30 急転

 だだだ……と足音高く複数の人影が近づいてくる。

 いずれも女性の騎士たちだ。


 身にまとうのは、きらびやかな銀の甲冑。

 王立騎士団の甲冑である。


「あたしは王立騎士団、三番隊副隊長デルフィナ」


 先頭に立つ大柄な女騎士が剣を抜いた。


「ミゼル・バレッタ。王立騎士学園内での生徒殺害の現行犯で、お前を逮捕する」


 王立騎士団が、俺を逮捕──。


 俺は呆然と彼女たちを見つめた。


 あらためて状況を整理する。

 足元には、頭部を潰されたアーベルの死体が転がっている。


 俺はその返り血を少なからず浴びていた。


 手にした槌も、赤い血で染まっている。


「……言い訳はできない状況だな」


 俺はどこか他人事のような気分でつぶやいていた。


 突然の出来事に思考の一部が凍り付いたかのようだ。


 前方には王立騎士団の女騎士たち。

 すぐ後ろにはレナたち。


 逃げたところで、どうしようもない。


「ならば、手は一つ──」


 俺はすぐに「4」と刻まれた宝玉を取り出した。


 神器を解放する。


「『認識阻害の指輪』──効果発動アクティブ


 こいつで場の全員の認識を書き換えるしかない。

 俺が、アーベルを殺したという認識を──。


「申し訳ありませんが、その指輪を使わせるわけにはいきません」


 言葉通り、指輪の力が作動しない。

 なんだ、これは──?


「その神器の認識改変は、他の神器が発動している場所では使えない──調べはついていますよ」


 こつ、こつ、と足音を立てて近づいてきたのは、一人の女子生徒だった。


 誰だ、こいつは。


 と──その姿がぼやけ、かすみ、まったく別の姿へと変化する。

 メイド服を着た女の姿へと。


「お前は……!?」

「あなた様を迎えにきました。ミゼル・バレッタ様」


 優雅に一礼するメイド女。


「あたしはベアトリス・フラル。さるお方の使いとして、ここに参りました──」

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