21 少女騎士の戦い2


「ミゼルくんは、どうしたの?」

「はっ! 俺よりミゼルが気になるのかよ!」


 アーベルはますます表情を歪めた。


「あいつは他の奴と戦ってるさ。その間に、俺は暴れまわることにした。どいつもこいつも皆殺しだ……!」

「どうして、そんなこと──」


 少なくともミゼルがアーベルに倒されたわけではないことを知り、安堵する。


 同時に、アーベルへの不気味さが増した。


 以前の彼とは、まるで違う。


 いや、あるいは。

 これこそが彼の本性なのか。


 爽やかで物腰柔らかな貴公子然としたアーベル・ヴァイゼル。


 その内面は、傲岸で、攻撃的で、暴力的で──。


「気に入らねぇ……お前もミゼルも気に入らねぇ……!」


 アーベルがうめいた。


 整った顔だちに血管が浮かび、憤怒の表情が浮かび上がる。


 かつての、姿はすでにどこにもない。

 嫉妬や攻撃衝動に取りつかれた、浅ましい少年の姿がそこにはあった。


「ミゼルが追いついてくるまでに、お前をめちゃくちゃにしてやる。くくく……悔しがるだろうな、あいつ……!」


 舌なめずりをしながらアーベルが近づいてくる。


 レナは鞄から素早く剣を抜いた。

 訓練用で刃を潰してあるが、彼女ほどの使い手なら真剣とそれほど変わらない攻撃力を発揮できる。


「へっ、お前じゃ俺に勝てねーよ。今の俺は──神の力を得ているんだ!}


 吠えて、突進する黒い戦士。

 速い──。


『迅雷』の二つ名を持ち、速力には絶対の自信を持つ彼女だが、それでもアーベルの動きについていけない。


「きゃあっ……」


 一瞬にして、剣を跳ね飛ばされていた。


「ははははは、まずは裸に剥いてやるぜ!」


 アーベルの手がレナに伸びる──。


「ぐうっ……!?」


 次の瞬間、彼の手から鮮血が散った。


「レナ先輩、ご無事ですか!」


 横合いから剣を突き出した姿勢で、一人の女子生徒が叫ぶ。


 金色のロングヘアに青いリボン。

 気真面目そうな顔立ちをした美しい少女である。


 一年生にして学園ランキングの頂点に立つ『女帝』──ジークリンデ・ゼルーネだった。






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