17 死と破壊、最終決戦6


 反応できなかった――。


 戦慄する。


 いや、これは『戦慄』じゃない。


 神器を得て以来、初めて覚えたかもしれない感情。


 恐怖……だ。


 俺が今の一撃を避けられたのは、完全に運だった。


「ぐっ……」


 裂かれた脇腹に灼けるような痛みが走っている。


 次は殺されるかもしれない――。


 凍り付くような恐怖感が、抑えきれずにこみ上げる。


「さすがに素早いな。心臓を貫いてやろうと思ったが……外したか」


 伯爵の右手が血に濡れていた。


「なら、次はもっと速くするぞ」


 ふたたび伯爵が俺の眼前に現れる。


「速い……!」


 いくらなんでも、速すぎる!


 奴がまとっているのは、俺の『死神の黒衣』と同じく運動能力増幅系の神器だろう。


 おそらくは、アーベルたちがまとっていた『魔狼の装甲』の上位互換バージョン。


 だが、その増幅率は『死神の黒衣』をも超えているようだ。

 奴のスピードに、俺はついていけない。


「はあっ!」


 気合とともに繰り出される、伯爵の蹴り。


「くっ……!」


 俺はヴェルザーレを振り回し、それを迎撃した。

 がつっ、と重い衝撃が走り、俺は槌ごと吹き飛ばされる。


「スピードだけじゃない。パワーもけた違いに上がっている……!」


 空中でなんとか体勢を立て直し、着地する俺。


「戦い慣れているようだが、いつまでも凌げんぞ。さあ、今度の速度はどうだ?」


 その言葉が終わるのと同時に──。


「が、ああっ……!?」


 すさまじい衝撃が俺の胸元を貫いていた。


「ぅぅ……くっ……ふぅっ……」


 見下ろせば、胸元に伯爵の腕が埋まっている。


 肘のあたりまで。


「っ……う……ぁ……」


 喉から、押しつぶされたような声がもれる。


 心臓を貫かれたのだ。

 頭の片隅で、妙に冷静に自分の状況を判断していた。


 痛みは、すでになかった。


 全身が、やけに冷たい。


 感覚が、やけに薄い。


 俺は、生きているのか?


 すでに死んでいるのか……?


 いや、心臓を貫かれて生きているはずがない。


 内心で苦笑して──ハッと気付く。


「生きて……いる……!?」

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