8 対峙の時

 気が付くと、広大な部屋の中にいた。


 ベアトリスの姿はない。


 四方にはステンドグラスの窓。


 部屋の奥には巨大な祭壇。

 まるで、教会のような雰囲気である。

 その祭壇の側には、一人の男がたたずんでいた。


「ようこそ、死の女神ヴェルナの使徒よ」


 すらりとした体つきの、四十代後半くらいの男だ。


 鋭い眼光にわし鼻と口髭。

 身に付けた衣服や装飾品は、いかにも高価そうだった。


 こいつが──この男こそが。


「私はリオネル・ラバン。初めまして、だな」


 俺は無言で『死神の黒衣』をまとい、さらに『審判の魔眼』を発動させた。


 果たしてこの男のスコアは――。


「くっ……!」


 その瞬間、すさまじい数の犯罪映像が俺の脳裏に流れ込んできた。


 殺される少年。

 殺される少女。

 殺される男。

 殺される女。

 殺される中年。

 殺される老人。

 殺される赤ん坊。

 そして、殺される無数の人たち。


 この男は私利私欲のために。

 あるいは自身の嗜虐欲を満たすために。


 数多くの人間をその手にかけてきた。


 直接殺した人数だけでも数千人。


 間接的に殺害した人間も合わせれば、軽く万は行く。

 今まで出会った中で、桁違いの殺人数だった。


「有罪」


 俺は静かに告げた。


「ん、どういう意味だね?」

「聞いた通りの意味だよ。お前は――」


 この男を生かしておくわけにはいかない──。


 心の中で、激しい炎が燃え上がる。


 必ず俺のヴェルザーレを叩きこんでやる。


 とはいえ、それは奴の話を聞いてから。


 奴は神器について、俺が知らない情報を得ていそうだ。

 殺すのは、それからでいい。


「……いや、先に話をしよう。俺の名はミゼル・バレッタだ」


 俺は名乗り返した。


「お招きいただき光栄だな、伯爵閣下」

「ふむ。こうして会えて嬉しいよ。君を恐れたこともあったが……今となっては、君を待ち焦がれていた」


 俺の内心を知ってか知らずか、リオネルは愉快げに笑った。

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