16 死と破壊、最終決戦5

 俺は魔狼に向かって疾走する。


 大部分が消滅したはずの『死神の黒衣』が再生し、ふたたび俺の体を覆う。


 ひるがえる漆黒のマントは、ヴェルザーレと同じく虹の輝きを宿していた。


 もっと、速く!


 俺の意思に応じ、その輝きがさらにあふれる。


 もっと──速く!


 速度が、上がる。


 上がる。


 上がる――。


「神器のクラスが一つ上がったか」


 伯爵は冷静につぶやいた。


 あいかわらず泰然として、動じた様子がないのは大した精神力だ。


「単純なパワーやスピードでは、我が魔獣は倒せんぞ」

「どうかな──」


 俺は魔狼に肉薄し、ヴェルザーレを振り下ろした。

 例によって、魔狼の全身が霧状になり、ヴェルザーレの一撃を避ける。


「まだだ!」


 俺は槌の柄にありったけの意思を込めた。


 心の奥底から湧き上がり、ほとばしるような純粋な殺意を。


 殺す。

 壊す。


 伯爵の神器を──!


 ヴン……!


 ヴェルザーレの虹色の輝きに、銀色の炎のような光が混じる。

 その炎に触れた霧状の魔狼が、じゅっ、と音を立てて蒸発した。


「何っ!?」


 さすがの伯爵も動揺の声を上げた。


「吹き飛べぇぇぇぇぇっ!」


 俺はヴェルザーレを旋回させた。

 打撃範囲内の霧がまとめて蒸発する。


「馬鹿な、私の神器が消し飛ばされるだと!? ちいっ」


 伯爵は舌打ち交じりに跳び下がった。


 魔狼を残らず蒸発させ、奴が無防備になったところで叩き殺そうと思ったのだが──。


 いち早く察知したか。


 残った霧が、リオネルの全身にまとわりつく。


「『魔獣』では勝てぬな。『装甲』でお相手しよう」


 霧は黒い甲冑へと姿を変え、伯爵の全身に装着された。


 学園の戦いでアーベルたちが身に付けていた黒い甲冑と似たようなデザインだ。


 ただし、全身の装飾が多く、もっと派手派手しい印象を受ける。


「本来、私自らが戦うのは避けたいところだが──今は、危険を承知で死地に飛びこまねば活路を開けぬ」


 伯爵の体が、ぐん、と沈みこんだ。


 次の瞬間、俺の眼前に伯爵が出現している。

 信じられないほどの高速移動。


「っ……!」


 俺は反射的に横に跳んだ。


 ほぼ同時に、熱い衝撃が脇腹をかすめる。


 再生した黒衣がふたたび裂け、血が噴き出した。

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