20 少女騎士の戦い1


 SIDE レナ


 レナは学園の校舎内を走っていた。


 突然現れた黒い鎧をまとったアーベルとナーグ。


 そのうちのナーグは、ミゼルが倒した。

 頭部を吹き飛ばし、絶命させていた。


 正直、少なからずショックを受けていた。

 相手は無差別に生徒を傷つけていたし、それを阻止するためだったのは理解できる。


 だが──恋する相手が、平然と人を殺す場面は衝撃的だった。


 胸が、痛い。

 心臓が破裂しそうなほどに鼓動を早めている。


(ミゼルくん……)


 心の中で、彼の名を呼ぶ。


 ミゼルの瞳は、見たこともないほど冷たかった。

 普段もクールな性格だが、先ほどの彼はそれとも違う。


 もっと冷たく、もっと無感動で、もっと酷薄で──。


 まるで虫でも潰すように、ナーグを殺してみせた。


(ミゼルくん……!)


 もう一度、彼の名を心の中で呼ぶ。


 恋慕の気持ちは変わらない。


 だが、それだけではない。

 彼に対して、初めて畏怖の感情が芽生えていた。


「ミゼル……くん……っ」


 声に出して、うめく。

 ギュッとつぶった目から涙がひと筋こぼれ落ちた。


「なんだ、やっぱりあいつが気になるか?」


 背後から声が響いた。


 えっ、と思って振り返ると、そこには黒い鎧を着た秀麗な少年の姿。


 アーベルだ。


「ど、どうして──!?」


 レナは戦慄した。


 ミゼルと交戦していたはずだが、彼はどうなったのだろうか。


 かつ、かつ、と足音を立て、アーベルは無言で近づいてくる。

 ぎらついた目でレナを見据えながら。


「俺は学園ランキング上位で、貴族の生まれだ。将来の王立騎士団幹部の座は約束されている。女なんて向こうから寄ってくる。いくらでも、な」


 鼻を鳴らすアーベル。


 粘ついた視線が彼女の全身を這い回った。

 怖気が、走る。


「なのに、お前は俺になびかなかった。あまつさえ、ミゼルなんかに気のある素振りを……くそ、なぜだ!」

「……あたしが誰を好きになろうと、あたしの勝手じゃない」


 レナは気丈に言い返した。


 アーベルの不気味さに呑まれそうだ。

 気力を振り絞り、必死でこらえた。


 こんな男に、絶対負けない――。






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