18 その先へ


「馬鹿な──」


 俺の眼前で、リオネルが呆然と目を開いていた。


 もう一度見下ろせば、やはり俺の胸に突き刺さった伯爵の腕が見える。


 確かに、俺は心臓を貫かれたらしい。

 俺はまるで他人事のように感じていた。


 どう考えても致命傷だというのに……。


 なのに、なぜ生きている?

 なのに、なぜ痛みすら感じない?


 体中から湧き上がる、この膨大なエネルギーは一体なんだ──?


 体中が、熱い。

 力が湧き上がってくる感覚があった。


 今まで以上の、圧倒的な力が。


「なんだ……なんなのだ、貴様は……!?」


 伯爵がうろたえたように後ずさる。


 ずるり、と俺の胸に突き刺さっていた奴の腕が抜けた。


「なぜ、心臓を貫かれて生きている……!? それに、貴様から感じる力は──」


 俺の胸にぽっかりと空いた穴がすさまじい勢いで治癒されていく。


 破れた心臓が再生し、血管がつながる。

 肉が盛り上がり、黒衣が元通りになった。


「『次なる段階』の力ではない……!?」


 伯爵が青ざめた顔でうめく。


「貴様の力は、まるで――」


 まさか。

 俺はハッと気付く。


 俺の中から爆発的な勢いで吹き上がる力──その正体は。


「『次なる段階』のさらに次の段階・・・・・・・──?」


 神に限りなく近づいた段階の、さらに先。


 俺は……俺の力は、神そのものになろうとしている──のか?


 これこそが、神器使いがたどり着く境地の極致。


 これこそが。


「だ、だが、それでも!」


 伯爵がふたたび突進してきた。


 今までの中で最高の速度だ。

 あまりのスピードに周囲の大気が裂け、衝撃波の嵐となって吹き荒れる。


 壁が、天井が、床がずたずたになって吹き飛んだ。


 がごぉっ……!


 床が完全に砕け、俺たちは同時に落下する。


 俺は中空の欠片を踏み台にして、跳んだ。

 二度、三度──高く跳び上がり、天井を次々と突き破って、城の最上部にやって来る。


「さすがに墜落死などはせんか」


 伯爵がすぐ側に降り立った。


 俺と同じ要領で移動したんだろう。


 身にまとった黒い甲冑は虹色のオーラに包まれている。


『次なる段階』の力を最大限に発揮しているようだ。


 一方の俺は、ヴェルザーレや『死神の黒衣』が虹色の光と銀色の炎に包まれていた。


 本能的に実感する。


 神器の性能が、さらにワンランク上がっている、と。

 ヴェルザーレは『次なる段階』によってクラスSから、それを超えた『クラスSS』ともいうべきランクへと性能を上げている。


 なら、今の俺が操るヴェルザーレは、さらにその先へ。


 いわば『クラスSSS』まで上昇している、ということなのか。

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