21 魔眼使いの女

「さあ、襲いなさい」


 彼らの最後尾から女の声がした。


 スレンダーな体つきで、乗馬服を身に付けている。

 月明かりに照らされたその顔は、高慢そうではあるが美しかった。


 男たちがいっせいにレナとジークリンデに向かってくる。


「リンデちゃん!」

「はい!」


 レナはジークリンデと目配せして、同時に訓練用の剣を抜いた。

 市民相手の抜刀は禁止されているが、正当防衛ならば話は別である。


「まず、動きを止める──」


 彼らがなぜ自分たちを襲うのか。


 あの女は何者なのか。


 疑問はひとまず置いておき、彼らの無力化に意識を集中する。


「きゃあっ!?」


 だが、吹き飛ばされたのはレナとジークリンデの方だった。


 全員、腕力が異常だった。

 剣を持つ手に、しびれが走っている。


 しばらくはまともに剣を振れないだろう。


「王立騎士学園の生徒みたいだけど……どう、町のチンピラに吹き飛ばされた気分は?」

「くっ……」


 悔しさに歯噛みするレナ。


「あたしの力で引き出しているのよ。彼らの潜在能力を」


 女が得意げに笑った。


 一体、この女は何者なのか――。

 レナは戦慄する。


「対象の潜在能力を限界を超えて引き上げ、さらに術者の意のままに操る──それがあたしのクラスA神器『操作の魔眼』の特性」


 女はますます得意げになって説明した。


「さあ、そいつらを犯し尽くせ。絶望の声を奏でろ! 負の感情に身を浸すことで──浸し続けることで、あたしの心は加速する! 『次なる段階』に達することができるほどに──」


 男の一人がヨダレを垂らしながら近づいてくる。


「嫌……来ないで……」


 レナは青ざめた顔で後ずさった。

 と、


「この二カ月で、人を襲う神器使いが増えたな」


 眼前を、黒い何かが通過する。


 次の瞬間、レナを襲おうとしていた男の頭が粉々に吹き飛んだ。


「ぁ……ぁぁ……」


 レナは呆然となってその場にへたりこむ。


 頭部を失った男の体が力なく倒れる。


「な、なんだと……!?」

「誰の仕業だ……!?」


 彼女と、残った男たちは驚きと恐怖の声をもらした。


 そんな声に応えるように、路地の向こうから人影が現れる。


「あなた……は……!」


 その顔を見て、レナはますます呆然となった。


 満月に照らされたのは、艶やかな黒髪と澄んだ青い瞳。


 身に付けているのは、裾の長い黒衣。


 手にしているのは、身の丈をはるかに超える巨大な槌。


「嘘……そんな……」


 隣で、ジークリンデも息を呑んでいる。


「どうして……ミゼル、くん」


 かすれた声でつぶやくレナ。


 ずっと焦がれていた。

 ずっと会いたかった。


「やっと、会えた……!」



※ ※ ※


次回で最終回です。

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