いいんだよ! そんなことは。みんな受け取って欲しい気持ちでいっぱいなのさ」


 シェスティンは、馬車にムチを入れ走り出した。


 「ありがとう王女殿下! 英雄ヴァインツィアール!」


町からでて、見えなくなるまで町の人々は手を振り感謝の声が轟いていた。



 「ソフィアは、人気あるなぁ。国民から慕われていた」


 「そんなことありません。すべて今回はアルトのお手柄なのですから、たぶん王都でもアルトのことが話題になっているはずですよ」


 ソフィアは、間を開けると軽く息を吸い呼吸を整えた。


 「アルト・・・・・・もし、わたくしの真実を知っても、嫌いにならないでくれますか?」


 今にも泣きそうな顔になり、涙を浮かべながらアルトゥールを見つめている。


 「なになに? 急にどうしたの? 俺こういう展開なれてないんだけどー」


 アルトゥールも呼吸を整えた。


 「ソフィアを嫌いになんてなるわけがないだろ」


 ソフィアは、潤ました瞳でアルトゥールを見つめている。


 「なーにやっているんですかー。ご主人さま。ちょっと目を離したすきに」


 「うわあああぁぁっぁ」


 アルトゥールとソフィアは、びっくりして離れた。

いつのまにか、シェスティンが隣に来ていたのだ。


 「なっ! なにって! ほら! そのあの、てか、手綱は!! 馬!」


 幌馬車 ほろばしゃは、激しく揺れ馬は速度を上げて走り出して行った。




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