9 伯爵との対話


「かつて、君の存在を我が神ジャハトマから聞いたとき、私は戦慄した。いずれ私を殺しに来るかもしれない、とね」


 と、伯爵。


「ただの神器使いが相手であれば、たとえクラスSの神器であろうと私の敵ではない。だが、その者が『次なる段階』に達していれば、話は別だ。私を上回る戦闘能力を発揮するかもしれない……」


 俺を見つめる伯爵の目には、わずかなおびえがにじんでいるように見えた。


「前にもクラスS神器を使う女騎士と戦ったが、彼女はそれに達していなかった。ゆえに退けられた。だが君は──どうなのだ?」

「『次なる段階』というのは、そもそもなんなんだ?」


 俺は逆に聞き返した。


「──ふむ。では、説明しておこうか」


 リオネルは腕組みをしてうなった。


「それを聞くことで、君をこちらの陣営に引き入れられるかもしれんからな」


 陣営……か。


 奴は、同じような神器使いと同盟でも組んでいるんだろうか。

 とにかく、情報収集だ。


「『次なる段階』について説明するには、まず神器のことから話さねばなるまい」


 リオネルが言った。


「ミゼルくん、君は神器についてどこまで理解している?」

「理解といっても……な。女神から授かった道具であり、それぞれが超常の力を発揮するアイテム、ということくらいだ」

「ふむ。確かにそうだ。神器とは人知を超えた道具。そして同時に訓練用具でもある」

「訓練用具……?」

「そう、訓練だ。人の身で、人以上の存在に至るための──」


 厳かに告げるリオネル。


「神器が人に与えられるのは、神の気まぐれであったり、なんらかの試練の報酬であったり、と様々だ」


 俺の場合、十三の神器を授けられたのは死の女神の気まぐれだった。


「私の場合は、遠い異国の地で破壊の神ジャハトマより神器を授かった。神の試練を乗り越えたことで、な」


 リオネルが言った。


「だから、神器を与えられる理由は様々だ。ただ、究極的な目的はひとつ。先も言ったように、神器とは訓練用具なのだから」


 その口元に笑みが浮かぶ。


「つまり──神器とは、人間を神と同等の次元にまで引き上げるための装置ということだ」

「何……!?」

「言い換えれば、人間を新たな神として生まれ変わらせるための道具──ということだな」


 リオネルはニヤリと笑って俺を見た。

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