29 一撃

「不意打ちかよ……ふざけやがって──ぐうっ!?」


 うめいたアーベルの背中に、今度は三本の剣が突き立った。

 レナ、ジークリンデ、ターニャ先輩の三人が同時に繰り出した斬撃だ。


「あたしたちだって!」

「師匠を──ミゼル先輩を守ります!」

「君にだけ戦わせたりはしない」


 叫ぶ彼女たち。


「よくやった──」


 俺は彼女たちに微笑む。


 大きく体勢を崩したアーベルに向かって、俺はヴェルザーレを振り上げる。


「お、お前ら、よってたかって──騎士なら正々堂々と勝負しろ!」


 奴が悲鳴を上げた。


「正々堂々? 勝負? どちらも必要ない」


 俺は容赦なくヴェルザーレを振り下ろした。


 ぐしゃり。


 肉が潰れ、骨が砕ける嫌な音が鳴り響く。


「悪への対処はただ一つ。どんな手を使っても倒し、殺す。それだけだ──」


 頭部を完全に粉砕されたアーベルを見下ろし、俺は静かにつぶやいた。




「ミゼル……くん……」


 レナたちは青ざめた顔で俺を見つめている。


 アーベルに追い詰められた恐怖が残っているのか。

 それとも、俺に対する恐怖なのか。


 アーベルを平然と殺してみせた、この俺に対する──。


 彼女たちからすれば、俺は人間離れした戦闘力で暴れる、ただの殺人者かもしれない。


 それこそアーベルやナーグたちと大差ない存在に映っているかもしれない。


 ジークリンデに関しては、以前に『殺戮の宴』絡みで俺の戦いぶりを見せているから、少し違う感想を抱いているかもしれないが……。


 レナたちの視線が、痛い。


 神器を手に入れてからは、毎日のように悪人を殺してきた。


 殺して、殺して、殺し続けてきた。


 だが、それで心が痛んだことはない。


 それよりも──レナたちの、どこかおびえたような視線の方が痛い。


 自分でも意外だった。

 思った以上に、自分自身の心が揺れていることに。


「レナ、ジークリンデ、ターニャ先輩、俺は──」


 言いかけて、言いよどむ。


 俺は彼女たちに何を言いたいんだろう?


 何を、伝えたいんだろう?


 俺のことを、どう思ってほしいんだろう。


 俺のことを──。


 いくつもの思考が、感情が、入り乱れる。

 と、


「そこまでだ!」


 声とともに、廊下の向こうから数人の人影が駆け寄ってきた。

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