旅立ち

第15話 旅立ち 上



 小鳥のさえずりと朝日の強い日差しが差し込み、眠気眼に柔らかいものが当たっていることに感触を楽しんでいるとふと目が冷めた。

アルトゥールがシーツを引き取ると、エルフのシェスティンが全裸で寝ていた。


 「起きろ、シェス! なんでキミがおれのベッドにいるの!!」

 「おふぁぁようござぁいますぅ。朝ですか。おみゃすゅみなさぁぃ」

 「寝るなーおきろー!」

 「おはようございます~。ご主人さまぁ~ エヘッ」


 今度は、とびっきりの笑顔で挨拶するシェスティン。


 「だって、夜トイレに起きたらお屋敷が広くて部屋がわからなくなって、ちょうどご主人さまの部屋がありましてぇ、薄い服なので寝ているうちでどっかいっちゃいました エヘッ」


 アルトゥールは、屋敷のタンスを見回しシェスティンが着られそうなブラウスしかなく手渡した。


 「シェス、外で食事にしよう。ついでに服も買うか」


 「はい、ご主人さま!」


 玄関からでて行くと幌馬車 ほろばしゃが勢いよく止まると、近衛隊長のシュティーナが降りてきた。


 「おはようございます。アルト様」

 「おはようシュティーナ」

 幌馬車 ほろばしゃから、もうひとりドレスを着た人物が降りてきた。


 「アルト、おはよう。勝手にクエストにでるらしいわね。私も同行しますわ」

 「ソフィア!? なんでいるの? お城の方はだいじょうぶなの?」

 「ソフィア様がどうしてもと言われて止められなくて、城を抜け出してついてきたのです」


 「あら、そちらの女性は? ブラウス一枚とかいやらしい・・・・・・あやしいですわ」


 ソフィアが疑いの眼で見つめて来る。


 「えっと、ほらこの前の洞窟で助けたエルフだよ。行く場所がなくて泊めていたんだよ」


 「シェスティンです。お礼が遅くなってすみません。王女様には、お目にかかる機会がなく、その説はありがとうございます」


 「あの時のエルフ様ですのね。元気になられてよかったわ。まさか、あの気高きエルフ様とお会いできるとは思いませんでした。人里に降りて来るのはめったにありませんから」


 「シェスって呼んでください エヘッ」


「わたくしも、ソフィアでいいわ。内緒で来ているので王女ってバレたくないのよ。敬語も不要よ」


「色々お手伝いさんとして働いてもらおうかとおもって、今から、シェスの服を買いに行くんだけど、ソフィアもそのドレスじゃ目立ちすぎるだろ。一緒に買いに行こう! 行くよ。シェス」


 「はーい、ご主人さま~」

 

 シェスティンは、アルトゥールの腕にしがみつき歩きはじめた。


 (はぁ?ご主人さま~? あざといですわ、このエルフ)


 一行は服を買うと、クエストをすすめるために幌馬車 ほろばしゃに乗り込んで走り出した。



 城壁の見張り台から一人の男が見ていた。


 「行ったか。おれに歯向かったらどうなるか思い知るがいい」


  


 はるか上空、太陽の光が青空を照りつけ、風で流れて行く綿あめのような雲の上で、黒い鳥・・・・・・翼は40mを超え全長は10mほどの無機質に大きな翼を広げ旋回を続けていた。

それは、無人偵察機グローバルホークに酷似した機体だった。



 アルトゥールは、これにより周囲の地形と光学赤外線によりモンスターの位置情報を把握していた。

そして、黒い戦闘服に身を包んでいるアルトゥールは、なれない手付きで教えてもらったばかりの馬車の手綱をに握りしめ馬を操っていた。

 

 (なるほど、モンスターなどはソートや種類別に分類表示できるのか)

 

 ウィンドウを広げながら、状態を確認して行く。


 (レーダーありの狩りなんて、楽勝じゃん)


 馬車の後ろでは、3人が着替えていた。


 「どう? かわいいでしょ! 学園の制服なのよ。一度着てみたかったのよ!」

 「丈が短すぎて下着みえそうだぞー」

 「このすけべ! 変なところばかりみないで」


 (見事にすけべ認定を受けてしまった・・・・・・) 


 エルフのシェスティンは、違う服装で、生地の薄い服を着ている。あまりエルフが着られそうな服は売っていなかったようだ。


 「アルト殿、方向が違うのではないでしょうか?」


 「ちょっと、寄るところが忘れ物したんだよ」


 そういうと、馬車から飛び降り足早に走り去って行った。

補給物資を夜の間にクエストの近くに投下していたコンテナを見つけると、大型のカバンに銃器や消耗品を詰め込み、ケロベロスの大型交換パック肩にのせて、馬車に行き積み込んだ。


 「なんですのそれ?」

 「魔法の道具だから、危ないから勝手に触らないように」


 ウィンドウを開いて周囲の状況を確認して、近くに低級クエストのモンスターの反応があり、拳銃デザートイーグルMark XIX 50AEとM4ライフルにサプレッサーを取り付け馬車を降りる。


