第7話 洞窟 その3





  遠くから地鳴りを鳴らし地面を激しく削りたたましく馬車が走って行く。

馬車には、派手で美しい装飾がされ通常の馬車より遥かに大きく巨大で車輪は6輪と内側にも2重について無数の大型馬が狂ったようにスピードを出し邪魔するものはすべてなぎ倒して行く勢いで馬車を引っ張り疾走している。


 前後には、きらびやかな装飾が施された鎧が光を反射させ、兜からは束ねた長い髪が激しくなびいており、短いスカートから絶対領域が見え隠れする騎馬にまたがる女性兵士が幾人か見える。


  馬車の内装も外装に引けを取らない豪華で柔らかいソファーのような椅子が馬車の振動を吸収して、その柔らかいソファーに3人の女性が腰を掛けて話し合っていた。


 兜を脱いで、炎のように真っ赤な髪が特徴的な10代後半の女性で体は引き締まっている。

立ち上がり憤慨しながら赤毛のルイースが立ち上がり言う。

 

「私は、絶対に反対です! なにも姫様が、いいえ、王宮のわれわれ近衛兵が出向く案件ではありません! 辺境の警備を向かわせます。どうかご再考をお願いします。」


「そうですよ。危険すぎます! 姫様の身に何かあったらどうされるおつもりですか」

  赤い髪をした女性の横で、黒髪で黒色の質素なドレスを身にまとった小柄なパウラが身を乗り出し同意していた。


「我が領土の民が苦しんでいるのです、これが放置できましょうか。わたしくしは、民と共にありたいのです。民がいなければ国はなりたちません。わたくしたちの命より尊いのです。この国を支えている民を少しでも救い、皆と共に生きていきたいのです」

 

 その声の主は一人後方の席に座り、目を閉じて手を胸の前に当てながら語っていた。

15歳ぐらいで白く美しいドレスの上には装飾をほどこされた鎧ではあるが、非常に露出度が高く透き通るほどの色白、大きな胸の谷間がみえており座っていると白く美しいふとももが見え隠れする。


その声は、優しく力強くあり誰しもが音楽を聞いているような美しい声であり聞き入ってしまう。

この国の王女ソフィア=アレニウスである。


「姫様! そのお気持ちは立派です! ですが、姫様お一人の命はこの国の命と匹敵するのです! それを忘れないでください」


 言い終わるよりも少し早く馬車は急に止まり馬車が大きく揺れる。

どうやら、目的の場所についたようである。


 前後を挟んで騎馬に跨っていた女性兵士たちがスカートをひらつかせて勢いよく飛び降りると、馬車の扉の前に整列し赤毛のルイースが周りを警戒しながら馬車から降りる。

続いて、ソフィアが馬車の扉を開けると、白銀の鎧が太陽光に反射してその雄姿は神々しくみえ戦いの女神だと錯覚させられるほどである。


 ソフィアは、高々に装飾が施されたメイスを天に届くかのように持ち上げた。


「皆に神の御加護があらんことを!」

 

 高らかに言うと体が一瞬青白く光り、それは周りにいる兵士たちに力と勇気がみなぎってきた。


「さぁ 行きましょう」

「はい! 姫様!」


 松明に火をつけると、警戒しつつゴツゴツした岩場の洞窟内に入って行く。

ソフィアと兵士たちもゴブリンの洞窟に入って行くのは初めてであった。


洞窟の中は黒い空間が広がり松明の明るさでは壁まで届かなく、どこまでも漆黒の闇がつづき恐怖を掻き立て湿度が高くじめじめしており気温が低いためか、悪寒と恐怖が相見まえていた。

ソフィアと兵士たちは洞窟に入るとすぐに戦闘になると思っていたがそうはならなかった。


「ここには、誰もいないようです。静かで気配すら感じません」

「なにかの罠でしょうか? こちらに気がついてなにか企んでいるのでしょうか」


「姫様、十分ご注意を。あやつらは、どこから襲って来るかもしれませぬ。卑怯で狡猾、知性は低いのに悪知恵だけは働くやつらです」 


 足元はぬかるんでおり気を抜くと、足を滑らせて転倒しそうだ。戦闘になると圧倒的に不利になるのはいがめない。

 

 ゆっくりと足音を立てないように奥に進んで行くといくつかの道に分かれている。

一番地面が削れて踏み固められている道を選び更に進み急勾配の斜面を幾度も降りて奥へ奥へと突然ゴブリンに出くわした。


「敵だ! ゴブリンがいるぞ!」


 大きく叫ぶと先頭にいた赤毛のルイースは、ゴブリンの口めがけ咄嗟とっさに剣を口な中に差し込み貫く。

 ソフィアは、ゴブリンの頭にめがけてメイスを叩き込むと、凄まじい力で粉砕し木っ端微塵し笑みを浮かべる。

その他のゴブリンも同様にメイスを次々と振り回すとゴブリンは、反撃するまもなく肉片となり倒れて行った。

 

「たいしたことはありませんね。さぁ、先を急ぎましょう」


  先頭を進んでいる赤毛のルイースが立ち止まると、腕を水平に伸ばし静止を促していた。

ルイースは、なにかに気が付き聞き耳をたて周囲の音に気を集中させると、自分の鼓動が聞こえるほどの静寂につつまれる。


「人の悲鳴が微かに聞こえて来る・・・・・・」


 一同の顔が引き締まると声の方向に進み徐々に大きくなる悲痛な声、絶望の声・・・・・・

耳を覆いたくなるほどである。


「この声は、もしかして・・・」

 

