20 事件の後

 SIDE レナ



 リオネル伯爵が殺害された。


 そのニュースは瞬く間にフリージア王国全土を駆け巡った。

 のみならず、周辺諸国にまで驚きを持って広がっていった。


 犯人は王立騎士学園に通う、一人の学生だという。


 名前はミゼル・バレッタ。


 彼の存在は国際指名手配されることになった──。




「ミゼルくん、どうして──」


 レナ・ハーミットはため息をついた。


 模擬戦の授業にまるで身が入らない。

 先ほども学園ランキング50位台の女子生徒から一本取られてしまった。


「今ごろ、どうしてるんだろ……」


 心配で、胸が張り裂けそうだ。


 王立騎士学園二年生、ミゼル・バレッタがリオネル・ラバン伯爵を殺害してから五日が経っていた。


 彼は国際指名手配を受け、王立騎士団を中心にして捜索活動が続いている。


 だが、その足取りはまったくつかめないそうだ。


 学園内で暴れ回ったアーベルたちとの戦いと、何か関係があるのだろうか。


 あのとき、ミゼルは巨大な槌を手に、黒い衣装をまとって戦っていた。

 鮮血にまみれ、アーベルを殺したミゼルの姿に、体が凍りつくような畏怖を覚えた。


 そして、同時に──美しいと思った。


 魂を奪われる、とはこのことか。


 一片の容赦もなく敵対者を殺してみせたミゼルの姿が、今もレナの心に焼きついている。


 彼への思慕を忘れることも、抑えることもできず──。


 やがて、ミゼルが学園を去ってから二か月が過ぎた。




 その事件が起きたたのは、満月の夜のことだった。


「あーあ、居残り訓練ですっかり夜になっちゃった……」


 ため息交じりに、レナは夜道を歩く。


「最近、熱心ですね。レナ先輩」


 隣を歩くジークリンデが言った。


「んー、まあね」

「……ミゼル先輩のことを忘れるため、ですか」

「あはは、リンデちゃんはお見通しか」

「たぶん全員が気付いてます」


 ジークリンデはレナを見つめた。


「忘れられないんですね? あの人のことを」

「まあ、ね」


 レナがうつむく。


「ふん、恋する乙女ってやつか。安心しろ、俺たちがそんな奴のことは忘れさせてやるぜぇ」


 と、


「そろいもそろって美人じゃねーか」


 下卑た声がいくつも響いた。


「あなたたちは──」


 前方から、全部で二十人ほどの男たちが歩いてくる。


 ごろつきのような風体で、いずれも額に奇妙な紋様が浮かんでいた。

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