 「アルト殿。 これを! 宝剣とはいきませんが、かなり至高の剣です。あなたなら使いこなせるでしょ」


 「へー、剣か。ちゃんと握るのはゴブリン以来だなぁ」


 アルトゥールは、スーツに力を入れると筋肉が隆起すると思いっきり森に向けて素振りする。

剣からは、風切り音が聞こえ風圧で道が出来たかのように雑草が切り裂かれた。


 「ソフィア様、これはすごいですよ!剣技を教え込んだら、本当にヴァインツィアール卿の名にふさわしい人材になるやもしれません」


 アルトゥールは、背中に剣を固定しM4ライフルを背中にまわし、デザートイーグルを携え走り出した。


 鬱蒼うっそうと生い茂る森の中で、子犬ぐらいのから牛ぐらいのモンスターを走りながら次々と拳銃を発砲しながら倒していき、目標を達成された依頼書が燃えたかと思うと一瞬で消えて行く。

モンスターたちは、反撃という反撃もできず撃ち抜かれていき倒されていた。


 「やっぱりレーダーが表示あって、拳銃1発で倒せるレベルだから余裕だな」


 (さっきから、こちらの動きに合わせて動く反応があるんだが、なんだ?)


 「こちらも、大方終わりましたわ。アルトは、すごいわね。モンスターの居場所を正確にわかる魔法でもつかっているの? もう少し先に、湖があるからそこで休みましょう」


 制服姿のソフィアが、一汗かいていい笑顔で汗を拭いながら言ってきた。

片手には、メイスからモンスターの体液が滴り落ちている


 レーダーを見ていると人間の光点が移動を始め、その周囲に光点が集まるとこちらに向かってきた。


 「ソフィア、シュティーナ、シェス、何か来る!集まれ!」


 気際ざわめき、鳥たちが激しく羽ばたいて行くと集団が現れた。


 「へへへ、おまえか、若様に楯突いたのは! あれほど怒り狂ってる若様をみるのは久しぶりだぞ」


 集まってきたのは、低級モンスターではなく、人間のような姿をしたモンスター・・・・・・いや、獣人だ。

それも、どの獣人も2mは遥かに超えていた。


 「なんだ。おまえらは、半獣人か。オスなら、王国のために兵士になって戦ってきたらどうだ。女の兵士ばかり戦わせているんだぞ」


 猫耳のした体には、いくつもの古傷のある半獣人が言う。


 「へへへ、しらねーのか。王国の兵士になれるのは人間様だけだ。おれら獣人は一兵卒の兵士にもなれねー。 兵士たちの前に並んで盾になるだけだ。 ただ、耳や尻尾があるってだけでさっ。だから、裏稼業やギルドには半獣人が多くいる」


 「で、若様ってことは、王宮にいたあのキザな顔つきの野郎の手下か。まぁ、わかりやすい展開だけど!」


 「へへへ、若様を怒らせたらだれも止められない。あきらめてくれ、 そちらのお嬢さんは、若様の将来の嫁だ! 丁重につれてこいってことだ。抵抗せずきてくれないかな? 小僧は、痛めつけて殺せとの命令だが、悪気がないから、痛くないように一思いに殺してやるぜ」


 「そりゃどーも。猫のおっちゃん! こっちもあんたらには悪気がないからお仕置き程度ですましてやるよ」


 (マッスルスーツのパワーの実験につきあってもらうけどな)

 

 「おれは、トラだ!!!」


 トラの咆哮が響き渡ると半獣人が、アルトゥールに両手をあげて襲いかかる。

アルトゥールも両手を上げると掴み合いになり、身長の高いライオンの半獣人は、押しつぶそうと体重を乗せて来る。


 「おいおい、おれと掴み合いか! 人間ごときが獣人の力に勝てるはずがねーんだよ! このまま背骨を折らせてもらうぜ! キャァィィィン」


 半獣人の悲鳴が轟く。


 アルトゥールが力を込めると、半獣人の手に指が食い込み、押し返し始めた。


 「なんだ! この力は! おまえ、本当に人間なのか!!」


 半獣人は、たまらず手を振り払うと拳を握りアルトゥールの顔面に叩きつける。

当たりには衝撃波が響き渡り、顔が吹っ飛んだかのように見えたが、アルトゥールは、手のひらをひらいて軽々と止めた。

そのまま、相手の拳を握り一気に引き込み、反動をつけて半獣めがけて殴りつけると、半獣人は回転しながら吹っ飛んで行った。


 「おっと、やりすぎたかな。そちらさん達も見てないでみんなかかってきていいんだぜ」


 「くそ! なんだこいつ! みんなで行くぞ!」


 半獣人が、剣を引き抜き襲いかかって来る。


 「シュティーナ、助けに行くわよ!」


 「手出しはいいよ。ちょっといろいろ試したんだ」

  アルトゥールは、襲いかかる半獣の手首を捻り、剣を落とさせると腕を後ろに回し地面に思いっきり突き落とす。

他の半獣人は腕をひねられ間接がはずれる。

アルトゥールは、近接戦闘CQCを使いこなし、武器を使わず相手を倒して、次々と地面に激しく叩きつけて行く。


 「なんですのあれは? 相手が自分から地面に向かっていっているように見えますわ」

 「見たこともない剣術・・・・・魔法とも別物のようですが・・・・・・」


 半獣人たちは、殺害されないものの何度も何度も地面に立てつけられ、徐々に立ち上がることさえできなくなってきた。


 「くっそ、これだけは使いたくなかったが・・・・・・」


 半獣人の一人が笛を口にすると、大きく息を吐き森中に響き渡るぐらいの大きな音が響き渡った。


 激しく鳥たちが森から羽ばたいて行くと、森の奥から大きな咆哮が挙がった。

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