第11話 洞窟 その7




 崖の至るところからゴブリンが現れた。


「出口がほかにいくつかあるんだ! このままだと退路が立たれる!」


馬車が激しく速度をだして進み始めると後方には、漆黒に染められた鎧を着たゴブリンが次々と数百以上、数千・・・・・・数万と、膨れ上がりカエルのように飛びながら迫って来る。

 

「おいおい、増えているじゃないか。あのオークは、本気で言っていたのか!?」


 シュティーナ近衛隊長が馬を駆け馬車の隣に並走させて走らせた。


「私が引きつけておきます! 先に行って!」


 言い終わると馬の速度を落としゴブリンの軍勢に近づいて行く。


 馬車の中では、少女たちが身を寄せ合いエステルはお姉に抱きつき、エルフは放心状態でうなだれて、そばでケロベロスが丸くなっている。

少年のとなりにはソフィアがつかず離れるで、少年の顔を見ていた。


 シュティーナが馬を激しく駆けながら剣を天高く上げた。


「リュミエールラァーンス!」


 剣は、まばゆい輝きを放ち周囲を照らし始めると、細く鋭い閃光が幾多にも放たれて行く。

細く鋭い光は、十数匹のゴブリンを貫き倒して行く。


「だめだ。 数が多すぎる!」


 シュティーナは、何度か剣から光を放った後、魔法を使った疲労とゴブリンの数の多さに悲痛の表情を浮かべていた。


「シュティーナは、王国随一の魔法剣士ですのよ」


 ソフィアがこちらの表情を読み取ったかのように教えてくれた。


「でも、この数はシュティーナでも厳しすぎますわ・・・・・・勇者様どうかお力添えを」

「ええええっ! おれが勇者? ないないない。全然勇者じゃないから」


 ソフィアは、少年の手を取り、その手をそっと胸に押し当てて祈るようにし少年に吐息がかかるぐらいに顔を近づけ、じっと少年の目を見つめている。


「どうかお力を・・・・・・」


 少年は、ちょっと顔を赤らめ諦めたかのように頭をかいた。


(あの瞳で見つめるのはとか卑怯すぎる・・・・・・勇者かぁ・・・・・・まぁ、やってみるか)


 勇者と言われて、満更でもない照れと笑みを浮かべていた。

馬車の一番後方に仁王立ちになると、少年はウィンドウを開いて使えそうなアイコンを探す。

衛星っぽいアイコンにアンテナマークみたいなのが回復しており、「Golem」と表記されたものと、ほかにも使えそうなアイコンが数個あったのでクリックすると、座標を指定してタイマーがスタートした。


 少年は、シュティーナに前に来るように身振りで伝えると、両腕を伸ばし手の平を広げてゴブリンの方に向けると


「はあああぁぁぁぁぁ、ぬおぉぉぉ、はあはぁぁぁぁ」


 魔法を使っているように見せかけたかったがタイミングが合わず、まだタイマーがカウントしていた。


(おーい! まだかっ、まだだったのか! 早くっ)


 ゴブリンの先頭集団が馬車まで迫って目前まで来ており冷や汗が止まらない。


(やばい、追いつかれる!!!)


 突如、遠くから太鼓のような音が聞こえたかと思うと先頭集団が爆発と共に吹っ飛んで行く。

2回、3回と爆発し一部のゴブリンが散り散りになって吹っ飛んで行く。


 少年が辺りを見回すと崖の上には10式戦車がこちらと並行するように走行しておりゴブリンの先頭集団に向けて主砲から巨大な火球を作り砲撃を繰り返し、ブローニングM2重機関銃が激しい制圧射撃を繰り返してこちらを援護しているようだった。


(おいおい、なんだあの戦車は、知らないぞ。おれじゃないよな?)


 戦車のおかげで時間が稼げたので、もう一度魔法を使っているふりをした。

上空に無数の飛行機雲が一直線に伸びて来る・・・・・・。


タイミングを合わせ気合を入れたかのような声を張り上げると、急角度に曲がり一直線にゴブリンめがけて突っ込んで行く。


 激しい激突と共に、砂煙が収まると10mほどの黒い丸い球体が地面にめり込んでいた。

巨大な黒い6本足で立ち上がると、球体の後ろには円柱のタンクのようなものがあり、下部には巨大な砲身がついており、激しい回転と共に射撃が始まった。


(これがGolemか、戦艦とかにあるファランクスに足がついた感じか・・・・・・後部のタンクがレーダーか毎分4500発で射撃するってやつだな)


 砲身からの射撃は凄まじく、射線上にいるゴブリンは、一直線に道ができ倒されて行く。


(おおお、すごいじゃないか! これでゴブリンも一掃だ!)


 だが、落下したところがゴブリンの密集した中心なので、ゴブリンは、ゴーレムを中心に散開をはじめ、一斉に飛びかかった。


 ゴーレムは、射撃をしながら6本の足を動かすが、動きが遅く振り落とせない。

ゴブリンは、ゴーレムを覆うほど被さり、隙間や可動部に石や剣を突き刺して行く。


(まずい! 一旦、回収しよう! えーと、Deleteでいいのかな?)


 クリックを推すと、ウィンドウが赤く点滅はじめカウントが進み始めた。


(まさか、これは、まずいやつじゃないのか!!)


カウンターが0になると、ゴーレムからまばゆい発光が起おこったとおもうと、爆発音と衝撃波が駆け抜けていき、巨大なきのこ雲があたっていた・・・・・・。


 凄まじい大爆発と衝撃波が飛び交い凄まじい音共に砂煙があがる。

ゴブリンたちは吹っ飛び、悲鳴をあげ散り散りになって行く。


 ソフィア、シュティーナ、ルイースたちは、目を見開いてびっくりしている。


「私でもあんな威力の魔法は使えない。あれほどの魔法なぞ聞いたことがないぞ。いや、魔法であんな力を引き出せるのか?」 


 先頭集団は壊滅し、辺りは砂煙が立ち込め後続のゴブリンたちも戦意を失い追いかけて来なくなった。


「あれは、一体なのですか!? あんなすごい爆発を起こすようなものは見たことありません。 はじめて見ますわ」

「えーと、召喚魔法だよ。召喚魔法」


 苦し紛れに冷や汗をかきながら苦笑いをしていた。


(しかし、あの戦車はなんだったのだろう・・・・・・)





戦車の座席には女子高生の制服を着た少女たちが座っている。

 

「ねぇーあいつ見た? ちょっとかっこよくなかった?」

「えっそう? わたし普通かなぁー」

「貸しひとつだからね」


胸元を大きくあけて、汗だくになった体に手で扇ぎながら、少女は呟いた。


「勇者様のお名前を教えてくださいませんか? 名乗り遅れました。わたしくしは、ソフィア、ソフィア・アレニウスよ。ソフィアと呼んでください」


「えっとー、ソフィア。おれは、名前が思い出せない・・・・・・ちょっと、ゴブリンとの戦闘中で頭を強く殴られちゃって・・・・・・名前以外は、なんとなく覚えているのだけど・・・・・・」

 

 少年は、警戒しつつも答えた。

もしかしたら、なにかに利用されたりしないかという懸念があるが、この世界のことを何も分からないからだった。


「そうでしたか。それは大変なことに、じゃぁ今名前をつけましょう。う~ん、そうだわ。アルトゥール・ヴァインツィアールよ」


 ソフィアは、意味深げな笑顔を浮かべる。


「姫様!それは!」

「いいのよ。決めたことです。 あなたはアルトゥール、これからはそうお名乗りなさい」


 

一同は、王都へ向かうのであった。

 



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