2 伯爵の元へ

「伯爵……?」

「我が主、リオネル伯爵です」


 まあ、そうだろうな。

 俺の下に伯爵が向かわせた手勢は、執事のガストンだけじゃなかったわけか。


「もはや、あなたがこの学園に留まることはできません」


 ベアトリスが告げる。


「あたしについてきてください。それとも王立騎士団とことを構えますか?」

「……ちっ」


 俺はベアトリスをにらんだ。


「ここで君を殺して、それから『認識阻害の指輪』を使う、と言ったらどうする気だ?」

「ご自由に。あたしとて任務のためには死を覚悟しておりますので」


 ベアトリスは微笑んだままだ。


「ですが、もはや手遅れですよ。すでにあなたの戦った姿を──その映像を、学園中に流しましたから」

「なっ……!?」

「あたしの神器は『映像投影の指輪』。それくらいのことは造作もありません」


 ベアトリスは得意げだった。


「ここであたしを殺して、王立騎士団相手に『認識阻害』を行ったところで、他の場所であなたの『犯行』を見た者たちまで全員の認識を変えられますか?」

「お前……っ」

「ですから、伯爵の下まで来ていただきたいのです。すべてはそれから。その後に──あなた様が望むのであれば、状況が好転するかもしれませんよ?」


 俺はベアトリスをにらんだ。


「あたしのやり口が気に食わないのであれば、伯爵の居城に来た後に聞きます。そこであたしを好きにしてくださいませ。殺すなり、あるいは犯すなり……ふふふ」


 言いながら、彼女は俺に横から抱き着いてきた。


 ちろり、と舌で俺の頬を軽く舐める。

 さらに胸元を大きく開くと、豊かな乳房がこぼれ出そうになった。


「あたしは抵抗しません。この体を抱く、という目的で城まで来てくださってもいいのですよ?」


 別に彼女に誘惑されたからではないが、やはり気持ちは大きく揺らいだ。


 どうする?


 どうすればいい?

 目まぐるしく思考が行き来する。


 ──が、答えは半ば出ていた。


 留まれば、俺は殺人犯だ。


 ベアトリスが飛ばした俺の戦いの映像は、どの範囲にまで広がっているか分からない。


 それを見た人間の総数も、詳細も、何も分からない。

 その全員を突きとめて認識阻害するなど不可能である。


「──案内しろ」


 俺は肚をくくった。


「リオネル伯爵の下へ」

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