「そうですわ、急ぎましょう。早く助けてあげないと」


 しばらく細い坑道進むと光がうっすらと暗闇に慣れた視界に入って来ると、少し崖のしたに広い空間があり少ない松明の数本置かれて見にくいが10数匹のゴブリンや豚の外見だが二本足であるくオーク、大型のゴブリンがうごめいている。


 目を凝らしてみると、複数の少女たちが手を縛られゴブリンたちに弄ばれているようだった。

壁際に手を固定され逃げられないようにされており、少女たちは生きているのかわからないぐらい微動にしない。


「なんてひどい・・・・・・こんな事ゆるせません!」


 一瞬口を抑えて涙ぐむ。

更に悪臭が立ち込めており手で鼻と口を押さえても嗚咽が止まらない。

ソフィア、嫌悪の形相を一瞬見せると立ちあがりメイスをゴブリンたちに向けた。


「我が身に宿る精霊たちよ!あの者共を深き眠りにつかせたまえ!」


 すぐさま、広場にいたゴブリンたちが一斉に崩れおちイビキをかいて寝始めた。

 

「今よ!」


 ソフィアが先行して崖をすべりおり、ルイースたちもあとに続いた。

崖を滑り降りると地面はネチャネチャと液体が散乱しており、勢いよく降りた兵士の何人かは体中にねっとりした液体が全身につき不快感の顔を見せたが、ソフィアは気にすることもなく縛られている猫耳の少女たち駆け寄った。


「良かった。 まだ息があるわ。 大丈夫だから必ず連れ帰り怪我の治療をしてみせますから」


 ソフィアは、額の汗を拭き取ると安堵の表情を見せた。


「ゴブリンの武器を使って、止めを刺していけ! すべて処分しておけ」


ルイースは、兵士一部に、剣の消耗を抑えるためにゴブリンの剣を拾わせ、それを使ってゴブリン共に止めをささせた。

残りは捕らえられている少女たちの介抱を手伝わせた。


「結構、多いわね」


 誰に言っている訳でもなく自分に言い聞かせるように言い放つと、捕まっている少女が多く、皆疲弊して体力も残っていない状態が見て取れ無事脱出させることが非常に困難だと理解した。


 ソフィアたちは、縛られている猫耳の少女たちの縄を解いていき、その中に金髪の長い色白の少女を見つける。


「まさか、エルフ・・・・・・なんて、ひどいことを」


 耳が尖った形をしており、微動だにせず裸で横たわっている。

ソフィアと黒いドレスをまとっている小柄なパウラは、可能な限り回復魔法を体力が尽きるまで続けて、歩ける程度まで回復させると兵士たちも肩を貸しながら、崖を登り今来た道を戻り始めた。


 突然奥の暗闇から鼓膜が破けるぐらいの声が響き渡る。


「新鮮なメスの匂いがすると思ったら上玉がいるじゃねーか! くっくっく」

 

 そこには、ゴブリンより大きく太っており筋肉や骨格もゴブリンとは比較にならないぐらい太さで豚の顔をしている。


「おまえら出てこい!! メスどもが逃げるぞ!! 一人も逃がすんじゃねーっぞ。みんな生きたままでここに連れてこい!」

 

 怒号が響き渡るとぞろぞろゴブリンたちがでて来る。


「あのピカピカのやつだけは、無傷で俺の前に連れてこい! 直々にあいてしてやる! あんな綺麗な肌を、おれがめちゃくちゃにしてやる。全身しゃぶりつくして快楽溺れるさまをみてやりたいぜ」


 下品な笑い声ともに舌から涎が垂れ落ち腕で拭き取る。


 ソフィアは、唇を噛み締めて一瞬不快な表情を見せたが目の奥の光は輝いており諦めてはいなかった。


「くっ、オークですね。ルイース、先に行って! わたくしは、食い止めてみます!」

「なにを言っているのです! 残るのなら私の方です! 姫様こそ」

「言い争っている暇はないわ! 今の状態で皆が一番生き残る確率が高い選択よ。急いで! 必ず追いついて見せます」


 ルイースは、疲弊して項垂うなだれ捕らえられていた人たちを目をむけると、さらに、奥から更にゴブリンの影が迫っており時間がないことを理解した。

 

「二人ついて来い! 残りは姫様を!!」


 ルイースが先導し捕らえられた少女たちを引き連れ暗闇の洞窟へ消えて行く。


 ソフィアは、ほっとした表情を見せたが、気を引き締め凛々しい顔になりメイスを握りしめると大型のオークに向きあった。


「ここからは、一歩も通しませんわ。覚悟しなさい!」

 「どうせ、おまえらはここからは出られない! そういう気の強いメスは大好物だぜ。おれは魔王直属の特殊部隊隊長グンター様だ! おまえを死ぬまで抱く男の名前を覚えておけ」


 ソフィアは、オークの鎧に目が行くと漆黒の鎧に紋章が刻まれていることに気がつく。


(なぜ、こんなところに魔王軍が!?)


 ソフィアは、内心冷や汗が吹きだし動揺を抑えきれずにいた。

それは、現在の状況ではなく、今後の未来に不安をよぎらせていた・・・・・・。






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