7 道を開く
「あまり長話をしていると、ここも王立騎士団に嗅ぎつけられないとも限りませんね。そろそろ道を開きましょう」
ベアトリスが言った。
「道?」
「大いなる
厳かに告げるベアトリス。
メイド服から黒い霧が立ち上る。
その霧が泉を覆い──、
「これは……!?」
泉の水面が黒紫色の輝きを放った。
「伯爵の部屋まで続く直通の道です。ここに飛びこめば、異空間を通ることができます」
と、ベアトリス。
「これも君の神器の力か?」
「いえ、これは伯爵のクラスS神器──『
ベアトリスが説明する。
「どうか、あなたがあの方のお力になってくれますよう。どうか……あの方をお守りくださいますよう。それがあたしの願いです」
「……約束はできない」
言いかけたところで、ベアトリスが突然顔を寄せてきた。
完全な不意打ちで、俺は彼女に唇を奪われる。
「お願いしますね、ミゼル様」
一瞬の口づけの後、ベアトリスはふうっと息を漏らす。
「約束は、できない」
俺はもう一度言った。
俺たちの視線が絡み合う。
「……では、こちらへ」
彼女はそれ以上何も言わず、俺の手を取った。
そして、俺はベアトリスとともに泉の中に飛びこんだ。
伯爵は、おそらく討つべき『悪』だろう。
学園内でアーベルやナーグを暴れさせたことも。
『殺戮の宴』の背後にいたことも。
断罪するのに十分な理由だ。
虐殺伯という異名からも、これまでに多くの殺人を犯していることだろう。
実際に会ってみて、あらためてスコアを判定してやるが──まず、間違いなく俺が殺す対象にしている『悪』だ。
だが、俺が知らない神器の情報をいろいろと知っていそうなことは確かだ。
殺すのは、その情報を得てからでも遅くない──。
泉の中に入ると、水中ではなくフワフワとした浮遊感のある異空間だった。
黒紫色の空間を、俺はベアトリスに手を引かれながら進む。
この先に、伯爵がいる。
対峙のときは、もうすぐだ──。
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