10 虐殺伯の見据えるもの2

 リオネルはメイド少女のベアトリスを抱きながら、その心を過去の出来事へと飛ばした。

 彼にとって大きな転機となった、その出来事へと。


 かつて――リオネルは遠い異国で破壊の神ジャハトマと出会った。


 そして、神器を授けられた。


 その神器を使って、伯爵としての権力を増大させ続けた。

 政争も、あるいは裏社会の統治やそこから発生する莫大な利益も――。

 神器の力を使えば、造作なく得ることができた。


 だが、真の目的は別にある。


「私は求める──超越者への道を」

「ふあぁ、ああっ、リオネル様ぁ……」


 リオネルの述懐にベアトリスの喘ぎ声が重なる。


 大きく腰を突き上げながら、彼は己の思考を整理した。


 神器を持つだけでは足りない。

 その力を使いこなし、さらに『次なる段階』へ進む必要がある。


「そして、同じ力を持つ仲間を」


 神器使いを見出すために、もっとも手っ取り早いのは『戦い』である。

 命を懸けた戦いの中でこそ、神器を操る素質はあらわになる。

 そうやって見出した素質者に、神器を分け与える。


 あるいは戦いに引き寄せられ、別の神器使いが現れることもある。

 老執事ガストンは、伯爵が神器を与えた最初の人間だった。

 思惑通り、彼は『次なる段階』に進んでくれた。


 逆に期待外れだった者もいる。

 最強の傭兵であるガイウスは、『次なる段階』まで進めなかった。

 あえなくミゼル・バレッタに殺されてしまった。


「私は作り出す──超越者の軍団を」


 朗々と告げる。


「あああぁぁぁ……っ」


 すぐ目の前でベアトリスが絶頂の声を上げた。

 だがリオネルの目には、もはや彼女は映っていない。


「破壊の神ジャハトマよ、あなたに捧げる最強の軍団です」


 恭しく告げる。


 彼に力を与えた破壊の神ジャハトマが、どこかで聞いているだろうか。

 だが神も、よもや伯爵の内心──その深奥にまでは気づいていまい。


(私が作り出す軍団は、ジャハトマのしもべなどではない)


 破壊の神には決して聞かせられない真実を、心の中でつぶやく。

 それは、神に挑む集団だ。


 そう、私こそが新たな世界の神となるのだ──と。


 秘めた思いを、伯爵は内心で熱くつぶやいた。



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