11 問答


 俺は老執事ガストンと対峙していた。


「ミゼル様、あなたはかつて快楽殺人者の集団『殺戮の宴キリングパーティ』を壊滅させましたね?」


 ガストンが温和そうな笑顔でたずねた。


 以前に戦った傭兵ガイウスの話では、『殺戮の宴』はリオネル伯爵とつながっていたということだ。


 伯爵は俺が『殺戮の宴』のメンバーを皆殺しにしたことを把握しているんだろうか。


 あるいは単なる鎌かけか。


「なんの話か分からないな」


 俺はガストンをにらんだ。


「否定は無意味です。調べはついておりますので」


 慇懃に一礼する老執事。


「私がお聞きしたいのは、ただ一つ。あなたの真意です」

「真意?」

「あなたは、伯爵に敵対するおつもりですか?」


 ガストンが俺を見据える。


「そういう質問をするということは、『殺戮の宴』の背後には伯爵がいる、ということでいいんだな?」

「質問をしているのはこちらです」


 と、ガストン。

 温和な笑顔はまったく変わらない。


「ご返答願えますか。答えがイエスであれば、私はあなたを始末せねばなりません」

「始末だと」

「ですが」


 眉根を寄せる俺に、ガストンは笑みを深くして、


「ノーであれば……あなたを伯爵の下まで案内いたしたく存じます。我が主も、あなたの力は高く評価しておりますゆえ。味方になってくれるのであれば、これほど心強いことはない──と」

「味方? 伯爵の政争の手伝いでもしてほしいのか? それともフリージアに敵対する国と戦ってほしいか?」

「どちらとも違います」


 ガストンは笑みを消し、真摯な表情で答えた。


「あの方が見ているのは、はるかな先──神の領域」

「神の……?」


 俺はふたたび眉根を寄せた。

 気になる話ではあるが、いつまでも問答をしていられない。


「長話をしている時間はないんだ。そこをどけ」


 俺はヴェルザーレを構え直した。


「それはできません」

「なら──力ずくで通る!」


 ばさり、と漆黒のマントの裾をひるがえし、俺は突進する。


「通しませんよ。私にこの『盾』がある限り」


 ガストンの前面に暗褐色の盾が出現した。

 あの盾はただ防御するだけじゃなく、こっちの攻撃をそのまま跳ね返すようだ。


 さすがにヴェルザーレの破壊エネルギーをまともに受けたら、俺だって骨ごと粉々だろう。


 どう攻略するか──。

 考えつつ、俺はフェイントを織り交ぜ、左に跳んだ。


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